1-3 白狼牙の里と天人の後継者

第8話 天人を詐称してもいいだろうか

 Q:俺という人間は、この世界の住人からどのような存在に映るだろうか?

 A:得体のしれない異邦人。


 俺は地球という場所からやってきた異世界人である。

 先祖が残した祠に祈ったら不思議な事が起こって、世界が凍り付いてしまった。

 もう一度願ったら、この世界へのゲートが出現しここに居る。


 ――という基本情報をフラウに伝えるかどうかを悩んでいる。


 フラウが話す天人伝説。星の海を渡って旅立ったという神様のごとき種族。

 うちの爺さんから聞いていた、祖先が異世界人であるという与太話よたばなし


 そして、地球と俺の身に起こった不可解な出来事。

 これらを総合すると、。という仮説がたつ。


 だが、それはあくまで仮説だ。


 実際俺は天才ではあるが、不思議な力は何もない。ただの人間である。

 フラウが言うように、空を飛んだり、一晩で建築を行うなんて力は持ち合わせていない。正直なところ、十中八九じゅっちゅうはっく、正解だと思っているが(世界を凍らせるという異常事態を引き起こしてしまったからな!)、俺=天人を裏付ける証拠もなく、証明も難しいだろう。


 だがそれでも、俺はあえての選択肢を選んだ。


「フラウ。俺は星の海の彼方に去ったという天人の末裔なんだ。ある目的のためにこの世界にやってきた。理由は明かせないが、天人の遺跡とやら解決の鍵がある。俺はこの世界の事を何も知らない。命を助けた貸しではないが、俺を助けてくれないか?」


 どうだ。いい面の皮だろう。

 詐称さしょうとはこうやる。

 どうせ嘘をつくなら、自身満々にだ。


 フラウの話ぶりからすると、天人というのは、とても神聖視されているらしい。

 さらに、フラウたち白狼族はくろうぞくは天人の召使いであったらしい。

 今でも天人信仰が残っているのならば、この世界で活動していくうえで、明らかな異邦人である俺は、天人を名乗ることが有利に働くと考える。


 特に、を考えると、そういった嘘が必要だ。

 さて、この嘘が信じてもらえるか……


「――え、ええぇぇえ!? ふ、フミナ天人様やに!? す、すごいに! それなら神獣様を殺しちゃうのも分かるに! 協力するに! させてほしいに!」


 簡単に信じた。

 この子、素直だなぁ……


 ついでと言ってはなんだが、その設定を補強するために、フラウにゲートを見せた。光り輝く空中に浮かぶ平面。俺の感覚で言えば、十分に不思議な現象だ。


 さて、フラウの目にはどう映るか……。


「な、なんなんにこれは!? こんなの初めて見たにぃ! すごいすごい! ここを通ってフミナは来たにぃ? 」


 おー、すごく驚くな。

 この世界の人間にとっても、ゲートは不思議現象であるらしい。

 新たな発見であると同時に、少し安心する。


 おっと、フラウよ。ゲートに頭を突っ込むんじゃないぞ?

 地球に渡った時、君の時間が凍りつかないとも限らない。

 その検証は、そのうちするつもりだが(その辺の虫でも捕まえて地球に運べばよかろう)今はまだダメだ。


 すごいすごいと、興奮するフラウに明日から頼むよ。と声をかけ、毛布を押し付けて彼女の妹、ミアの隣で寝るように言った。


 時計を持ち込んでいないから正確には分からないが、日が暮れてからそれなりに立つ。明日動く事を考えれば、そろそろ寝なくてはならない。


 まだフラウは目を輝かせて、何かを言いたげだったが、おやすみと声をかけてテントを閉じる。そう、彼女らはテントだ。女の子をふきっさらしで野宿させるつもりはない。そして俺は見張り番。


 たき火に薪を追加して、傍らの寝袋にもぐり込む。


 地球に帰れば安全かもしれん。だが、こんな夜もいい。

 地球とほとんど変わりがない夜空。

 だが明確に地球とは違う場所。


 満天の星空を眺めながら、不可解な事はこれからひとつづつ解明していけばよいと思って目を閉じた。



 ◆◆◆


 身動きが取れなくて目が覚めた。



「あ、おはように、フミナ。よく眠れたに? 寒くなかったに?」


 おはようフラウ。

 たき火のおかげで寒くなかったよ。

 外で寝るというのは初の体験だったが、中々悪くない。

 それよりも俺には気になる事があるのだが。


「――ずいぶんと、近い」

「うに?」


 大地に寝そべる俺の鼻のすぐ先。キラッキラのフラウの瞳が俺を見ていた。

 この状態をひと言で言い表すとするならば。


 添い寝、In 寝袋=ぎっちぎちのみっちみち。

 狭っくるしい中、ケモ耳・うす着・おっぱいふかふかフラウちゃんの添い寝である。もちろん、身体も密着しまくっている……。


 ふむ。足が絡みついている。これはなんだ? まぁ、フラウの足でしかありえないいな。あたたか柔らかい。うむ、理解した。


 ふむ。動悸がするな? 俺は18歳で若者だ。健康体でもある。心臓病の心配はないだろう。つまりは興奮しているようだ。若いしな。しょうがあるまい。それに朝だから股間もたけっているのだ。密着してるから隠しようがないな。不可抗力という事で許せ。


 ふむ。首にも腕がまわされているな。豊かな胸元が良く見える。なんとつやつやのお肌だろう。それにあまいにおーい……。くちびるにも潤いすごいな。ずっと見てられるが、そろそろ思考がオーバーヒートしそうである。



 ――よし、落ち着こうか草薙史名くさなぎふみな

 ここでうろたえるのは天才的ではない。いかにフラウが魅力的でもだ。



「例えばなのだが……この世界では必ず、男女同衾どうきんすべしという文化でもあるのだろうか?」


「んに? 一緒に寝ること? そんなのはないに」

「では、なぜ、君は俺の寝袋に、もぐり込んでいる?」

「ウチがそうしたかったから!」


 そっかぁ、フラウがそうしたかったのか……

 とても屈託くったくのない笑顔で言われると、それ以上何も言い返せなくないなぁ。


 おいおい、フラウちゃん、こんな事しでかして、いけない娘だ。

 そのへんの男ならそのまま襲っちゃうシチュであるぞ? 

 この世界の女性の貞操観念ていそうかんねんはどうなっている? 性の乱れはなはだしく、厳罰げんばつをもってただすべきではなかろうか。そろそろ余裕をよそおうにも限界だ。


「ど」


「んに? ど?」


「どいてもらえませんか……」


 俺は赤面し、それだけを絞り出したのだった。



 

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