第6話 獣人少女のしっぽにココロ奪われる

「お、おばあさまが、私達の、ヒック、かわりに……」


 しゃくり上げながら、涙ながら。

 そういって、二人……、二頭? は言った。

 いや90%以上人間に見えるのだから人で良かろう。


 先んじて大ワニの犠牲になったのは彼女らの祖母なのだという。

 彼女らをかばって大アギトに飛び込み、その身は咬み砕かれた。


 涙を流しながら祖母の遺体を集める。

 なんとも痛ましい。

 彼女たちと協力しながら埋葬した。


 勇敢ゆうかんなる祖母よ。安らかに眠れ。


 ◆◆◆



「悲しみにくれているところ申し訳ないが、なぜあんな危険な場所に?」


 獣耳とふさふさ純白のしっぽを持つ少女たち。

 俺よりも少し年下ぐらいか。姉のほうが、フラウ・バザールボア。

 妹は10歳くらい。ミアというらしい。


 彼女らに合わせ、俺もフミナ・クサナギと名乗ることにした。


「にぃ……、ウチたちは生贄いけにえだったに……」


 彼女はこの近くの集落、“白狼牙はくろうが”に

 この巨大なワニ。彼女らは神獣アーマーン様と呼んでいた。

 それに捧げられた身だという。


「――君たちの集落では、そういった人身御供ひとみごくう……、つまりは神であるとか神獣であるとか上位の存在をなぐさめるために、人身じんしん犠牲ぎせいにするという非科学的で野蛮な……、いや前時代的な……、これも文化軽視に当たるか……。まあいい。そういう胸くそ悪い、たわけた風習があるのか?」


 俺の言いぐさに、フラウはきょとんとした顔をした。


「フミナは、このあたりの人じゃないに? 生贄なんてどの村でもあるに。この神域の大森林では、普通に」


 異世界Tipsその1 ここは神域の大森林という土地らしい。

 異世界Tipsその2 生贄が普通にあるらしい。文化水準低め


 俺の脳内にそんなゲームめいた文字が流れた気がした。


 実際に浮かんだワケでは無い。

 この期に及んでそんなステータスがどうとか出てきたら、この世界を爆破したい衝動に駆られてしまう!


 異世界人と普通に会話できているだけでも、解せぬというのに。


「どうしよう、おねえちゃん、神獣様死んじゃった。それにこれからどうするに?」

「うん。どうしようかにぃ……。でも、大丈夫、ミアにはウチがついてるに」


 ああ、美しき姉妹愛。

 そして、憎むべきはクソ前時代的な因習である。  


「――君たちはそんな目に遭わなくてもいい。このワニを見ろ。銃で撃ったら死んだ。だが撃った俺の身には何も起こっていない。つまりこいつはただのデカいだけの動物だ。たたりなどない。俺の故郷でも大昔はそういう風習があった。だがそれらは全て、信仰する側による文化的なものだ。生贄を捧げない事で因果関係を有する害が起きた試しはない。君たちの村では、なぜ生贄などというものがまかり通っている?」


「ん、にぃ。でも、そういうシキタリなんよ。ウチも分からん……」


 フラウが顔を伏せる。

 

 ……彼女を問い詰めてもしょうがない事はわかっていた。

 だが、俺は異世界の不合理性、非情さに怒りがわいていた。

 それを彼女にぶつけるのはダメダメだが……。

 

 すまない……。心の中で謝った。


 とりあえず。

 と俺は考える。彼女たちをこのままにしてはおけない。

 それに貴重な現地人である。俺も情報が欲しいのだ。


「ここを離れないか。君たちが生贄だというなら、確認しに来る人間がいるかもしれない。詳しく事情も聞きたい。君たちを保護したいと思う」


 俺の提案に、獣人の姉妹はやはりきょとんとしていた。

 


 ◆◆◆


「フミナこれは何? こんな小さな、かまど……?」


「ああ、ガスバーナーコンロという。今スープを温めているから、座ってくれ」


 俺が地球から持ち込んだのは、武器だけではない。

 異世界に野営地を作るためにキャンプ用品を色々用意をした。


 安全度で言えば、地球に戻るのが一番なのだが、なにせ火が使えない。

 凍結した時間の中では食べ物が腐ることは無いが、やはり暖かいものが食べたいものだ。


「ふあぁ……、いい匂いにぃ。お姉ちゃんおいしそう……」

「うん。うん。こんなの初めてにぃ」


 ガスコンロの上でコトコトと音を立てる鍋。材料は適当なインスタントスープに鶏肉とカット野菜、調味料で少し味を調えただけだ。



 興味津々な表情で、鍋を見る姉妹を観察した。

 そして俺は、眉間にシワを寄せた。


 なぜか? 

 彼女たちの境遇が恵まれたものと思えなかったからだ。



 まず、服がとても簡素だった。そして短かった。


 まだ子供のミアはいい。

 だが、姉のフラウはもう大人に近い。


 白い足があらわになっていたし、何ならふともものかなりの部分が見える。

 胸元に至っては、かなり大胆に露わになっている。

 

 ……目が離せない。

 

「フミナ? どうしたに?」

「……なんでもない」


 慌てて、フラウから目を逸らした。

 小首を傾げ、不思議そうな顔をするフラウ。


 ああ、クソ。

 俺がさっきから苛立つ原因はこれだ。


 フラウは正直、とても可愛かった。

 異世界人、さらに獣人という点を横においても、かなり好みの女の子だった。


 風になびく白銀の髪がきれいだとも思ったし、妹を気遣う優し気な横顔にぐっと来てしまう。アメジストの瞳に吸い込まれそうになった。

 

 何度でも言おう、俺の名はクサナギ・フミナ。

 天才天才と称賛しょうさんを浴びていた。大人顔負けの仕事をしていた。


 だが、18歳の男でもある。しかも童貞だ。

 女の子が泣いていたら……弱いのだ。

 


 話を戻そう。

 俺は怒っていた。フラウは、こんなサイズが合わないものを着させられている。

 さらには生贄に選ばれたという事実。


 元の村がいい環境であったとは思えなかった。

 男は単純なものだ。好みの女の子が悪い境遇に置かれていたと知った。

 それだけで見たこともない、彼女たちの村の人々に怒りを覚えているのだから。



「さぁ、二人とも。そろそろスープができた。後は……パンがあるな。これで食べようじゃないか」


 二人は犬っぽい尻尾をしている。ふさふさだった。ぶんぶんと揺れている。

 とても犬っぽい。ならば、猫舌ではあるまい。


 そして獣耳。やはり頭から直接生えているのだろう。こちらも気になる。

 どうも人間の耳も有しているようだ。どっちから音を聞いているのだろう……。


 目を輝かせながら食事をする二人を見る。

 ちらちらと見える肌色にどうしても、目が奪われる。

 地球に女の子の服を調達しに行かないとな……と考えていた。

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