第5話 武器を持ち込む
地球に戻った俺は自室で考え込んでいた。
「武器がいる」
だがバットや包丁なんかの生半可な武器では駄目だ。
あの世界のヤバい生き物に対抗できるのような強力なもの。
あの世界で暮らしていくのに、毎回うんこになるのは勘弁したい。
「ふむ、刀……、いやサバイバルナイフの方が取り回しが良い。それから銃……警察署? ヤクザの事務所とかはないか? いや待てよ。隕石騒動で米軍の部隊が、
◆◆◆
「はは。すっかりもぬけのカラだな」
数々のロックと厳重なセキュリティが敷かれているはずの研究施設内も開け放たれている。駐屯していた米軍の部隊も同じだ。持ち込まれた装備がそのまま残されていた。
「ふふふ、俺にとっては好都合だがな!」
あの巨大ワニにうんこにされた後の事。
俺はある実験を行うため、あの異世界に舞い戻っていた。
その実験とは
『時が凍った地球産の物を持ち込んだらどうなるのか?』
愛用のスマートフォン(バッテリー残量がヤバい)を異世界に持ち込んだ。
時が凍結した地球で使うためには、俺が触れている事が絶対条件だ。
手を放すと、すぐに時の凍結に巻き込まれて空間固定されてしまう。
だが、例のゲートを越えた異世界では、手を放してもスマートフォンはその活動を止めなかった。
俺は思わず、ガッツポーズをしたね。
つまりは、地球産の色々なアイテムを異世界に持ち込めば普通に使えるという事だ。
ちなみに、生命体は駄目だった。
ゲートを潜らせようにも、触っても時の凍結が解除できないからだ。
「おお、装甲機動車だ。キーも……あるな。運転方法さえ学べば使えるかもしれん」
ハンドルに手を触れていれば、全体に凍結解除がいきわたるか、実験の余地がある。しかしゲートの大きさ的に通過できない可能性が高いが。
「銃は……、くくく、アサルトライフルに、ショットガン、スナイパーライフルまで色々あるではないか!」
俺は浮かれた。
まさに宝の山だ!
だが……
「ん……、自殺か」
米国の銃器庫の一角に見つけてしまったのだ。
手に拳銃を握り、頭を撃ち抜き果てている軍服の男を。
特に面識は無かった。隕石騒動に対応している期間はまさに怒涛の如くの忙しさだった。外部から出入りしている人間の全てと面識などあるわけがない。
だが、基地内のどこかですれ違ったりしたことはあるだろう。
例えば食堂、例えば公共ラウンジ。グラウンド。
俺の願いによって時が凍結し、結果的に地球は救われているが、あの状況では全人類の終焉は回避不可能だった。絶望し、自死を選んだ彼の心情も理解できた。
「どうか、安らかに。そして間に合わなくてすまない……」
俺は手を合わせた。
◆◆◆
「わはははは! 思った通りだ! 案外ガバガバではないか、凍結の解除の条件とやらは! これなら運べる。勝ったな、わははは!」
ガチョンガチョンと、独特な動きかたをする四足歩行ロボット。
そこそこ有名なものであるから、動画などで見たことがある人間も多いだろう。
胴体に獅子舞の足が前後に1対ずつ、頭はない異様なフォルム。
ガソリン駆動、強力な油圧ポンプで独立駆動するその機械の名は。
『ビッグドンキー』
研究所の施設内で、米軍が持ち込んでいたのだ。
隕石の影響で荒廃し、車両では交通不可能になった場合を想定していたのだろう。
この人工軍馬とも言えるロボットの良いところは、小型のラバ程度の大きさでありながら、どのような地形でも使える所だ。あの異世界、大森林の地形であれど沢山の物資を持ちながら移動が可能だ。
そして時の凍結にはどう対処したかというと。
「はいよ、どうどう。もう少しゆっくり歩くのだ。俺の歩幅を追跡してくれ」
単純に俺の体にケーブルで繋いだ。
まさにロバを引く老人のごとくだ。
「荷物が無ければ乗る事も可能かもしれんが、ちょっと怖いしな……」
チョイスした各種銃器を背に積み、がしょんがしょんと動くビッグドンキーを引きながらゲートに急いだ。
◆◆◆
「勝負だワニ!」
まずは水場の確保だ。そのためにはすまんが死んでくれワニよ。
おびき出すための巨大な肉も用意していたのだが、残念ながら水場の近くに出てきているようだ。あまりに巨大なために、遠目でもその姿を確認できる。
「さて、銃を撃つのも久々だがな。こいつには何が効くのだろう。なにせ通常のクロコダイルの5倍程度はありそうだからな……」
通常のクロコダイルでも拳銃程度では死なないらしい。鱗は貫通しても、恐ろしい量の筋肉で致命傷には至らないらしいのだ。スナイパーライフルも持ち込んではいるものの、撃った事がない。やはりある程度近くに接近して撃つ必要がある。
「やはりこいつか……」
俺が手にしたのは、
俺もためしに一度だけ撃たせてもらった事がある。
その時は、反動で腰が抜けてしまったがな。
念のため、腰にも拳銃も装備した。
服装だってグレードアップしている。部隊から拝借した迷彩服である。
「ふう……」
俺は目をつむり精神統一をする。
今から命を奪うワニに黙とうをささげる。
お前を殺すのは俺の都合だ。
だが、俺も生きねばならない。俺の背には地球の全人類の未来がかかっている。
「行くぞ!」
俺はM4カービンを構え、ワニにじわじわと近づく。
そして発見する。
水場にあがったワニが何をしているのか、を。
人を、喰っていた。
人、人だと……!?
それは確かに人だった。
それも若い女たち。恐怖に顔が歪んでいる。先に食われたのがひとり。
残ったのはふたり。
見慣れない服装と、見慣れない髪飾り腰飾りが見える。
だが、人だ。あの形は人に他ならない!
「おおおい!! ワニぃぃい!! その人達を喰ってはならぬぅぅぅううう!!!」
無我夢中で、M4カービンをフルバーストする。
もうひとり喰われているのだ。じっくりと狙いなどつけている時間は無い。
大口を開けていたのが悪かったな。ワニは口腔内から脳天を撃ち抜かれ、早々に沈黙した。
だが、俺は見た。ヤツの大アギトの中に、人の顔の一部を。
間にあったとは言い難い。
念のため、念のため。
と思いながらしつこくワニの頭蓋に弾丸を撃ち込む。
もう、誰も殺してくれるなと念じながら。
「あ、あなたは……」
そして、肩で息をする俺に声をかけるものがある。
例の女たちだ。
だが、日本語だった。「ア、アナタハ」
似たような現地語だったのかもしれないが、興奮した俺はその疑問はわきにどけ、叫んでいた。
「こんな所で何をしている! 死にたいのか!」
「ひぅ……」
俺の声に怯えた顔を見せる女。
まだ若い。
俺よりも若いかもしれん。少女というやつだ。
だがその風貌は異様だった。
色白の肌に、アメジストのような紫がかった瞳。
そして特徴的なのは、銀の如くの髪。
そして、髪の間から見える、動物のような耳と、ふさふさした尻尾……。
アニメの中ではよく見る組み合わせだ。
俺としては、肌が白く、髪も白いというのは、さぞメラニン色素が薄かろう。アルビノであるならば、日光を浴びるべきではないと思うのだが。
「お、お姉ちゃん。私達、助かったに?」
「う、うん。助かった、と思うに……」
そのあたりで俺は理解した。
アニメや漫画で見る、異世界転移というやつのお約束だ。
日本語が通じるやつだな。
「くそ……! 非科学的なのは嫌いなのだ! なぜ日本語が通じる!! 俺が望む異世界というのは言語体系も違っているはずだろう!」
いきなり大声を上げた俺に、二人の獣人族の娘(アニメや漫画の設定ではそういう物だろう?)は怯えた視線を寄こすのだった。
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