チャプター14
トシちゃんから薬物や拳銃に詳しい人物がいると連絡が来た。矢上達がお願いしてから数日経っていた。
トシちゃんに紹介してもらった、中華東香は、中華街西門の
その人物は、日本人名で杉浦と名乗っているとトシちゃんから聞いていた。
店内に2人で入った。
「杉浦さん、いらっしゃいますか」
と尋ねた。
「誰?」
中年の女性だった。
「矢上と言います」
「ちょっと待って」
その女性はそう言って奥に入って行った。そして直ぐに戻って来た。
「どうぞ」
と言って、奥の部屋に案内してくれた。奥には初老の男性が座っていた。
「矢上さんね」
「はい、そうです」
杉浦は言った。
「話、聞いてるよ。拳銃、何知りたい?」
的場が手土産品を杉浦に手渡した。杉浦は礼を言ってから受け取った。
矢上は話した。
「拳銃の撃鉄部分なんですが、その銃の種類とそれを扱っているところを教えてもらおうと相談に参りました」
透明のビニール袋に収められてある部品を杉浦の前に出した。
杉浦は言った。
「撃鉄ね。形状、ルガーLCPの真似物ね。威力は本物と変わんないね。ルガーは人気あるね。模造拳銃」
矢上は言った。
「この拳銃の製造元を知りたいんですが?」
杉浦は笑った。
「教えたら、命、危ないよ」
矢上は続けて聞いた。
「中国マフィアじゃないですか?」
杉浦は慌てて言った。
「それ違うね。日本人ヤクザね。ヤクザ以外怖くて扱えないよ」
「分かりました。ありがとうございました。お手間をおかけして申し訳ありませんでした」
お礼を言って店を出た。
中華東香を出てから、西門通りに出て善隣門から市場通り門へ中華街大通りを歩いた。
カップルを装って散策しよう、と的場に言ったら的場は腕を組んできた。
的場は言った。
「カップルみたいに、でしょう?」
矢上は「あぁ」と返答した 。
市場通り門を右折して
駐車場に戻って直ぐに車のイグニッションキーを的場に手渡した。それぞれ座席に座ってから矢上は聞いた。
「カップルを装った理由(わけ)、分かるか?」
「えっ!分かんない」
「杉浦に迷惑を掛けないためとまた協力してもらうため」
「どうして?」
的場は矢上を覗き込むようにして聞いた。
「店側か別の組織の者か、敵か味方か、どちらにしても尾行されていると思って用心してそうした。駐車場まで来ても全く気配がないので、この先のことは止めることにした」
「この先のことってなんなんですか?ねぇ、教えて下さいよ」
的場が言った。
「それはいいや……」
矢上が煮え切らないのに業を煮やし、的場が食い下がった。
「言って下さい」
「そうか、じゃ言うよ。実はこのままモーテルを探して入ろうかと思ったけど、気配もないし、お前が顔色を変えるとかえって不味いと思ってね」
矢上は笑った。的場は小さく言った。
「任務なんですから、わたしだって平気です」
そう言って頬を膨らませていた。
矢上が電話を掛けていた。話し方でトシちゃんと分かる。今日の御礼と拳銃が模造拳銃だったことなどを伝えていた 。
矢上が言った。
「取り敢えず中華街を出よう。ここを出たら好き勝手に走ってくれれば良いから」
ハンドルを握っていた的場は前を向いたままで、
「はい」
と答えて発車した。
矢上はもう1件電話を掛けた。
中国マフィアの情報云々と話している。相手は誰なのかは分からないが、矢上が丁寧な話し方をしているので目上の人なんだろう、と的場は思った。
「明日、午後2時に太田署長の所へ行くことになった。中国マフィアの件で、担当者を紹介してくれると言ってくれた」
的場が疑問を投げ掛けてきた。
「だって、中国マフィアじゃないって、杉浦さんが言ってらしたじゃないですか?」
矢上は切り返した。
「確かにそうは言ったが、マフィアがグルーブでやっているということはないだろうとは思う。マフィアの中の個人が日本のグループに参加するというのはない訳じゃないだろうと思ってね。それで今、太田署長に電話をして明日のアポを取った。
杉浦に、中国マフィアじゃないか、って聞いた時、慌てていた様子がね、ちょっと気になったんで、この際、中国マフィアの現況を太田署長に教えてもらおうかと思っただけ。さっきは後を尾行されるかも知れないと考えて散策しようと言った。お前さんが腕を組んだのは最高のタイミングだった。歩きだしてからは一度も後を振り返らなかったのも良かった。腕を組んで対応したことが寸劇に花を添えたことになったよ」
的場は静かに頷いた。そして矢上の捜査に対する思考回路を知りたいと思った。
翌日、約束した時間に太田署長の所へ行った。
署長室には太田と山本刑事課長の他に2人待っていた。矢上は挨拶をし、軽く会釈した。的場も続いた。
初めて会う2人と、矢上はそれぞれに名刺交換をした。的場も続いて交換をした。
着席してから矢上が話を始めた。
「お忙しいところ、わざわざ時間を割いて頂き申し訳ありません。実は米山のマンションで見付かった撃鉄は模造拳銃ではないか、との情報をある筋から入手しました。製造元は中国マフィアの可能性も視野にと思い、昨日署長に相談させて頂きました。中国マフィアの現況を教えてもらえればと伺いました」
刑事課出身の連中であれば、ある筋からの情報入手と言えば、決して突っ込んで何処からなどとは聞かない。情報入手のやり方はお互いが承知しているので野暮な詮索などしないものだ。太田は叩き上げの刑事(デカ)育ちである。そうでない署長によっては、その情報はどこからの情報だと詮索する者もいる。署長という立場の者に聞かれると入手先を誤魔化すことは出来なくなる。がしかし、入手先を教えれば、場合によっては情報元の安全も
暴力担当の担当です、と名乗って河井が話し始めた。
「日本の暴力団と外国のマフィアとの大きな違いは公然性か非公然性かであろうと思います。中国・台湾・香港とマフィアは存在しますが、非公然という点では同一です。
日本の暴力団は、その存在について組の事務所を公然と開設して代紋を堂々と掲げています。
香港は19のグループ(
台湾は
中国系組織犯罪集団、つまりチャイナマフィアですが、実態はほんどと分かってはいません。彼らは総じて、転々とマンションを変えながら正体を隠して活動しています。事務所を構えるなどということは絶対にありません。実態を把握するためには怪しげな不動産業者への接触とかい
実は今、うちで内偵している店があるのですが、申し訳ありませんが、事件(ヤマ)が絡んでいるのでお話し出来ません」
矢上と的場が一礼した。
太田たちにお礼を言ってから表に出た。
的場が聞いた。
「拳銃捜査って厄介なんですね」
「やはり蛇《じゃ》の道は《へび》じゃないと」
的場が首を
「藤四郎《とうしろう》じゃあ、難しいということだよ」
ふと、矢上の頭にある人物が思い浮かんだ。
「1人いたよ。精通している奴が」
矢上は言った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます