1日37時間働く男からの信託
「この時間計算すると…1日37時間働いてるよ!」
「え、だれ?」
「“じょ”さん」
ふいに自分の上司の名前が経理部から出て、驚いた。わたしと上司の“じょ”は会社Aに所属し、会社Bで働いている。だから会社Bでじょさんが出てきたから驚いているのだ。
なんでも、会社Bに個別で登録されてない請負の分の工数については名目上登録できないので、代わりにじょにすべてつけたところ、1日37時間働くという、超人級の、もはや時間という概念を突き破る存在となった。
それ以来、わたしの中でも“じょさんは37時間働く男”というイメージとなった。
所属する会社Aは中国人が7、8割ほど占める。その中の1人が我が上司のじょさんで、横にも縦にもでかく、がりがりくんを40歳ぐらいにしたような顔立ち。愛用のコートはアルマーニエクスチェンジ。『A|X』のロゴもまぶしいが、アルミホイルのようなまばゆい銀色のコートを羽織っている。おおよそ一目見れば、日本人じゃないなと思ういでだちだ。
じょさんは中国の大学卒業後、日本へやってきた。15年ほどいるのだが、日本語専攻だっわけでもないので、ものすごく流暢な日本語という訳でもない。ペーぺーのわたしへの言葉は常に最上位級。最上位級の言葉遣いは誰に対しても失礼にならないからだ。
「お手数をかけて申し訳ありませんが、“おねめえ”を書いて提出してください」
わたしたちは日本語と中国語をちゃんぽんして話す。それはじょさんの気分次第でどちらの言葉を話すか決まる。この時は日本語だった。
ーーーおねめえ? ああ“お名前”のことね。
突然のべらんめえ口調は脳内修正をされてその場は終わったが、自分がおねめえを書いて提出していなかったことにじょさんが気づき、チャットで連絡をもらう。
「おねめえを書いて提出してください」
自分は発音上お名前をおねめえと言ってるのかと思っていたら、おねめえとして日本語を認識していたらしい。
ほっこりして、そのまま何も指摘しなかった。すこしほっこりしつつも、こういうミスを自分もしてるんだろうなあと思った。そして中国人にひっそりとほっこりされながらも、そのまま指摘されずに脳内に蓄積された中国語がわたしの中に生きてるんだろうなあとメタ的思考に至った。
「ティァオリー」
「
ティァオリーという言葉を知らなかったので、チャット画面にピンインを打つ。
调理
「料理する?」
「
「へえー、養生!」
「一宮さんいいですか、これを食べ、て、くださいね」
と言って、37時間働く男からの信託をもらった。
ということで、今日も長芋を食べる日々だ。
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