飲み物から変えよ

 考えてみれば養生ははじめて留学した時から行っていた。


 はじめは良かった。朝ごはんには油でじゅわっとあげた揚げパンの油条ヨウテャオ、ほかほかの肉まんである肉包子ロウバオズ、上海名物のワンタンなど、朝ごはんから外食文化の中国では朝ごはんは事欠かない。


 昼間は生煎という焼き小籠包。肉まんのような生地を鉄鍋でカリッと揚げ焼きにし、中には油がたっぷりの餡が入ってる。日本の大福ほどの大きさで、6つ、8つ入りなどでおよそ170円。


 昼も夜も値段が安く、かつ食べたことのない目新しい中華料理を溺れるように食す。


 その中でもとりわけその当時のわたしを魅了したのが珍珠奶茶チェンジューナイチャーことタピオカミルクティーである。珍珠とは中国語で真珠の意味。黒くてつやつや、ぷにゅぷにゅとしたタピオカのどぅるんどぅるんと吸い込む。中国のドリンクスタンドはどこにでもあり、かつ100円ちょっとで買えるので、貧乏学生でも勉強のお供に、勉強の息抜きに、掃除のごほうびにと、よく飲んだ。


 しかしだんだんと中国語レベルが中級に自分の中国語が進むに連れて、聞いてわかるのに通じないというストレスが生じてくる。聞いてわかるからこそ、相手の言葉の威力をもろに受けていた。いわゆる典型的なカルチャーショックである。


 加えて、度重なる油物やタピオカが胃を重くし、吹き出物に苦しんだ。一時期、毎日韓国料理を食べていたような時期もあった(上海の日本料理は高い上にあまりしっくりこなかった)。


 そのころやっと食生活を変えようという意識ができた。はちみつやオリーブオイルを顔に塗ったり(※食用を塗るのはよくないです)、烏龍茶の出がらしで洗顔したり、炭酸水で頭洗ったり。


 今のように本がすぐ手に入る状況でないから、ネットを読んで怪しげなものまでとりあえず試してみる。そうやって、これは効く、あれは効かないとやってみると、1番しっくりした養生は、飲み物を意識してみるということだった。


 寮にはキッチンがなかったし、意外と食べ物のコントロールが難しかった。寮では禁止されているIHコンロをこっそり買い、毎食一食だけ作る程度にとどめ、飲み物を積極的にいろんな種類を取るようになった。


 上海の古北グーベイには茶の市場こと、茶城チャーチョンに出向き、烏龍茶、紅茶、緑茶を調達する。日本では高級な部類に入るほどの品質の良い中国茶も、現地で買えばそう高くなかった。


 また市場では乾物屋に行き、黒胡麻をその場ですってもらった。あまりの少ない黒胡麻の量で、店員のおばさんには訝しがられたが気にせず購入。果物屋では台湾バナナを購入し、家でひたすらみじん切りにする。そうすると、まるでとろろのような形状になるので、そこにすりたての黒胡麻、豆乳を混ぜてスムージーを作った。


 他にも中国人の友人から菊の花のお茶が良いと聞けば買ってきた赤いナツメと一緒に飲んだり、とにかくたくさんの種類の飲み物を飲んでいった。


 飲み物だけなら結構簡単に取り入れやすい、というのがわたしの留学での養生知見だった。


 そして今またわたしはこの方法をまた行っている。こうして見ると、その人その人に合ったやり方はやっぱり違うのだから、さまざまな方法を試して見て修正して、無理なく続けられるやり方を模索するしかないんだろうなと思った。


 そして試した結果、自分に合うやり方がなんとなく分かったら儲けものだと思う。細く長く生きる、という人もいるがそれってこうやって自分の体をなだめる術を体得してるからなのではないだろうか。そう考えたら養生での収穫もあるというものだ。

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