第11章 ニャンてこった!
村の中に入ると、そこは猫耳パラダイスだった。
男、女、お年寄り、子供、それぞれ色や模様は違えど、しっかり猫耳と尻尾が生えている。
服装はレオのように冒険者らしい鎧や防具をつけている人は少なく、動きやすそうな服や露出が高めの服装な人が多い。冒険者ではないだろう女の子のドレスも、アラビアのドレスのようなお腹を出したデザインや肩を出したデザインが多い。
どちらかというとララが着ているちょっと大人な防具に近いようだ。
オカマ店主が流行の服だと言っていたがあながち間違いではなかったのだろうか。
猫好きのエイトからするとここは天国かな?
――野良猫がいっぱいいる島とか行ってみたかったんだよなー。
と、それと一緒にするのは失礼か。
「なんか村って言ってた割には綺麗だし、発展してるな」
「そうだね。規模は小さいけど、普通の街と雰囲気は変わらないね」
村というと、もっと簡素な建物や畑が多い田舎をイメージするが、エノコロ村は石造りの建物や水路など綺麗な街並みが続いている。
商店街も活気付いていて、最初に行った街とそれほど遜色ない。
「馬鹿にすんな。もうあと数十年すれば、俺たちは勢力を取り戻して、国として復興するんだ。今に見てろよ」
エイトとララの会話に入ってきたレオはフンッと鼻を鳴らして、すぐに顔を背けてしまう。
余所者を好まないあたりが少し田舎者っぽい。何をそんなに敵対視してるのか、感じが悪い。
村長に続いてレオ、その後ろをエイトとララが大通りを歩いていると、セクシードレスの女の子たちがこちらを気にしては、何かコソコソと話しているのに気がついた。
エイトは出来るだけ目を合わせないようしながら、なんだか既視感のようなものを感じていた。
あれはそう、中学2年のバレンタインデーの日のことだ。
昼休み、机に頬杖をつきながら携帯でゲームをしているの、隣のクラスの女の子が数人廊下に固まって教室の中を覗いてきていた。
エイトはの方を見ながらなにかコソコソと話し、あなたが行きなさいよ、いやあなたこそ、っと言った感じでお互いの背中を押し合っていた。
暫くして決心がついたのか、女の子たちは全員でこちらに近づいてくると、俺を素通りして後ろの席の男の子にチョコを渡していた。
一瞬でも自分じゃないかと思ったのが恥ずかしくて悔しかった。
それと全く同じ雰囲気を感じる。
暫くすると、女の子たちは少し頬を赤らめながら走ってこちらへやって来た。
見た目はミケネコ、トラネコ、キジトラ、といったところだ。
「レオニャルド!今日のお仕事終わり?これからご飯でも行かない?」
「魚料理が美味しい良いお店見つけたのー!」
「一緒に遊ぼーよー」
どうやらレオの本名はレオニャルドというらしい。どんなにキリッとした顔をしていても、実に猫らしくて、可愛らしい名前じゃないか。
女の子は3人とも猫撫で声で、誘うように尻尾をくねくねと振っている。どうやらレオに好意があるらしい。
よく見ると、道行く女の子たちがみんなレオを見て、無意識に尻尾が動いている。
犬は嬉しいと尻尾を激しく振るが、猫は興味がある時ゆっくりと振る。つまりそんな感じだ。
声を掛けようか掛けまいか悩んでいたり、積極的に手を振っていたり、とどうやらレオはかなりモテるらしい。
いけすかない。
エイトはそんなことないと分かっていながらも、自分に用があるんじゃないかと僅かばかり期待してしまったのが恥ずかしくて堪らない。
――知り合いじゃないのに俺のはずないよな。そもそも見た目で女の子を沸かせるような容姿じゃないし。
エイトの気も知らず、レオは片手を上げて女の子たちをあしらう。
「悪いな、俺はこれから客人を連れてかなきゃなんねぇんだ。明日まとめて相手してやるよ」
その答えに女の子たちはきゃーっと黄色い歓声をあげる。
いけすかね。
エイトは負け惜しみだと分かっていながらも思わず無様に嫌味を呟いてしまう。
「へー、モテる男はお忙しいなあ」
「まあな。俺、ケットシー1の槍使いだからさ。うちは魔法が得意な分、剣裁きは苦手な奴が多いんだ。だから、少し練習すればすぐ1番になれるし、女には困らない」
そう言う割にはあまり嬉しそうではない。
いけすかね。
村の最深部まで行くと、そこには一際大きい建物があり、一目で村長の家だと分かった。
「おーい!ニャディ!ニャディール!客人が来ておる!」
村長が扉を開けるなり、大きな声で呼びかけると、奥の方から足音と同じく大きな声が聞こえてくる。
「うるっさわいわね!そんなに叫ばなくても聞こえてるわよ!」
奥の扉が勢いよく開いて出てきたのは、期待を裏切らない美少女だった。
黒髪のショートカットで襟足だけ長い、ウルフカットってやつだ。猫なのに。
印象的な猫特有の瞳は、真紅で目尻が少し上がり、アーモンド型の瞳孔をしている。大きく開けた口からは八重歯が除き、小麦色の肌に豹柄の尻尾。
首には宝石の装飾がついた金色のチョーカーが光り、ビキニ型の紅色のチューブトップのアンダーにも宝石が揺れる。
二の腕からバルーン型の透ける袖が腕を隠し、中指の指輪に繋がっている。
腰についた紫の大きなリボンが足首まで伸び、ショートパンツはカボチャ型でこれまた太ももが透けるが、残念ながら紅色のグラデーションでパンツまでは見えない。
靴は爪先が尖ったおしゃれな形をしていて、足首にも金色のアンクレットにまた宝石の装飾。
街で見た女の子たちよりも扇状的で露出が高く、宝石の多さが高貴さを醸し出している。
村長の娘だしお金持ちなのだろう。
セクシーだし可愛いのだが、なんだかあっちの世界でいうギャルみたいで、童貞にとっては苦手意識のある風貌だ。
ニャディールこと、ニャディは入り口にいるエイトたちに気がつくと腕を組んで首を傾げる。
その腕には豊満な胸が乗ってより強調され、エイトは釘付けになりその素晴らしい光景に目を凝らすが、せっかくのチャンスをぼやける視界で捉えきれない。
「どちら様?」
ニャディは冷たい声と目付きでエイトとララを睨みつける。
引きこもり&苦手意識のある風貌で威嚇され、情けなくもついついエイトはララの後ろに一歩隠れ、彼女が本題に口を開く。
「インディゴ教会のシスター様の紹介できました、ララといいます。実は彼にかけられた呪いを解いて欲しいの」
「呪い?」
ニャディは怪訝な顔をして、エイトの前に近づいてきた。
「アンタ、アタシに言うことないの?」
「えっと、………とりあえずニャンって言ってみてくれない?」
いや、それじゃないだろ。明らかに、お願いします、とかそういう言葉を求めていたのだろうが、緊張でついついおかしなことを言ってしまった。
まあ、確かにやっぱり猫耳少女のニャンは聞いてみたいよなー、とか思っていたが今じゃない。
せめてもう少し仲良くなってから……いや、仲良くなれんのか、これ。
ニャディの顔がみるみる赤くなっていき、頬を膨らまして腕を振り上げる。
「サイテー!」
凄い音と共に頬に痛烈な一撃を喰らった。こっちの世界に来て2度目だ。
「誰がアンタなんかの呪い、解くもんか!ばーかばーか!」
ニャディはそう言い捨てると、家を飛び出して行ってしまった。
怒り方が子供みたいだ。
「えー、そんなに怒んなくても……」
「サイテーだよ、アンタ。名前も名乗らずいきなりあんなこと」
レオはそう言ってエイトの胸ぐらに掴みかかる。
待て待て、男同士の喧嘩なんてマニュアルにない。暴力は反対だ。
エイトは無抵抗を示すように両手を上げるが、レオはそもそもそれ以上何かするつもりはなかったようで、悔しそうに言い放った。
「ニャンなんて……ニャンなんて………、俺が言って欲しいよッ!」
あ、まさかのお仲間か。
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