第1章 現実なんてクソゲーだ


 人は皆嘘つきだ。


 自分を守るための嘘。人をたてるための嘘。良い嘘に悪い嘘、形は違えど様々な嘘がこの世界には蔓延る。





――――――――





112:以下名無し 2019/12/04(水) 5:31:25.21

ID:2ca1YGa


それで?


113:以下名無し 2019/12/04(水) 5:31:36.35

ID:9toKbr1


眼鏡かけたら部屋に戻った


114:以下名無し 2019/12/04(水) 5:31:44.11 ID:1AKum2PQ


はい、嘘乙


115:以下名無し 2019/12/04(水) 5:31:45.23

ID:2Prjt3GrO


イタタタタ


116:以下名無し 2019/12/04(水) 5:31:46.39

ID:2ca1YGa


視力が悪過ぎて異世界に見えたってオチ?


117:以下名無し 2019/12/04(水) 5:31:48.72

ID:atk2SRJ1


なんのラノベの話?


118:以下名無し 2019/12/04(水) 5:32:00.21

ID:9toKbr1


>>116

違う、マジで異世界にワープした


119:以下名無し 2019/12/04(水) 5:32:11.12

ID: 1AKum2PQ


>>116

それを言うなら、頭がイタ過ぎて異世界が見えたってオチだろ


120:以下名無し 2019/12/04(水) 5:32:18.21

ID: 2Prjt3GrO



121:以下名無し 2019/12/04(水) 5:32:19.46

ID:Bc3pj5CT


俺も普段眼鏡だけど外しても異世界行ったことないわ


122:以下名無し 2019/12/04(水) 5:32:21.87

ID:7cjVQ6dm


>>121

それな


123:以下名無し 2019/12/04(水) 5:32:30.21

ID: atk2SRJ1


>>121

同じく


124:以下名無し 2019/12/04(水) 5:32:32.33

ID:9toKbr1


俺だって今まではそうだった

きっと何か条件があるんだと思う


125:以下名無し 2019/12/04(水) 5:32:36.54

ID: 1AKum2PQ


メガネ率高過ぎワロタ

今どきメガネキャラなんて流行んねえぞ


126:以下名無し 2019/12/04(水) 5:32:51.36

ID: Bc3pj5CT


好きでメガネをしてるわけではない


127:以下名無し 2019/12/04(水) 5:32:54.17

ID: 7cjVQ6dm


>>126

それな


128:以下名無し 2019/12/04(水) 5:33:14.22

ID: jufh85lG


遠くより現実がよく見える眼鏡をかけろ


129:以下名無し 2019/12/04(水) 5:35:21.11

ID: 1AKum2PQ


>>128

上手いこと言うなww


130:以下名無し 2019/12/04(水) 5:36:01.13

ID: 2ca1YGa


てか、スレ主さんこの前UFO見たって言ってた人と同じ人じゃない?


131:以下名無し 2019/12/04(水) 5:37:49.51

ID: 2Prjt3GrO


でた


132:以下名無し 2019/12/04(水) 5:38:21.01

ID: 1AKum2PQ


もしかして噂の3ちゃんのホラ吹き?


133:以下名無し 2019/12/04(水) 5:38:51.22

ID: atk2SRJ1


なにそれ?


134:以下名無し 2019/12/04(水) 5:39:49.58

ID: Bc3pj5CT


>>133

3ちゃんでくだらない嘘ついてて最近有名なやつ


135:以下名無し 2019/12/04(水) 5:40:31.34

ID: jufh85lG


しょうもな


136:以下名無し 2019/12/04(水) 5:40:54.12

ID: 2Prjt3GrO



――――――――





「だから……マジなんだってええ!!」




 パソコンの青白い光を眼鏡に反射させながら、彼は画面の向こうの分からず屋たちへの怒りを、思い切り机にぶつけた。


 手の届く範囲に置かれた飲みかけのペットボトルを口に運び、いつから敷きっぱなしになっていたか覚えていない布団の上に胡座をかき、深いため息をついた。



 カーテンを締め切った暗い部屋は外の光を遮断し、現在何時なのか把握できない。

 それが生活習慣を乱れさせる1つの要因なのだが、カーテンを開けに窓際へ行くのすら億劫なので仕方がない。


 それに、床にはパソコンやモニターの配線、携帯やゲーム機の充電コード、ティッシュの残骸など、至る所に散乱したゴミのせいで、足の踏み場は布団の上と廊下に向かう道くらいしかもう残されていない。もはや窓まで行くのは困難だった。




 彼・梛木瑛斗(ナギエイト)は、確かに異世界へ行った。


 しかし、今になって思えばあれは夢だったのかもしれない。


 こんな不規則な生活をしていたら、座ったまま眠ってしまうことなんて、大いに考えられるだろう。


 それに、眼鏡を外しただけで異世界に行けるなら、世界中のオタクは皆こぞって眼鏡をかけては外すし、異世界召喚がただのプチ旅行に成り果てる。



 だけど、瑛斗はそんなくだらない妄想を日常的に繰り返していた。詰まる所、現実逃避だ。




 梛木瑛斗は3ちゃんの中では、密かに有名だった。


 その名も“3ちゃんのホラ吹き”。

 つまり、嘘つきだ。


 今まで数々のくだらない嘘をついてきた。

 UFOを見ただの幽体離脱しただの、口ではなんとでも言えるようなしょうもない嘘。

 

 SNSで嘘を吐く理由なんて1つ、注目されたいからだ。


 そりゃ、本心は賞賛されたり羨望の的になれることを望んでいるが、そんなこと彼らのような人種にとっては容易なことではない。

 だから、マイナスの注目でもいいから、と嘘を重ねる。




 そもそも、瑛斗がなぜこんな引きこもり生活を送るようになったかというと、春休みにプレイしたゲームが楽しすぎて、やめ時が分からず、一日サボり、また次の日もサボり、それを繰り返すうちにこうなってしまったのだが、ゲームに没頭するそもそものきっかけは、まあなんというか…失恋だ。



 ラブレター。


 それは古来より意中の相手に想いを伝える手段の一つであり、現代ではその前段階として使用されることが多い。

 そう、つまり告白のために呼び出す手段だ。


 そのメリットは、第一に他人にバレずに呼び出すことができ、第二に告白前に相手の反応をなんとなく知ることができ、第三に覚悟を決める時間の猶予を作ることができる。と、まあ要するに恥ずかしいからだ。

 面と向かって声を掛ける勇気がないから、この方法を使わせてもらった。


 でも、どうせ呼び出したあと、告白は直接しなきゃいけないんだろ、なんて声も聞こえるが、そんなことは分かりきっている。

 結局のところ問題の先送りだ。



 と、そんなこんなで瑛斗は想い人である幼馴染、といっても幼稚園からの顔見知りなだけでさして親しくはない女の子の靴箱に手紙を入れることには成功したのだが、そこで思わぬ事態に遭遇する。

 それは想い人である彼女とその友達が、瑛斗のラブレターを話題にしているところを盗み聞きしてしまったのだ。



「佳奈恵ラブレターもらったって本当!?」

「えー、誰から?梛木瑛斗?佳奈恵仲良かったっけ?」


「………えー、そんな人いたっけ?」



 結果は告白する前に玉砕。

 結局呼び出しておいて校舎裏にすら行っていない。


 そりゃそうだ。

 だって瑛斗は、意中の相手に存在すら覚えられていなかったのだ。


 幼馴染じゃないにしても同じ幼稚園で顔見知り、会話だって……「消しゴム落としたよ」くらいならしたことがある。

 さらに言うなら小学校は6年間同じクラスで、瑛斗たちの中学からその高校に進学したのは数人しかいない。


 それなのに、認識すらされていなかったのだ。



 と、そこからなんとなく学校を休みがちになり、春休みに入り、暇潰しに始めたゲームに熱中し、今に至る。




 まあ学校に行ったところで、特に親しい友達がいるわけでもないし、社会に出ても使わないようなくだらない勉強をして、無駄に時間を食い潰すだけだ。

 なんて強がって、自分に嘘をつき、逃げている。


 両親は共働きで放任主義のため、瑛斗の現状を分かっていても、特に何も言ってこない。



 今の瑛斗にとっての世界はこのネットの中であり、現実世界にはとうに見切りをつけていた。


 だけどそんな彼の世界の住民は、悲しいかな彼を理解してはくれないのだ。




「あー、やめたやめた。どうせこんなネットで粋がってるような人間のクズどもに言ったところでどうこうなるわけでもないし、時間の無駄だ」



 瑛斗はそれが盛大なブーメランだともつゆ知らず、吐き捨てるようにそう言ってパソコンの電源を落とす。


 大きく伸びをしてそのまま布団に倒れ込むと、現実から目を逸らすように瞼を閉じた。




 人生も17年、いいことなんて1つもなかった。


 両親に期待もされなきゃ相手にされたこともない。そのせいか偏屈に育った彼に友達なんてできるはずもなく、休み時間は漫画を読むか、寝たふりをするかの2択。


 当然女の子にモテるはずもなく、階段を登っていただけなのに前にいた女子がスカートを押さえて舌打ちするしまつ。

 いや、見てねえよ。見えたらいいなと思ったけど見てねえよ!だいたい見られたくないなら短くするんじゃねえよ。


 きっと彼がイケメンに生まれていたら、こんな仕打ちは受けなかったのだろう。


 だが、リセマラできないランダムスキンの一世一代の引きに失敗してしまった彼には、もうなす術がないのだ。



 そんな人生逃げたくなっても仕方がない。叶うなら、漫画やゲームみたいに、違う世界に行けたら…。




 深く息を吐き、そんなことあり得ないのだと、意識を現実に引き戻す。



 瞳を開けると、鈍色の世界が広がる。


 いつからだろう。彼の瞳に映る世界が、色を失ってしまったのは。




 よく耳にするセリフだが、ここはあえて言わせていただこう。

 「現実はクソゲーだ」と。


 リセットできなければ一度の失敗も許されない。セーブもできなければ、大したイベントも発生しない。


 そして結局リアルの世界は見た目のスペックが8割を占めている。


 大事なのは外見じゃなくて中身だよ、なんて言うやつもいるが、そもそも外見が合格ラインを越えなければ中身を見ようだなんて思わない。そんなことを言えるのは、顔面の偏差値にそこそこ自信があるやつだ。

 まあ彼の場合は中身を見てもらったところで、性格も破綻しているのだが。


 いや、きっとイケメンに生まれていたら、性格だってここまで捻くれることはなかっただろう。


 心に余裕ができれば、人に優しくできる。

 顔面に自信があれば、澄んだ心を持つことができる。

 

 まあ、無い物ねだりしても仕方がない。

 もう彼の人生は詰んでいる。




 ――これが俺の世界なんだ。

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