第30話 噂のふたり2

「そろそろ学園祭だね」


レイ様と学園にあるお花の温室にいる。

色とりどりのお花が咲いている。


「そうですね」


パーティーの後もふたりでよく話をするようになった。

季節は本格的な冬が近づいてきたので暖かい所で。

温室とは言っても暑すぎず、快適で春のような気温だ。

温室でお花を見ながら、談話室でお茶を飲みながら、図書室で勉強しながら。

少しだけの時間なら中庭でも。

コートを着ているのにレイ様が私にマフラーを巻いてくれる。

レイ様のマフラーはとても暖かくて香りも良くて…顔まで赤くなる。


そんな時間を楽しみにしている自分がいる。

相変わらずレイ様の言葉は甘くて。

夜に思い出しては特大イッチくんぬいぐるみに話かけたり抱きついたりしてジタバタしている。


「メリアーナのクラスは何をするの?」


今は温室のベンチに座っている。


「まだ決まっていないのですが、リエッタ様が実行委員として張り切っています」


里英ちゃんは前世でも学校のイベントが大好きでよく任されていたそうだ。

クラスの有志達と集まって会議を繰り返している。

早苗様も入っている。

みんな気合いが凄い!

学園祭には人気投票もあって、1位になると景品が貰えるらしい。


「レイ様のクラスは?」


「私のクラスでは演奏会をする事になったよ」


「わぁ!そうなのですね。レイ様は楽器は何を?」


「私はヴァイオリンを演奏するんだ」


「ヴァイオリン!」


な、なんですって!?

似合いすぎる!!

絶対に格好良いわー!

レイ様とヴァイオリン!素敵!


「実はメリアーナに聴いてもらいたい曲を演奏するんだ。…来て欲しいな」


「そうなのですね!楽しみにしています!」


「うん。ありがとう」


目尻が少し下がった可愛い笑顔!

今日もドキドキが止まらないわ。

むしろ加速?

これ以上は無理ー!!

胸を押さえてしまう。


「クスッ。メリアーナも決まったら教えてね」


「はい!」


二人で話をする事はお互いの家族の事だったり、友達の事、好きなお菓子の事、どんな本を読むのか等。

私だけが知っているレイ様の事もあるんじゃないかしら?って思ったり。

そんな時は自分だけが特別な気がして、また落ち着かなくなる。


レイ様と少しお話ができる大切な時間。

帰りの馬車まで送ってくれる。


「ではまた明日ね。メリアーナ」


「はい…」


もう少しこのままでいたい気持ちがある。

なんだかくすぐったい気持ち。

俯いていると


「さ、風邪をひいてしまうよ」


最近はよく馬車の前でこんなやり取りをしている。


そして、馬車の中では


「お待たせいたしました。お兄様」


馬車に乗ると生徒会のお仕事を終わらせたお兄様が待っていてくれる。

最近は学園祭のお仕事で連日忙しそうだ。

前は図書室で待っていたらお兄様が迎えに来てくれたけど、今はレイ様が馬車まで送ってくれる。

何やらお兄様とレイ様だけで話をしたみたい。


「…もういいのか?」


生徒会の書類を見ていたお兄様が顔を上げる。


「はい。お兄様、生徒会のお仕事お疲れさまでした。本日もお兄様をお待ちしている間、レイ様が付き合ってくださいました」


「つ、付き合って…っ!」


ブルブル手が震えているお兄様。


「はい。お花を見ながらいろいろお話をしましたよ」


ニコリと笑う。


「そう。嫌な事があったら私に言うのだよ」


「え?嫌な事?…とても楽しいですよ?」


二人だけの特別な話を思い出しては赤くなる。


「っ!私のメリアが!!」


お兄様の震えが全身に。少し泣いている?


「だ、大丈夫ですか!?お兄様!」


馬車の中での会話は最近こんなやり取りが多い。



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