第270話 帰宅


「じゃあ、こうしましょう。これをオークションにかけるの。それで売り上げを半分こ」


 サツキさんに頼んで買ってもらおう。


「やだ。買い叩かれるだけよ。というか、どうせあんたが裏でこっそり買うんでしょ」


 このアマ……!


「友よ……金の切れ目が縁の切れ目ね」


 そう言ってフードから剣を取り出す。


「はっ! かかってきなさい。シロウトにプロの戦闘というものを教えてあげるわ」


 クレアもナイフを取り出した。


「プロ(笑)。笑わせるな、雑魚。私に勝てる者はいないわ」


 舐めんな。


「その慢心を持つ者が真っ先に死ぬのよ、ガキ」


 よし、殺そう。


「ちょ、ちょ、エレノアさん、ちょっと待ってください。何を人斬りの顔になってんですか」

「師匠、落ち着きましょう」


 チビ2人が止めてくる。


「2人共、いい? クレアは残念ながらサンドドラゴンに食べられちゃったの」


 無念。

 良い人を亡くしました。


「エレノアさん、落ち着いて。ポーションやアイテム袋を売るルートが潰れますよ」

「そうですよ。目先のスッキリより後のことを考えましょう」


 目先のスッキリが良いなー……


「私の活躍見たくない?」

「知り合いの首が飛ぶところなんて見たくないですよ!」

「師匠、ここは買収です。適当な物と交換すべきです」


 チビ2人は俺の腕や腰にしがみつき、抑えてくる。

 正直、その力は弱く、いつでも払い飛ばせるが、もちろんそんなことはしない。


「よし、クレア、これをあげましょう」


 剣をしまうと、カバンからポーションを取り出した。


「灰色のポーション? レベル3の回復ポーションかしら? 譲らないわよ」

「違うわよ。ちゃんと鑑定しなさい」


 そう言って、ポーションを渡す。

 クレアはポーションを受け取ると、じーっと見だした。


「んー? キュアポーションって何よ? しかも、レベル3だし」


 キュアポーションは回復ポーションと同じ色なのだ。

 レベル1なら青だし、レベル2なら紫、そして、レベル3は灰色である。


「それは病気を治すポーションよ。なんとレベル3を飲めばガンも治る!」

「は? 何それ?」

「だからガンも治るポーションだってば」

「そんなの聞いてないわよ!?」


 言ってねーもん。


「それは世界に一つしかないという超貴重なポーションなの。それを特別にあげるから引きなさい」

「ガンも治るポーション…………2つちょうだい」

「なんでよ? 欲張りね」

「1つは世界に1つしかないということで売る。もう1つは自分用。どこぞのバカのせいで副流煙が怖い」


 シャワーを浴びながら煙草を吸うノーマンかな?

 いやでも、お前も吸ってんじゃん。

 ラーメン食い終わった後にハリーと吸ってただろ。


「じゃあ、もう1つあげる」


 カバンからもう1つのキュアポーションを取り出し、クレアに渡した。


「あんた、絶対に何個も持ってるでしょ。何が世界に一つしかないという超貴重なポーションよ」

「こんなもん、売れるわけないでしょうが」


 医療業界がひっくり返るわ。


「まあ、確かにね……これが表に出たら末期な病で苦しんでいる人達から何を言われるかわからない」


 命がかかっているから譲れって言ってくるだろう。

 しかも、金はないから払えない。

 拒否したら人でなし扱いされ、SNSで世界中から叩かれる。

 今はそんな世の中だ。


「ロクなことにならないでしょ」

「多分ね。いわれのない批判を受けると思うわ。だから裏のオークションで売る」


 裏のオークションって響きだけで怖いわ。

 何を売ってんだよ。


「勝手にどうぞ。とにかく、これはもらうからね。あと、誰にも言わないでね」

「はいはい…………富豪のジジイとババアが10億は出すかしら? いや、オークションだし、もっと……」


 こいつ、すぐに金に目がくらむな……


「もう回収するものは回収したし、帰るわよ。ラフィンスカルに呪われたくないし」

「それもそうね。さっさと帰りましょう」


 俺達は帰ることにし、ラフィンスカルに用心しながらさっさと洞窟を出た。

 そして、ゲートまで歩いていく。


「じゃあ、私は先に帰る。あんたはちゃんと地図を池袋ギルドのギルマスに渡しなさいよ」

「わかってるわよ。キュアポーションを漏らさないでね。あと、裏のオークションとやらに出す際もちゃんとあなたがスライムからドロップしたって言うのよ」


 まあ、クレアが出した時点でエレノアさんがチラつくとは思うけど。


「やっぱりスライムなのね……了解。誰も信じないでしょうけど、そう言い張るわ。じゃあね」

「ばーい」

「good bye!」


 クレアは急いでいるようでさっさとゲートをくぐって帰っていった。


「さて、私達も帰りましょうか。忘れ物はないわね?」

「大丈夫です。暑いです」

「私も大丈夫です。シャワーを浴びてアイスを食べたいです」


 まあ、忘れ物なんかないか……


「では、帰りましょう」


 俺達はゲートをくぐり、池袋支部に帰還した。

 そして、電話でアルクを呼び出すと、すぐにやってくる。


「お疲れー。どうだった?」

「帰ってから話しましょう。リディアちゃんはお風呂に入りたいんだって」

「それもそうだね。じゃあ、帰るよー」


 アルクがそう言って手を掲げると、一瞬にして視界が変わり、家のリビングに帰ってきた。

 リビングでは中断されているゲーム画面が映る大型テレビ、ソファーで膝を抱えながらスマホを弄っているカエデちゃん、何か編み物をしているミーアといつもと変わらない光景だ。


「おかえりなさいませ」

「おかえりー」


 ミーアとカエデちゃんが顔を上げた。


「ただいま。ミーア、リディアちゃんがシャワーを浴びたいそうよ」


 そう言いながらナナポンとソファーに座る。


「かしこまりました。リディア様、どうぞこちらに…………マシンガンは置いていきましょうね」


 リディアちゃんはマシンガンをソファーに置くと、ミーアと共にリビングから出ていった。


「アルク、ちょっとそれを持ってみて」


 リディアちゃんが置いていったマシンガンを指差す。


「こう?」


 アルクはマシンガンを手に取った。


「やっぱりリディアちゃん以上に似合わないわね」


 お子様だ。


「えー、似合うでしょ?」


 アルクはマシンガンを構えるが、銃口が俺に向いている。


「顔を狙って撃ってみなさい」

「え? 危なくない?」

「いいから」


 そう言うと、アルクが引き金を引いた。

 すると、乾いた音と共にBB弾が飛び出す。

 BB弾は俺の顔面に向かってきているが、俺の超反応で首を傾け、躱した。


「すごい! よく避けれるね!」

「エレノアさん、すごーい!」


 チビ2人が称賛してくる。


「まあね。私くらいになるとこれくらい余裕なのよ」


 ……首が痛い。

 急に曲げたからぼきって鳴ったぞ……





――――――――――――

書籍を購入してくださった方、ありがとうございます。

これからも変わらずに投稿をしていきますので引き続き、よろしくお願いいたします。

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