第269話 結晶とはなんぞや?


 扉を開け、中に入ると、ナナポンが言うように10畳程度の部屋だった。

 部屋の中は朽ちかけたベッドと机があり、さらには本棚もある。


 俺は気になったので本棚にある本を一つ取り、開いて見てみるが、読めない。

 フロンティア人の文字で書いてあるから読めないのではなく、文字が滲んでいて、文字の体を成していないのだ。


「何ここ? 誰かが住んでたの?」


 ナナポンとリディアちゃんと共に本を一冊一冊確認していると、クレアが聞いてくる。


「多分、そうじゃない? ベッドがあるし」


 誰かが寝泊まりしていたのだろう。


「どこの変わり者よ? 私は絶対にこんなところに住まなわいね」

「誰だってそうでしょ。それでも住んでいたのなら犯罪者とかじゃない?」

「泥棒だったら何かあるかも……」


 クレアはそう言って、机の方に行き、引き出しを探し始めた。


「泥棒はあなたじゃないの……」


 呆れながらに引き続き、本を調べていくが、どれも読めない。

 しかし、リディアちゃんは一冊の本を読んで固まっていた。


「どうしたの?」


 そう聞くと、リディアちゃんが本を見せてくる。


「……ここにある本はちょっとマズいです。すべて処分か回収しましょう」


 リディアちゃんが小声で進言してきた。


「……そうなの?」

「……はい。フィーレの人間には見せない方がいいです」


 リディアちゃんがそう言うならそうなんだろう。


「クレア、本はすべて私がもらうわよ?」


 机の棚を調べているクレアに告げる。


「ハァ? それはさすがにダメよ。貴重な資料じゃないの」


 エージェントのこいつはそう言うか……


「レベル3の回復ポーションをあげるから」

「3つちょうだい」


 お金大好きおばさんめ!


「じゃあ、それで……リディアちゃん、回収して」

「はい」


 リディアちゃんは本棚から一冊一冊を取り出し、自身の空間魔法に収納していく。

 ナナポンもリディアちゃんのお手伝いをし始めた。


「そっちは何かあった?」


 机の引き出しを探っているクレアの方に聞いてみる。


「売れそうな物も有益な情報になりそうな物もないわねー。ペンとかはあるんだけど……」


 有益な情報という言葉よりも先に売れそうな物という言葉が出てくるあたりがこいつの人間性がよく現れていると思う。


「何もないんじゃ仕方がないわよ。ここが終点だろうし、さっさと帰りましょうよ。地図もできたし」

「あんた、いつ地図を描いたのよ……ん? この底が怪しい。多分、二重底ね」


 クレアは何かを見つけたようだ。


「何? どうせしょうもないものでしょ」


 ここにはお宝の匂いがしないし、二重底に入る大きさなんてたかが知れている。


「んー? お、取れた! って何これ?」


 クレアの方を見てみると、クレアが首を傾げながら石を持っていた。


「捨てなさい、そんなの。ただの石ころじゃないの」


 きったね。


「まあ、待ちなさい。こんな所に隠れ住んでた奴がこんな所に隠していた石よ。ただの石じゃない」


 うーん、そうも考えられるか……

 しかし、石ねー……石?

 まさか賢者の石じゃないだろうな。


「クレア、ちょっと待ちなさい」


 そう言って止めたが、クレアはすでに石をじーっと見ていた。


「命の結晶? 何それ? というか、どこが結晶なのよ。石じゃないの」


 ほっ……賢者の石ではなかった…………って、命の結晶かーい!

 生命の水の素材じゃねーか!


「見せて」


 そう言うと、クレアが石を渡してくれたので俺も鑑定してみる。

 すると、俺の鑑定コンタクトにも命の結晶と出ていた。


 本物か……

 これとレベル3の回復ポーションでフロンティアで死んだ人間を蘇らせることができる生命の水が作れる。

 売る気もないし、フロンティアで危ない目に遭うことはもうないから微妙なものだが、一応、作って持っておきたい物だ。

 問題は目の前にいるお金大好きおばさんだ。


「クレア、これどうするの?」

「うーん……名前や隠していた状況的に結構レアアイテムだと思うんだけどねー。でも、どんなアイテムかわからないしなー……ギルドに提出はないし、軍の連中に渡すのも微妙……オークションで売れるか? うーん……」


 ものすごく悩んでいらっしゃる。


「売っても二束三文でしょう。そういうわけでこれは私がもらってあげましょう」


 うん、それがいい。


「あんたが? なんで?」

「こんなもん、いらないでしょ。だから私が責任を持って処分しておきましょう」

「怪しい……あんた、これの用途を知ってるでしょ」


 クレアが目を細めて、じーっと見てきた。


「知らない、知らない。エレちゃん、何も知らない」

「これほどまでにわかりやすい嘘をつく人間がいるとは…………話しなさい。それは何?」

「知らなーい」

「じゃあ、返しなさい」


 チッ、完全にロックオンしてやがる。


「嫌よ。なんで渡さないといけないの?」

「分け前は等分でしょう」

「いや、等分ってどうするのよ……石を半分に割るの?」


 それで2個作れないかな?


「じゃあ、依頼料はあげるからそれを私に寄こしなさい」

「あんたが石を持っても使えないわよ。お金にしときなさい」

「やっぱり知ってるんじゃないの。素直に吐きなさい」


 しつこいおばさんだ。


「よし、お金をあげましょう。ポンっと1億円あげます」


 すごーい。


「いらない。10億でも譲らないわ」


 商売人め……





――――――――――――

書籍の第3巻が昨日発売となりましたが、購入してくださった方、ありがとうございます。

地方によってはまだかもしれませんが、是非ともご購入頂けると幸いです。

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