第268話 鉱山?


 俺達はドラゴンの鱗をしまうと、広間を見渡した。


「もういないわよね?」


 ナナポンにモンスターの有無を確認する。


「いませんね。サンドドラゴンもラフィンスカルもいません」


 面倒な敵だからいないならオッケーだ。


「えーっと、道は……あそこ?」


 広間の奥には通路が見えている。


「そうですね。行きましょう」


 俺達は広間を歩き、通路に向かった。

 そして、広間を抜け、通路を歩いていく。


「それにしてもさっきの広間は何かしら?」


 クレアが聞いてきた。


「サンドドラゴンが暑いからあそこで涼んでいたんじゃないかって私の弟子が言ってたわね」

「いや、そうじゃなくて、元々の用途よ。ここって鉱山でしょ? あそこは何?」


 何だろ?


「休憩スペースじゃない?」

「いや、それにしては広すぎよ。鉱山ならあんな空間は必要ない」


 言われてみればそんな気がする。

 鉱山なんか見たことはないが、鉱石を採掘するのにあんなに広い空間はいらないと思う。


「私に聞かれても知らないわよ。もしかしたら鉱山じゃないかもしれないじゃない」

「まあねー……」


 俺達はその後も一本道の通路を進んでいく。

 すると、ナナポンが袖を引っ張ってきた。


「何? トイレなら我慢するかその辺でしなさい。ちゃんと見ないであげるから」

「違います。あのー……そのー……」


 ナナポンはクレアの方をチラチラと見ながら言い淀む。


「クレア、少し耳を塞いでなさい」

「ハァ? なんで?」


 空気を読めよ。


「ちょっと内緒話があるの」

「まあいいけど……」


 クレアは素直に耳を塞いだ。


「聞こえてんでしょ、おばさん」

「言っておくけど、読唇術が使えるからね。ガキ」


 読唇術……


「明日の天気は?」

「知らないわよ。晴れじゃないの?」


 すごい!


「本当に使えるのね」

「いいからさっさと内緒話をしなさいよ」


 それもそうだな。


「ナナカさん、何?」


 手で口元を隠しながらナナポンに聞く。

 すると、ナナポンも手で口を抑えた。


「この先に扉があります」

「は? 扉?」

「はい。その中は10畳くらいの部屋のようです」


 鉱山なのに?


「どういうこと?」

「わかりません。ここってクレアさんが言うように鉱山じゃないような気がします。だって、トロッコみたいなのがないじゃないですか」


 言われてみればないな……


「空間魔法じゃないの?」

「皆が皆、使えるとは思えません。それでももしかしたらアイテム袋が普及していたという可能性もあるのですが、それにしても鉱山の痕跡がなさすぎます」


 うーん……確かに痕跡は皆無だな。

 ただの洞窟にしか見えない。

 極めつけは扉か……


「リディアちゃん、どう思う?」

「鉱山じゃない可能性は十分にあります。私が鉱山かもしれないと言いましたが、根拠はありません」


 うーん……


「鉱山じゃない……しかも、ここは人が住んだことがない……」


 すごく怪しい。


「まあ、どっちみち、調べないとでしょ。それが仕事だし」

「そうですけど……」

「クレアの耳を塞いだのは?」

「隠し財宝の可能性もあります。そうなると、一旦、解散し、こっそりと回収するということもできます。以前のクーナー遺跡の地下遺跡の感じです」


 なるほど。

 卑劣なカンニング少女は分け前を増やしたいわけだ。


「それは悪手よ。お金大好きおばさんは絶対に帰らないし、譲らない」

「私もそう思いますね。この人もユニークスキル持ちでしょう? ユニークスキル持ちは絶対に譲りません」


 君がそうだもんね。


「では、このまま行きます?」

「そうね。お金は十分に持っているでしょう? というか、ラフィンスカルが出るような所に何度も来たくないわ。万が一、あなたが呪われたら透視が大学にバレるかもしれないわよ?」

「それは嫌です」


 でしょうね。


「ナナカさん、私達はお金という幸福を手に入れたのよ? あとはこれを維持することを考えましょう」

「わかりました」


 ナナポンが頷く。


「クレア、もういいわよ」


 手を下ろし、そう言うと、クレアが耳を抑えていた手を下ろした。


「何だったのよ……」

「この先に扉があるらしいわ。どうやらここは鉱山じゃないらしい」

「へー……となると何かあるわね。行ってみましょう」

「そうね」


 俺達は再び歩き出すと、道なりに進んでいく。

 そして、角を曲がると、ナナポンが言ったように木製の扉が見えた。


「確かに扉ね」


 クレアがつぶやく。


「ナナカさん、罠のようなものはある?」

「いえ、特には……」


 大丈夫か……


「クレア、扉を開けてみて」

「私? 罠はないと思うけど……」

「あなた、元軍人でAランクでしょ。行きなさい」


 頑張れ。


「あんたは長生きするわよ……」


 クレアは呆れながらそう言い、扉に近づくと、調べ始めた。


「どう?」

「何もないわね。開けるわよ?」

「お願い」


 そう言うと、クレアがゆっくりと扉を開ける。

 すると、ギーっという音を立てながら開き、何も起きなかった。


「さすがね。どきなさい。一番乗りは私よ」

「あんた、マジで長生きするわ……」

「そのつもりですけど?」


 俺はおじいちゃんになってもおばあちゃんなカエデちゃんと仲良くするんだ。





――――――――――――

本日、書籍の第3巻が発売となりました!

是非とも土日にでも読んで頂けたらと思います。


https://kakuyomu.jp/users/syokichi/news/16818093079673899224


よろしくお願いいたします。

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