第263話 怖いわー


「まあ、恐ろしい魔物なのはわかったわ。対処も呪われる前に斬り殺せばいいわけだし、何とかなるわね。雑魚だもん」

「そうだね。ラフィンスカルは呪ってくるだけで攻撃してこないから見つけたら即攻撃するか逃げればいいよ」


 よしよし。

 対策できるな。


「それでアルク、もう一つ問題があるのよ」

「何? 問題が多いね」


 ホントだよ。


「奥に広い空間があってね、そこに複数のサンドドラゴンがいたのよ」

「え? 本当?」

「ええ。ナナカさんの透視で確認したから間違いない」

「私に見えないものはないんです!」


 はいはい。

 かっこいい、かっこいい。

 どうせえっちなことを覗いているんだろ。


「サンドドラゴンが洞窟にねー」

「珍しいの?」

「いや、そういうわけでもないけど……あー、暑いから涼しいところに行ったのかな?」


 なるほど。

 所詮はトカゲだもんな。

 わからんでもない。


「とにかく、そういうわけで厄介なのよ。何しろ、洞窟の中だから暗いし、足元が悪くてね」

「確かにそれは危ないね」

「それでどうにかできない? 具体的には明るくできない? 明るかったら斬り殺せるんだけど……」

「サンドドラゴンは硬いよ?」


 クレアも同じことを言ってたな?


「私は鉄も斬れるのよ? ミーア、フライパン持ってきて!」


 斬鉄剣を見せてやる!


「わ、わかったから。やめてよー」

「とにかく、明るかったらどうとでもなるの。あんた、確かに純正の魔法使いでしょ。何かないの? 前に自慢してたじゃない」

「したっけ?」

「空間魔法とかビールを冷やす魔法とか」


 最初にあの地下屋敷に行った時、魔法が使えない俺に散々、マウントを取ってきた。


「あー……ちっちゃ」


 このガキ……


「まあまあ……」


 カエデちゃんが諫めてくる。


「うーん、明るくする魔法ね。普通にライトとかあるけど、どうだろ? たいまつと変わらないよ?」


 たいまつか……

 ナナポンの火と俺のカンテラ程度か。


「師匠、私がお手伝いしましょうか?」


 リディアちゃんが自薦してきた。


「リディアちゃん? 何かできるの?」

「私はホーリーライトという魔法が使えます。それなら多少、広くても昼間のように明るくできますね」


 ホーリー……ライト……

 ホーリー?

 聖なる光……


「え? ダークライトじゃなくて?」

「どういう意味でしょう?」


 リディアちゃんがにっこり笑う。

 でも、目にハイライトはない。

 怖い……


「いや、何でもないのよ。じゃあ、リディアちゃん、ちょっと付き合ってちょうだい」

「お任せを」

「リディアが行くの? じゃあ、僕も行こうかな?」


 お前も来るの?


「私に雑魚3人の面倒を見ろと? 今回はヨシノさんがいないし、クレアはともかく、ハリーなんかはバカだから護衛に不向きよ?」


 俺、いまだにあいつのユニークスキルである鋼糸を見たことがない。

 というか、戦っているところすら見てない。


「あー、厳しいかー」

「2人ならなんとかなるけどね。ナナカさんは一応、戦えるから」


 レベル17だしな。

 ケッ!


「じゃあまあ、リディア一人か……守れよー」

「誰に言ってんの?」

「まあ、クソ魔女は強さだけは確かか……」


 皆様、聞きまして?

 これが挑発レベル7の強者の言葉です。


「ナナカさん、一応、あなたもリディアちゃんを気にかけなさい。王妃様よ」

「わかりました。王妃様の姉弟子の意地を見せます」


 頑張れ、チビ。


「よろしくお願いします、ナナポンさん」


 リディアちゃんがナナポンに向かって軽く頭を下げる。


「う、うん……ナナポンさんはやめてってば」


 無理無理。

 その暗黒面全開の少女は性根がドSだもん。


「よし、決まったわね。カエデちゃん、サツキさんにラフィンスカルのことを電話で伝えてくれる? サツキさんに言えば、本部長さん経由で政府に伝わると思うから」

「わかりましたー。電話してきます」


 カエデちゃんは立ち上がると、リビングから出ていった。


「さて、私もクレアに電話するわ。チビ共、黙ってなさいね」

「わかったー」


 チビ共が頷いたのでクレアに電話をかける。

 すると、ワンコールで呼び出し音が止んだ。


「はーい、クレア、はーわーゆー?」

『ド下手くそね。笑っちゃいそうなレベル』

「ちょっと待ってなさいね」


 翻訳ポーション、翻訳ポーション……


『いいから本題に入りなさい。どうだったの?』

「ウチの弟子3号が明るくする魔法を使えるからそれでいくわ」

『便利な弟子ねー。フロンティア人って噂だけど?』


 せぇーかーい。


「どうでもいいでしょ。私のかわいい弟子よ」

『まあ、どうでもいいか。それでさ、悪いんだけど、ハリーがダメになった』


 は?


「ラーメンの食べすぎでついに倒れた?」

『いや、今日、私達が池袋支部に行ったことでちょっと外国のエージェント共が騒ぎ出してね。ハリーはドンパチに行く』


 まだそんな感じなのか……


「じゃあ、あなた一人?」

『そうなるわね。でも、あいつ、いらなくない? 今日もカップラーメンを2つ食べただけで何もしてないじゃん』


 うん。

 クレアも同じことを思っていたか。


「そうね。図体がでかいだけ」

『でしょー? そういうわけで私一人ね』


 まあいいか。

 人数的には変わらん。

 ラーメンバカがかわいいヤンデレ少女に代わっただけだ。


「じゃあ、それで。明日でいい?」

『そうね。早い方がいいでしょ』


 確かになー。

 フレンドと首相さんが可哀想だ。


「じゃあ、明日、今日と同じ時間ね」

『了解』

「それと大事な話があるわ」

『大事? 金?』


 ホント、お金大好きおばさんだわ。 


「いや、今日、でっかい頭蓋骨がいたでしょ?」

『浮いているしゃれこうべね。気持ち悪かったわー』

「あれなんだけどさ、ラフィンスカルって言うらしいのよ」

『まんまね。確かに笑ってたし』


 英語、わかんない……


「それでさ、そいつ、呪いをかけてくるらしいのよ」

『呪い? まあ、そんな雰囲気はあったけど……』

「青い目が赤くなったら呪いだって。不幸になるらしい」

『それは商売をしている私にとっては恐ろしいわね……』


 確かに……


「しかも、大腿骨をドロップしたじゃない?」

『したわね…………まさか呪いのアイテム?』


 予想がつくらしい。


「だってさ。私がタコさんウィンナーを落としたのはそのせいよ」

『ショボい不幸ね』

「いや、下手すると死ぬレベルらしい」

『最悪ね。何その害悪なモンスター?』


 ホントだよ。


「とにかく、そういう厄介なモンスターだから気を付けて。一応、攻撃はしてこないし、さっさと倒すか逃げればいいそうだから」

『ふーん……売れそうね』


 こいつもブラックナナポンと発想が一緒だ。


「言っておくけど、呪いの骨は他人に譲渡しても自分が不幸なるだけらしいわよ。他人を呪えば……穴…………えっと」

『他人を呪わば穴二つ、ね』


 知ってる?

 俺が日本人でこいつがアメリカ人なんだぜ?


「それそれ」

『やっぱりフロンティア人かしら?』


 頷きてー。


「どうでもいいでしょ。とにかく、他人を不幸にするのはやめた方がいいわ。自分が持ってる分には私がやったように投げ捨てればいいけど、他人に渡すと取り返しがつかなくなる」

『確かにね……これ、かなりの留意事項だわ』


 呪いはヤバいからなー。

 アホな動画投降者が不幸になってみたっていう動画をあげないことを祈るわ。

 いや、ギルドが止めるか。


「そうそう。これをアメリカ側に伝えて。こっちは池袋支部のギルマスに伝えるから」

『了解。明日は見つけ次第、ぶっ殺すわよ』

「わかってるわよ。幸福を掴んだ私達からしたら最悪の敵よ」


 カエデちゃんが正気に戻るかもしれない。


『そうね。じゃあ、明日。今日と同じ時間、同じ場所で』

「ええ。よろしく」


 そう言って電話を切った。

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