第262話 不幸
俺達は洞窟から出ると、顔を見合わせた。
「どうする?」
クレアが聞いてくる。
「ネックなのは暗さね。それをどうにかしないといけない」
「軍の連中に軍用のライトとか借りようか? アメリカの方なら知り合いもいるし、借りれるわよ」
そもそもそいつらのための依頼だし、貸してくれるとは思うが……
「あの広さを照らすには大きいのが必要でしょう? そんなもんを持ち込めるの? 時間がかからない?」
以前もクーナー遺跡の地下に設置されていたが、かなり大きかった。
「かかるわね……時間がかかるのは依頼主が嫌がりそう」
依頼主は日本とアメリカの政府かな?
「絶対に嫌がるでしょうね」
「じゃあ、どうする? いっそ、やめてもいいと思うわよ。そこまでの依頼料じゃないし、状況を説明して、あそこまでの地図を渡せば後は向こうが勝手にやるでしょ」
うーん……
しかし、途中でやめるのはなー……
いや、灯りならアルクとリディアちゃんのどっちかがどうにかできる気がするな。
「……ちょっと弟子に相談してみるわ」
「チビ2号と3号? 3号は見たことないけど」
3号のリディアちゃんはここの説明会の時に姿を見せただけだ。
「私の弟子は皆、便利…………優秀だからできるかもしれないわ」
「あなたの弟子って可哀想ね。完全なコマじゃないの」
かわいがってるし、ちゃんと奢ってるぞ。
「こんなに慕ってくれてるわよ」
背中に引っ付いているナナポンを見る。
「そうですよー……」
ナナポンが抱き着いてくる。
絶対に沖田君にはやらない行為だ。
本当に足して2で割ってくれって思う。
「まあいいわ。とにかく、あんたの弟子でどうにかできるかもしれないわけね?」
「ええ」
「じゃあ、それでお願い。今日は帰りましょう」
俺達は帰ることにし、ゲートまで戻る。
道中に自衛隊やアメリカの軍とすれ違ったが、やはり誰も目を合わさなかった。
「嫌われているのかしら?」
「あんたが何を考えているかわからないから触れるなってお達しが行ってるんでしょうよ」
今回に至っては何も考えていないというのに。
「まあ、いいわ。私達はゲートをくぐって池袋ギルドに戻るけど、あんたらは?」
「私達もよ。そこから来たからね」
あ、そうなんだ。
「じゃあ、帰りましょうか」
俺達は4人でゲートをくぐると、懐かしき池袋ギルドに転移した。
「じゃあ、私らは帰るわ。夜にでも連絡してちょうだい」
「じゃあな」
クレアとハリーがさっさと出ていったのでスマホを取り出し、カエデちゃんに電話する。
『もしもしー?』
「あ、カエデちゃん? アルクは?」
『リディアちゃんとゲームしてますよ』
いつも通りなわけね。
「アルクに終わったから迎えに来てもらうように言って。ゲートのところだから」
『わかりましたー』
カエデちゃんが電話を切ると、すぐにアルクが姿を現した。
「早かったねー」
「ちょっとね……帰ったら説明するわ」
「わかった」
アルクが手をかざすと、視界がリビングに変わる。
そして、俺とナナポンがソファーの方に行くと、アルクはテレビの前に行き、ゲームを再開しだした。
「あー、疲れた」
「ですねー」
俺とナナポンはソファーに座る。
すると、すぐにミーアが冷えた麦茶を持ってきてくれた。
「お疲れ様です」
「ありがと」
「ありがとうございます」
俺達は麦茶を飲み、一息つく。
「先輩、早かったですね?」
隣に座っているカエデちゃんが聞いてきた。
「ちょっと問題があってね…………チビ共、集合!」
そう言うと、アルクとリディアちゃんがゲームを中断して、こちらにやってくる。
「何、何?」
「何でしょうか?」
2人がソファーに座ると、ミーアがキッチンに行き、おやつの準備をしだした。
「今日、エメラルダス山脈の謎の洞窟に行ってきたわけだけど、リディアちゃんが言うように鉱山跡っぽかったわ」
「やはりですか……」
「それでさー、洞窟の中にでっかい頭蓋骨が浮いてたんだけど知ってる? しかも、ドロップ品が何故か大腿骨だった」
何だあれ?
「頭蓋骨……」
「ラフィンスカル……」
あれ?
知ってるっぽいぞ。
「何それ?」
「エレノア、ドロップ品は? 持って帰ってない?」
アルクが焦った感じで聞いてくる。
「クレアに鑑定させたら大腿骨だけが出てきたから捨てたわよ。使えそうにないし、売れそうにもない」
何の骨かわからないのが怖いわ。
「そう……」
「良かったです……」
アルクとリディアちゃんがほっとした表情になった。
「え? ホントに何?」
「ラフィンスカルは呪ってくる厄介なモンスターなんだよ」
「は? 呪い? 何それ?」
マジ?
「ラフィンスカルの目は青く光ってたでしょ? それが赤くなると呪いを放ってくる」
確かに青かった……
「赤くはなってなかったわよね?」
ナナポンに確認する。
「ええ。何かする前にエレノアさんが両断してましたし、青のままでした」
だよね。
「呪いって何なの?」
「不幸になるらしいよ。財布を落とすとか」
地味に嫌だな……
「うざいわねー」
「まだそれだけならいいよ。ドロップ品が厄介なんだよ」
「骨?」
確かに邪魔だし、薄気味悪いわ。
「その骨も呪われていて、めちゃくちゃ不幸になるんだよ」
「下手をすると、事故で死にます」
こえー……
「何、その激ヤバアイテム?」
「ヤバいでしょ。持って帰らなくて良かったよ」
そんなに不幸に……あれ?
「あ! 私のタコさんウィンナーが落ちたのはもしかして!?」
「いや、あれはエレノアさんがドジっただけでしょ」
ナナポンが呆れる。
「言っておくけど、私、めちゃくちゃ器用なのよ? 小豆を摘まんで隣の皿に移すのがめちゃくちゃ得意なレベル」
「そういえば、先輩、箸の持ち方がきれいですよね」
「でしょー? 親にめちゃくちゃ躾けられたもん」
カエデちゃんはちょっとあれだけど……
まあ、許容範囲内だし、かわいいからオッケー。
「まあ、呪いの骨のせいかもだけど、それで済んで良かったよ。リディアも言ったけど、下手すると死ぬレベルだから」
危ねー。
捨てなさいって指示してくれたクレアに感謝だ。
「でも、そのアイテム、危なくないですか? そんなに不幸なアイテムなら嫌いな人に渡せばいいじゃないですか」
ナナポン?
その嫌いな人って沖田君じゃないよね?
……こいつ、卑劣なブラックナナポンだけあって、人を貶めるアイディアがよく浮かぶわ。
「それができないんだよ。例えば、僕がクソ魔女憎しと思って、呪いの骨を幸運の骨と偽ってハジメに渡すとするじゃん?」
おい……
俺を例に出すな。
お前は俺の事、大好きだろ?
尊敬する師匠だろ?
「どうなるんです?」
「僕が呪いをもらう。譲渡できないんだよ。普通に捨てるしかない」
「そっかー……」
なんで残念そうなんだろ?
ナナポン、怖いな……
「アルク、じゃあ、ギルドに説明だけすれば大丈夫な感じ?」
「うん。ラフィンスカルはそんなヤバいモンスターだから有名だけど、滅多に出ない珍しいモンスターだからそんなに遭遇することはないんだ。でも、まさかエメラルダス山脈にいるとはね」
怖いわー。
日本の皆さん、アメリカの皆さん、エレノアさんを恨まないように。
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