第259話 久しぶりのエメラルダス山脈


 調査の仕事の話を聞いた翌日は久しぶりの冒険のため、準備をした。

 そして翌日、朝早くに起きた俺は隣で寝ているカエデちゃんを揺する。


「朝だよー」

「……眠いでーす」


 自堕落な嫁だなー。

 人のことは言えないが、ミーアが来てから本当に何もしなくなってしまった。

 まあ、かわいいからいいんだけどさ。


 優しい俺は頭を叩かずにベッドから降り、TSポーションを飲むと、エレノアさんにチェンジする。

 すると、あら不思議。

 寝ぐせも何もかもなくなった。


 そのまま服を着て、部屋を出ると、リビングに向かう。

 すると、すでにアルクとミーアがおり、アルクは朝食を食べていた。


「おはよう。リディアちゃんは?」


 席につくと、アルクに聞く。


「寝てる。カエデは?」

「寝てる。ミーア、ご飯」

「はい、ただいま」


 ミーアが俺の分の朝食を準備しだした。


「怠惰な奥さんだね」

「あんたのところもでしょ。まったく……旦那が朝早くに起きて仕事に行くっていうのに……」


 一緒に起きようとは思わんのか?


「どうぞ……」


 ミーアが朝食をテーブルに並べてくれる。


「ありがと。ところで、その顔は何? 何か言いたいことでも?」

「いえ、何も」


 嘘つけ。

 めちゃくちゃツッコみたそうな顔になってるぞ。


「言いなさい」

「一昨日、カエデ様がまったく同じことをおっしゃられていました」


 あっそ。

 夫婦だから似たんだろう。


「ミーア、お風呂を用意しておいて。まだナナカさんが来るまで時間があるし、ご飯を食べたら入るから」

「かしこまりました」


 便利なメイドさんだわ。


 俺はその後、朝食を食べ、風呂に入った。

 風呂から上がると、部屋に戻り、まだ寝ているカエデちゃんを起こさないように慎重に黒ローブに着替える。

 そして、リビングに行くと、すでにナナポンが来ており、コーヒーを飲んでいた。


「おはようございます」

「はい、おはよう。今日は遅刻しなかったわね」


 挨拶を返しながらテーブルにつくと、ミーアが俺の分のコーヒーを置く。

 そして、俺の後ろに回ると、櫛を使って、長い金髪を整え、ポニーテールを作ってくれる。


「ヨシノさんじゃないんですから遅刻しませんよ。というか、メイドさん、便利ですね。至れり尽くせりじゃないですか」

「便利で良い子だわ。カエデちゃんにチクるのが玉に瑕ね」

「沖田さん、結婚されたのにまだ変態チックなことをしているんですか?」


 変態ではない。

 ただの愛だ。

 カエデちゃん、良い匂いがするんだもん。


「うるさいわねー。あなた、彼氏できた?」

「彼氏? ふっ……」


 この子、男嫌いが加速してない?

 ヨシノさんとの冒険でナンパが多いと聞いているが、何かあったか?


「異性はいいわよ? カエデちゃん、すごく良い匂いがするし」

「エレノアさんも良い匂いがしますよ」

「ありがと……」


 前から思ってたけど、こいつ、そっちの気が強いな……

 沖田君とエレノアさんの対応を見ると、天と地だし。


「エレノア様、そろそろ時間ですよ」


 ミーアに言われて、時計を見ると、約束の時間の5分前だった。

 俺とナナポンは残っているコーヒーを飲み干すと、立ち上がる。


「アルク」

「はいはい」


 テレビの前で座り、ゲームをしていたアルクが立ち上がり、こちらにやってきた。


「エレノア様、どうぞ」


 ミーアがお弁当を二つと傘を渡してくれたのでお弁当をカバンにしまう。


「ありがと。じゃあ、留守番をお願いね。あと、カエデちゃんを10時くらいに起こしてあげて」

「かしこまりました。お気を付けて……」

「ん。アルク、お願い」

「はいよー」


 アルクが手をかざすと、視界が一気に変わった。




 ◆◇◆




 目の前には草木が生えてない平原が広がっていた。

 そして、数百メートル先には高い山脈が見えている。


 風もあり、気持ちいいのだが、日差しが強い。


「あつー……じゃあ、連絡してね」


 アルクは嫌そうな顔で太陽を見るとすぐに転移で帰っていった。

 俺はミーアが用意してくれた日傘をさす。


「あ、その傘でしたか」

「日差しは天敵らしいわよ」


 ミーアが昨日、そう言っていたのでカエデちゃんに借りたのだ。


「確かに」


 ナナポンは頷くと、くっついてきた。


「暑苦しいわね」

「別にいいじゃないですか」


 百合ポンめ。


 背中に隠れるナナポンを連れ、ゲートの近くにいるクレアとハリーのもとに行く。


「よう。今日は黒ローブだな」


 ハリーが軽快に声をかけてきた。


「そういうあなた達はいつもと変わらないわね」


 こいつらと冒険に来るのは初めてだが、普段と同じ服装だし、装備も見えない。


「常在戦場って知ってるか?」

「ふーん……」


 俺は目を細めると、ハリーに傘を向け、見えなくする。

 そして、フードから剣を取り出した。


「おい、何だよ……うおっ!」


 ハリーが傘をどかしたが、目の前に剣があったため、驚いて数歩下がった。


「どこが常在戦場よ」

「気配を消すな。殺気を消すな」


 消すも何もそもそも冗談だから殺気を込めていない。


「このクソ暑いのにバカなことをしているんじゃないわよ。準備はいい?」


 クレアが聞いてくる。


「こっちは大丈夫。ところで、自衛隊やアメリカ軍の連中は?」

「そいつらは山の方で調査中よ。出くわすかもだけど、変なことはしないでね」

「こっちのセリフね」


 変なことするなよ。


「しないわよ。それでそのチビは何してんの?」


 クレアが俺の背中に隠れているナナポンを見る。


「内気な子なのよ。あんたが以前、私に銃を向けてきたからビビってる」

「助けてやったのに?」


 攫われた時にナナポンを救助したのはクレアだ。


「基本、ビビりなウサギちゃんなの」

「ふーん……サングラスが似合ってないわよ」


 クレアがそう言うと、ナナポンが顔を引っ込めた。

 ナナポンは服装こそ普通だが、変装用にサングラスをかけているのだ。


「ウサギというより、亀だな」


 確かにそうかもしれない。

 どんくさいし。





――――――――――――


いつもお読みいただきありがとうございます。


ちょっと宣伝です。

また改めてお知らせしますが、本作の3巻が今月末(6/28)に発売します。

予約受付中なので是非ともお買い求めください。


他作品も含めて今後ともよろしくお願いいたします。

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