第260話 骨と縁があるね


 俺達は山を目指して平原を歩いている。


「日本の夏は湿気が強くて最低だけど、ここはここでクソ暑いな」


 ハリーが言うように日差しは強いが、湿気はそんなにひどくない。


「ホントよね。しかし、あんたは優雅ね」


 くっつき虫のチビが見えんのか?

 全然、優雅じゃないわ。


「ちゃんと準備しなさいよ。日に焼けるわよ?」

「軍にいた頃にそんなもんは捨てたわ」


 軍人さんって大変なんだなー。


 俺達がその後も日差しの強い平原を歩いていると、ナナポンが服を引っ張ってきた。


「どうしたの?」

「上……」


 ナナポンが上を指差したので傘をどけると、上空には鳥が飛んでいた。


「そういえば、デザートイーグルがいるんだったわね」

「やりましょうか?」


 ナナポンが?

 レベル17のお前が?


「クレア、やりなさい」

「はいはい」


 クレアは羽織っているジャケットの内ポケットからナイフを取りだす。


「ナイフ? そんなんでどうするのよ? 飛んでるのよ?」

「黙って見てなさい」


 クレアは俺を遮ると、ナイフを構え、投げた。

 ナイフはまっすぐデザートイーグルに向かって飛んでいっている。


「避けるでしょー…………あれ?」


 デザートイーグルはまったく避けようともせずに飛んでおり、そのままクレアが投げたナイフが突き刺さって落ちてきた。


「んー? 何あれ?」


 なんでデザートイーグルは反応しなかったんだ?


「私のスキルの認識阻害よ。あれでナイフの存在感を消したの」

「へー……」


 こいつのユニークスキルって地味に強力だよな。

 対処法ははっきりしているが、初見殺しがすぎる。


「そういえば、あなたって暗殺術のスキルも持ってたわね。怖い、怖い」


 エージェントとか言ってたけど、暗殺者じゃん。


「あんたの思考回路の方が怖いわよ」


 クレアがそう言うと、ハリーがうんうんと頷く。


「頭の中身はお互い様でしょうに」


 お前らもユニークスキル持ちだろ。

 ラーメンバカとお金大好きおばさんめ。


 俺達は再び、歩きだし、山を目指した。

 そのまま歩いていると、山の麓にいくつものテントが見えだす。

 さらには迷彩服を着た男達が列を作っていた。


「自衛隊かしら?」


 見た感じが日本人だし、多分、そうだろう。


「そうね。余計なことをしないでね」

「しつこいわよ」


 俺達は自衛隊の人達の横を通っていく。

 その際に柳さんや前田さんがいないかなと探してみるが、いなかった。

 それどころか誰も俺と目を合わさない。


「何あれ? 感じ悪いわね」

「以前のことを知っているんじゃないです? 散々、カエルにするとか言って脅してたじゃないですか」


 そんなこともあったな。


「エレノア、こっちよ」


 クレアはそう言って山道ではなく、右の方に歩いていく。

 そのまましばらく歩いていくと、山の岩肌に開いた穴が見えてきた。


「ここ?」

「そうよ」


 洞窟は幅も高さも十分にあり、この人数が横に並んでも通れる大きさはある。

 しかし、中は暗くてよくわからない。


「中はどれくらい調べたの?」

「少し入っただけみたい」

「そうなの?」

「聞いてない? 自衛隊とウチの軍で揉めているのよ」


 あー、聞いたな。

 どっちが調べるのかで揉めたんだろう。


「共同借地なんてよせば良かったのに」

「じゃなきゃ他国に勝てなかったわよ」


 そんなもんかねー?


「開放しても今度はアメリカの冒険者と日本の冒険者で揉めそうね」

「絶対に揉めるわ。そもそも言葉が通じない可能性が高い。だから一月ごとに制限するらしい」


 なるほどね。

 交互に開放するわけだ。


「どっちが先かで揉めた?」

「それはウチ。多くの金を出したのはウチの国だもの」


 なるほどね。

 まーた首相さんの支持率が下がりそうだわ。


「まあ、入ってみますか。ナナカさん」

「エージェント・セブン……」


 そうだったね。


「はいはい。エージェント・セブン、灯りを」


 そう指示すると、ナナポンが俺から離れ、火の玉を出す。

 俺も日傘をしまい、代わりにカンテラを取り出すと、カバンに付けた。

 さらにオートマップにしている方眼紙を用意する。


「あんたが先行して。後ろは私達が対処する」


 クレアとハリーも懐中電灯を取り出した。


「わかった。行くわよ」


 俺とナナポンが先頭となって、洞窟の中に入っていく。

 洞窟の中は足元がごつごつしていて歩きにくい。


「足元に気を付けなさい」

「はい」


 ドジなナナポンに気を遣い、ゆっくり進んでいくと、壁にはたいまつをさせる金属の籠が設置されているのが見えた。


「リディアちゃんの推測通り、鉱山の跡みたいね」

「以前、作物が育たないから住んだことはないって言ってませんでしたっけ?」


 確かにそんなことを言っていた気がする。

 それで鉱山も閉鎖かな?

 うーん……


「その辺はわからないわね。どちらにせよ、どうでもいいことだわ。クレア、この鉱山が生きていたらどうするの?」


 採掘のことがあるから冒険者は来れない。


「冒険者に開放するエリアを制限するのよ。そのためにもこの鉱山を調査する必要があるの。だから地図ね。ちゃんと描いてる?」

「描いてるわよ……ん?」


 奥からカタカタという音が聞こえてくる。


「エレノアさん、なんか骸骨がいます」

「スケルトン?」

「いえ……あ、あの、頭蓋骨が宙に浮いています……ひえー」


 ナナポンが俺の後ろに隠れる。


「何を言ってるのよ……」

「うおっ!」

「エ、エレノア、前……」


 んー?

 アメリカ人2人が驚いているので前を向くと、ナナポンが言うように頭蓋骨が浮いていた。

 しかも、大きさが人間のものよりも数倍は大きく、さらには目が青く光っていた。


「何これ?」

「巨人のおばけですー!」

「アホか……」


 フードの中から剣を取り出し、構える。

 すると、頭蓋骨は嬉しいのかわからないが、カタカタと笑い出した。

 すげーバカにしている気がする……


「チッ!」


 俺は上段に構えると、踏み込んで剣を振り下ろす。

 すると、飛んでいる頭蓋骨が脳天から真っ二つに割れ、地面に落ちた。


 頭蓋骨は目の光がなくなると、煙となって消えていく。


「雑魚かしら?」


 よくわからん。


「エレノアさん、よく突っ込めますよね……不気味すぎです」

「ただのモンスターでしょう。さっさと行くわよ」


 俺はドロップの品のよくわからない骨を拾うと、再び進みだした。

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