第256話 お仕事


「どういうこと?」

『お前、ニュースとか見る?』


 ニュース……


「たまに見ますよ」


 基本、チビ夫妻がテレビを独占してゲームしてるから滅多に見れないが、スマホでネットニュースくらいは見る。


『お前が売ったエメラルダス山脈が上手くいってないのは知ってるか?』

「あー、なんかまだ開放してないんでしょ? 何してんだって叩かれているね」


 エメラルダス山脈を売り飛ばして半年くらい経っているのにいまだに冒険者に開放されていない。

 当初の予定では6月に開放予定となっていたのに延期しており、不満があちこちから出ているとニュースでやっていた。

 それに掲示板でも早くしろって書いてあった。


『それなー。ちょっと問題事が多いみたいでな』

「問題事って?」

『まず、エメラルダス山脈が想像以上に広かったことと共同借地がゆえに自衛隊とアメリカ軍の調査の足並みが揃わないことが遅れの最大の原因だ』


 あー、ありそう。


「共同借地なんて例がないもんな」

『そうなんだよ。しかも、厄介なのが例のドラゴン』


 例のドラゴンとはサンドドラゴンのことだろう。

 地面や岩に擬態するモンスターで体長が5、6メートルもあるでっかいトカゲ。


「アルクが対処法を教えてたじゃん」


 怪しいところに石でも投げればいいらしい。


『怪しいどころだらけで石を投げまくっているらしい。当然、遅れる』


 そりゃそうか。

 相手は体長が5、6メートルもあるバケモノだし、慎重にもなる。

 以前、自衛隊と一緒に行動した時もこれでもかっていうくらいに慎重だったし、時間はかかるだろう。


「それで遅れているのか……大変だな」

『ああ、大変だ。以前ほどじゃないが、ウチにも問い合わせの電話が殺到している。ようやく収まってきたというのに……』


 エレノアさんのせいで電話線を引っこ抜いたらしいからなー。


「ご愁傷様」

『うるさいからまた電話線を引っこ抜いてやったわ』


 自由な人だな。

 さすがサツキさん。


「よかったですね」

『ああ。それで遅れているんだが、来月には解放できそうな目途がついていたんだよ』


 へー……

 ん? 過去形だ。


「何かあったの?」

『もう一つ問題が浮上したんだわ』


 問題だらけだな。

 言っておくが、エレノアさんのせいじゃないぞ。


「問題って?」

『変な洞窟が見つかった……』

「洞窟……」

『当然、それの調査をしないといけないんだが、このままのペースだと非常に厳しい。まーた延期だ』


 だろうね。

 測量しないといけないし……

 測量……


「それで冒険者に戻らないかってどういうことなん? まさか俺に行けって言ってるんじゃねーだろうな」

『おー、沖田君が賢い』


 誰でもわかるわ。


「マジで言ってんの?」

『うん。ちょっと説明するな。以前、お前らがクーナー遺跡の地下遺跡で地図を作っただろ?』

「作ったね。今となってはショボいと感じる金の延べ棒があった」


 今はその百倍以上の金を持っている。


『その実績を買われてウチに依頼の話が来たわけだ』

「なるほど……でも、引退してるぞ」

『そう。だから私としては便利な透視持ちに行かせようと思ったわけだ』


 ナナポン?


「無理じゃね? あいつ、弱いぞ」

『もちろん護衛は付ける』

「ヨシノさん?」

『あいつに話を持っていったら『お金になるの?』の一言で電話を切られた』


 相変わらずの銭ゲバだなー……

 ホント、顔とおっぱいしか長所がない。


「まあ、ヨシノさんはそう言うかもな。あの人、危険なことはしないし」


 ただでさえ、慎重なのにやる気もないだろう。


『だと思うが、即行で切ることなくないか?』

「気心が知れた従姉だったからじゃないの?」

『あいつめ……あ、いや、ヨシノはどうでもいい。とにかく、ヨシノに断られたから別の冒険者が護衛に付くことになったんだが、ナナポンが駄々をこねた』


 駄々ねー……


「そりゃそうでしょ。あいつ、内弁慶の気弱ウサギじゃん」

『そうなんだよ。まあ、目の前にいるんだが、ホント、内弁慶』


 目の前にいるのか……

 多分、カエデちゃんもいるな。


「エレノアさんと行きたいと?」

『そうそう。エレノアさんがいいってうるさい』


 ナナポンだなー。


「それで俺に行けと?」

『ナナポンが透視してくれるし、パパッと地図を作ってくれ』

「ふーん……」


 どうしようかな?


『ダメか?』


 正直、ダメじゃない。

 暇だし、行ってみたいという気持ちと身体を動かしたいという気持ちが強い。

 でもなー……


「ウチの嫁は何て?」

『チッ! カエデは別にいいんじゃねって言ってる』


 舌打ちしやがった……


「いいの? カエデちゃんが止めるかと思ったんだけど……」

『最近、剣をぼーっと眺めてるらしいな? 怖いって言ってるぞ』


 …………今も持ってます。


「怖いの? アルクも言ってるけどさ」

『何か事件を起こしそうって言ってる』

『人斬り魔女は平和に生きられないんですよー』


 ナナポンの声だ。

 スピーカーモードだな。


「事件は起こさないけど、カエデちゃんが行ってもいいって言うなら行こうかなー」

『いいのか? たいして金は出んぞ』

「もうお金なんていらないわ。いくら持ってると思ってんだよ」

『まあ、そうだな。しかし、お前がタダ働きするとはな』


 黄金の魔女だもんね。


「いや、マジで暇。最近の俺はカエデちゃんと酒を飲んでるかチビ2人のゲームを見てるかだぞ」

『黄金のニートですね』


 ブラックナナポンうぜーな。

 お前も似たようなもんだろ。


「まあ、そんな感じ。だからちょっとピクニックに行きたい」

『ピクニックか? まあいい。じゃあ、頼むわ』

「了解です。いつ行けばいいの?」

『その辺はそっちで調整してくれ。アメリカも冒険者を出すそうだ』


 共同借地だからか……

 ん?

 アメリカ……


「まさかラーメンバカとお金大好きおばさんじゃないだろうな?」

『そいつら。だからナナポンが嫌がった。お前に銃を突き付けているのを見てるからな』


 なるほどね……


「マジ? あいつら?」

『第一条件で言葉が通じることだからな』


 翻訳ポーションがあるってのに……

 まあ、探ってきそうな知らない奴より気心の知れたバカ二人の方がいいか。


「わかった。じゃあ、ナナポンと行ってくるわ。ナナポン、夕方にカエデちゃんと一緒にこっちに来い」

『今からでも大丈夫ですよ?』

「先にバカ二人と会って話をしてくるわ」

『なるほどー。わかりました。では、お邪魔します。メイドさんの料理美味しいんですよね』


 ホント、ホント。

 さすがは俺のミーア。


「じゃあ、頼むわ。カエデちゃんにお仕事頑張ってね、愛してるって伝…………切れた」


 なんて奴だ……

 いや、サツキさんか?


 どっちもだな……

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