第255話 24時間エアコンつけっぱ生活


 アルクとリディアちゃんのパーティーでの襲撃事件から2ヶ月が経った。

 今はすでに7月となっており、かなり暑い。

 だが、俺はというと、涼しくて広いリビングで悠々自適に過ごしていた。


 俺達はカエデちゃんとリディアちゃんと話し合いをし、ついに広いマンションに引っ越したのだ。

 新しいマンションは部屋の数も多いし、リビングも広い。

 それでいてメイドさん付きだから何もしなくてもいい。


 実に素晴らしい自堕落生活を送っていた。


「しかし、暇だな……」


 俺は刀を眺めながらつぶやく。


「ハジメさー、刀を見るのをやめなよ。君、ものすごく怖いよ」


 相変わらず、テレビの前でゲームをしているアルクが呆れたように忠告してきた。

 かつて、鎧でガチガチだったアルクも夏になったのでTシャツにハーフパンツで非常に楽で涼しそうだ。

 しかし、薄着になっても性別がどっちかわからない。

 隣にリディアちゃんもいるから男の子だと思うのだが、顔は中性的だし、痩せているチビだからまったくわからないのだ。


「暇なんだよ」

「働け。カエデは働いているでしょ」


 カエデちゃんは非常勤だが、今日はその働く日だ。

 朝、恨めしそうな顔で寝ている俺の顔を叩いて仕事に行った。


「俺だって働いている。この前、リディアちゃんのお茶会の護衛に行った」


 リディアちゃんが婦人連中を招いて挨拶という名のお茶会をするということで護衛をしについていったのだ。


「飲み食いしまくったあげく、居合切りを見せるとか言ってコインを切ったやつね……何してんの? バカなの? 護衛の意味知ってる?」


 ご婦人方には好評だったんだけどな……


「襲撃犯もいなかったし、お茶飲んでベラベラしゃべっているのを聞くだけだぞ? めっちゃつまらんかった」

「まあ、婦人会のお茶会はつまらないだろうけど……」


 自慢話ばっかり。

 しかも、半分以上、何の話かわからなかった。


「そんなことないですよ。楽しかったです。それに師匠の剣技は素晴らしかったです。お庭の岩を切った時は皆さん、拍手をしておられました」


 アルクとゲームをしているリディアちゃんが称賛してくる。

 リディアちゃんもTシャツにハーフパンツで涼しそうな格好をしている。

 まあ、この子は髪も長いし、かわいいので女の子だというのはすぐにわかる。

 当たり前だけど。


「何それ!? 聞いてない!」


 言ってないもん。


「言ってませんから」

「言ってよー……最近、あの魔女は何だっていう問い合わせが多いんだよ」


 うーん……フロンティアでもエレノアさんの知名度が上がってきたな。

 一方でこっちではかなり下がってきている。

 テレビを見てもエレノアという言葉を聞くことは滅多になくなった。


「ちゃんと師匠って説明しろよ」

「しないね」

「したけど……」

「えー……」


 嚙み合わない夫婦だなー。


「どうでもいいけど、他に手伝うことないの? 暇だぞ」


 本当に暇。


「うーん……今はあまりないですね」

「君が来るとロクなことにならないんだなー。普通にコンビニとかで働けば?」


 嫌だわ。


「モチベーションが上がらない」

「わがままな奴……」


 うっさいわ。


「冒険者に戻りたい……」

「斬りたいって言いなよ。素直に剣術を自慢したいって言いなよ」


 まあ、そうなんだけどさ。


 どうしようかなーと悩んでいると、リビングの扉が開かれ、聞き覚えのある音が聞こえてきた。


「ハジメ様、携帯電話が鳴っておられますけど……」


 俺らの部屋の掃除をしてくれているミーアが扉から顔を出して、俺のスマホを見せてくる。


「あ、悪いね。ちょうだい、ちょうだい」

「どうぞ」


 ミーアがこちらに来て、スマホを渡してくれたので画面を見てみる。


「ん? サツキさん?」


 画面にはサツキさんの名前が表示されていた。

 サツキさんから電話がかかってくるのは非常に珍しい。

 用件がある時はカエデちゃん経由だし、今日だって出勤しているのだから用件があればカエデちゃんに言うはずだ。


「もしもしー?」


 よくわからないが、一応、出てみる。


『おー、沖田君。久しぶりだなー』


 確かに久しぶりだ。

 サツキさんの声を聞いて、懐かしいと思ったし。


「半年ぶりぐらい? 話はカエデちゃんやナナポンから聞いているんだけどさ」


 なお、ナナポンは主に愚痴だ。


『そうだなー。あ、結構前だが、おみやげをありがとうな』


 おみやげ?

 新婚旅行のおみやげかな?


「チラガー?」

『そうそれ。美味かったわ。あれ、高いだろ。悪いなー』


 高かったかな?

 金持ちになった俺は値段を見ないのだ。


「ナナポンにあげようと思ったんだけど、拒否られたからな」

『だろうな。見た目のインパクトはすごかったわ。食べたけど』


 さすがはサツキさん。

 度胸が違う。

 いまだにこの人がユニークスキルを持っていないのが信じられない。


「まあ、喜んでもらったならよかったですよ。それで何の用です? 俺、チビ2人の面倒を見るのに忙しいんですけど」

「散々、暇って愚痴ってたじゃん」


 アルク、うるさい。

 暇人ニートと思われたくないんだよ。


『そうかー。暇かー。実は頼みがあるんだよ』


 頼み?


「頼みって? 俺、受付とか無理だよ」

『そんなもんをお前に頼まんわ。計算もできんだろ』


 失礼な。

 自信ないけど……


「じゃあ、何?」

『お前、ちょっとだけ冒険者に戻らない?』


 はい?

 そんなことできるの?

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