第253話 一息
王様にいつもの地下屋敷に送られた俺達はミーアが淹れてくれたお茶を飲みながらアルクを待つことになった。
「エレノアさん、刺客によく気付きましたね?」
ナナポンが感心したように聞いてくる。
「以前、ヨシノさんに気配察知のスキルを教えてもらったからね。散々、ボコられた甲斐があったわ」
「人聞きの悪いことを言うな。ちゃんと手加減してただろう」
その手加減がバカにされているようでムカついたがな。
「じゃあ、ヨシノさんも気付いていたんですか?」
「もちろん気付いた。ほぼ同時くらいかな?」
「へー。すごいですね」
ナナポンはヨシノさんに感心する。
「あなたはやっぱり透視に頼りすぎよね。後方が不注意だわ」
以前も攫われているし、一緒に冒険していた時も後ろをほぼ見てなかった。
「今日に限って言えば、エレノアさんのせいですよ。飲みすぎです」
「それは私も思ったな。厚顔無恥にも程がある。最後はアルクの椅子に足を組んで座ってたし、客の連中も『何あれ?』っていう顔をしてたぞ」
2人が呆れる。
「私は自由に生きることにしてるし、好きにしようと思ってるの。だって、悪名も誹りも沖田君じゃなくて私だもの」
関係ないね。
「こういう奴が私のことをネットで誹謗中傷するんだろうな……」
しねーわ。
直接言うし。
「ヨゴレさんの評判はどうでもいいけど、本当に刺客が来たわね」
「おい……ヨゴレ言うな」
「ですねー。最初は和やかでしたし、とてもそうは思えませんでした」
後半に狙うという作戦かもな。
全員が酒を飲み、ようやく終わるという一番油断しやすい時を狙ったんだろう。
「多分だが、王様はある程度、予想していたんだろうね」
ヨシノさんが思案顔になる。
「まあ、そうでしょうね……ん?」
俺達が話をしながらお茶を飲んでいると、ノックの音が響いた。
「アルクか?」
「無神経のあいつは直接ここに飛ぶわよ。王様でしょ……どうぞ」
入室の許可を出すと、扉が開き、予想通り、王様が入ってくる。
「アルクはまだ戻ってきていないようだな?」
王様はそう聞きながら近づいてきた。
「そのうち来るとは思うけどね。どうせカエデちゃんとお茶会でもしているんでしょ。暇そうだったもん」
リディアちゃんもだが、ずっと座っているだけだったから大変そうだ。
「そうか……やけにお前の家を気に入っているようだな?」
王様が呆れながらそう言い、席につく。
「ゲームばっかりしてるわ。まあ、王様の仕事も大変そうだし、いい息抜きになるんじゃないの?」
「まあ、そうだな。しかし、いいのか? リディアも訪ねているらしいが、邪魔ではないのか?」
「全然。賑やかで良いし、副産物のメイドさんが家のことを全部やってくれるからとても楽」
もちろんミーアね。
「お前が大丈夫ならそれでいいが……」
「弟子のためだもの。かわいいものよ」
俺、優しい。
「弟子か…………まあいい。今日はご苦労だった。これから調査やら何やらとやることがあるが、ひとまずはアルクが次の王になることとリディアとの結婚を発表できた。感謝する。褒美は何がいい?」
「いらない。お金はあるし、2人のためにやったことだもの」
所詮は暇つぶし。
「うむ……そうか」
「それよりもアルクとリディアちゃんは結婚式とかしないの? 私、挨拶をする予定なんだけど?」
「挨拶……いや、するとは思うが、あんなことがあっては先の話だろうな」
それもそうか。
あの刺客はアルクを狙っていた。
「仕方がないわね……」
「まあ、そういうことだ。すまんが、私は仕事に戻る。アルクが戻ってきたら私のもとに来るように伝えてくれ」
「はいはい……健康には気を付けなさい」
「わかっている。今日は本当に助かった。ではな……」
王様はそう言って立ち上がると、転移で消えてしまった。
「このままアルクが戻ってこなかったらどうなるのかしらね?」
「え? 一生帰れないとか?」
そうなるのか?
カエデちゃーん、助けてー。
「いや、王様が送ってくれるだろう。君の家には行けないだろうが、ゲートを使ってギルドには飛べると思う」
「それもそうね。まあ、アルクを待ちましょう。絶対に向こうでお菓子を食べてると思うけどね」
「だろうな。いくらなんでも遅すぎる」
「下手すると、ゲームしてません?」
あり得る……
俺達はその後もお茶を飲みながら話をして待っていると、2時間後くらいにアルクが急に現れた。
「あ、やっぱりここだった」
「遅い。何してたの?」
「お風呂に入ってた」
想像以上にまったりしてたよ……
「あなたねー……」
「いや、びっくりしてね。心臓がドキドキだよ」
まあ、命を狙われたわけだからな。
「リディアちゃんは?」
「リディアは問題ないよ。カエデとお菓子食べてる」
さすがはリディアちゃん。
想像通りだ。
「ふーん……」
「あ、それでどうなったの?」
「問題ないわよ。退治した。といっても、最後は毒で自害したみたいだけど」
「腕を斬り落とされればどうしようもないもんな」
ヨシノさんがそう言うと、アルクが嫌な顔をする。
「詳細は聞きたくないよ」
「透明化ポーションで姿が見えなかったから急に腕だけが落ちてきた時はマジでビビりました」
ナナポンがうんうんと頷きながら詳細を説明した。
「おい……話を聞いてた?」
「はいはい。後のことは王様に聞いて。王様が呼んでたわよ」
「あ、そうか。さすがに話さないとね。君達を送るからリディアをお願い」
やっと帰れるわ。
「夜には来なさい」
「言われなくても行くよ。ピザ食べたいもん」
そうかい……
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