第252話 ざーこ、ざーこ♪


 パーティーが始まると、皆が近くの人と話をしながら飲み食いを始めた。

 特に王様の周りには人が多く、談笑を続けている。


 そうこうしていると、一人の男が壇上に上がってきた。

 この人はリディアちゃんのお父さんだ。


「殿下、この度はおめでとうございます」


 リディアちゃんのお父さんはアルクの前に跪き、祝辞を述べる。


「感謝する。リディアと共にこの国を良くしていきたいと思う。お前には期待している」

「はっ! ありがたき幸せ」


 リディアちゃんのお父さんはそう言うと、立ち上がり、元の場所に戻っていった。

 すると、次の男が壇上に上がり、またもやアルクに祝辞を述べる。

 それから一人ずつ、壇上に上がっていき一言二言、祝辞を述べていった。


「あ、あのー、エレノア様、飲みすぎでは?」


 ミーアが2本目のボトルを持ってきてグラスに注ぐと忠告してくる。


「これは祝いの気持ち。それにそこの男がアルクに何かをしようと思ってもその前に真っ二つにできるわよ」


 そう言うと、アルクの前で跪いている男がぎょっとした顔で俺を見てきた。


「エルネスト、この者は無視せよ」

「はっ!」


 エルネストさんはその後、アルクに祝辞を述べると、壇上から降りていく。


「クソ魔女、頼むから黙ってて」

「はいはい……」


 その後もワインを飲みながら祝辞を受けるアルクの護衛を続けていった。

 しかし、特に何もなく、お客さん達も軽く祝辞を述べるだけですぐに壇上から降りていく。

 そして、すべてのお客さんが祝辞を受けると、会場のお客さん達もお酒が回ってきたようでワイワイと賑わい始めた。


「これで終わり。あとはここでじっとしてるだけ」

「つまんないわね」

「だから言ったじゃん」


 ホントにつまらんわ。

 

 その後は壇上には誰も上がらず、ミーアのみが行ったり来たりしながらワインを持ってきてくれるだけだった。

 時計がないため、どれくらい経ったかわからないが、次第に料理や酒がなくなり始めると、王様を囲っていた人達が一人、また一人とテーブルに戻っていく。

 そして、最後の一人であるリディアちゃんのお父さんが王様に深々と頭を下げ、戻っていくと、王様が壇上に上がり、お客さん達を見た。

 すると、わいわいと騒いでいたお客さん達も静かになり、王様を見る。


 次の瞬間、何かの気配を感じた。


「ナーナーカーさーん、ちゃんと後ろも見なさい」


 そう言うと、全員が俺を見て、さらには王様も振り向いてくる。


「え? え? あっ……」


 後ろの見えないナナポンを掴み、位置を入れ替えた。

 そして、フードから剣を取り出すと、踏み込みながら剣を振り下ろす。

 すると、ギンッという金属と金属がぶつかる音がし、わずかに火花が散った。


「あら? 私の剣を受けるなんて素晴らしい……」

「くっ……」


 何も見えない正面からくぐもった男の声がする。


「賊かっ!?」


 王様が叫ぶと、会場がざわつく。

 そして、扉が開かれ、何人もの武器を持った兵士が入ってきた。

 なお、気配が消えたなと思って、アルクの方を見ると、アルクとリディアちゃんはすでにいなかった。


 逃げるの早いなー……


 感心していると、剣先から感覚が消えた。

 距離を取ったのだろう。


「エレノアさん、左です」

「知ってる」


 気配察知のスキルは非常に便利なのだ。


 その気配察知のスキルで兵士達が壇上に上がろうとしているのがわかった


「来ないで」


 そう言うと、兵士の動きが止まる。


「エレノア」


 王様が声をかけてきた。


「邪魔。そいつらでは相手にならないから」


 斬り殺すつもりで振った俺の剣を受けるなんて結構なことだ。

 100万円もする切れ味抜群の剣なのに……


「エレノア、任せた」


 護衛対象がいなくなったヨシノさんがそう言って王様のもとへ行く。

 すると、刺客が動いた。


「どこに行くの?」


 見えない刺客がじわりじわりと後ろに下がろうとしたので声をかけて止める。


「貴様、何者だ? 見たことない顔だな」


 姿を消している奴に言われたくない。


「ふふっ、黄金の魔女を知らないとは……まあ、私はこっちでは無名だものね」

「魔女……」

「優しい私は勧告してあげるわ。武器を捨てて投降しなさい」


 そう言うと、殺気が籠りだした。


「どいつもこいつもダメねー……相手との実力差もわからないの?」


 以前もそうだったが、透明になる奴はダメだわ。


「舐めるな……!」


 わかりやすく挑発に乗った男が踏み込んできたのでこちらも踏み込んで剣を振り上げた。

 そして、軽く横に飛び、剣を振り下ろす。


「ぐうっ!」


 男の声と共に鮮血が飛んだ。

 すると、ボトッと剣を握った腕が床に落ちる。


「ひえ!」


 ナナポンの情けない声と共に姿が見えない男が隠し扉に向かって駆けだしていた。


「バカねー……」


 俺は落ちている腕付きの剣を拾うと、隠し扉に向かって投げる。


「ぐあっ!」


 剣は狙い通り、男の足に当たり、こけたようだ。


「逃げられるわけないのにねー」


 そう言いながら歩いて男に近づく。


「くっ! ぐっ……!」


 ん?


 男のくぐもった声が聞こえたと思ったら男が倒れたまま姿を現した。

 しかし、男はまったく動かずに生きているようには見えない。


 俺はそんな男のもとに行き、腰を下ろす。


「死んでるわね」


 男は目を見開いており、ピクリとも動かない。

 脈を測ってみても何も感じないし、絶対に生きてはいないだろう。


「衛兵」

「はっ!」


 王様が指示を出すと、兵士達がこちらにやってきたので腰を上げ、元の位置に戻った。

 そして、疲れたので空席となっているアルクの椅子に座る。

 すると、ヨシノさんが王様に耳打ちをしているのが見えた。


「皆の者、どうやら賊が侵入してきたようだ。せっかくのパーティーに水を差されたが、皆が無事で良かった。今日はこれで解散とする」


 王様がそう言うと、お客さん達は顔を見合わせながらも退室していった。

 すると、一人の兵士が王様のもとに行く。


「毒かと……」


 やはり自害か。


「わかった。後のことは任せるぞ」


 王様は兵士やメイド達に指示をすると、ヨシノさんを連れて、こちらにやってくる。


「ナナカさん、透明化ポーションを飲みなさい」

「はい」


 王様がこちらにやってくると同時にナナポンも姿を現した。


「ご苦労だった。後ろから来るとはな」

「来るならあそこだと思ってたわ。距離があるからね」


 護衛がいるし、正面は目立つから厳しいだろうなとは思っていた。


「酒をがぶがぶ飲んでいたから心配だったが、ちゃんと仕事をしていたようだな」

「ああやって油断していたら正面から来るかなと思ったんだけどね。ちゃんと後ろから来たわ。剣の腕もそこそこだったし、透明化ポーションを使ったあたり、雇ったのは金持ちね」


 透明化ポーションは数が少ないとアルクに聞いている。


「その点は問題ない。首謀者の目星はついた」

「そうなの?」

「ヨシノが教えてくれた」


 さっきの耳打ちか?


「何かわかったの?」


 ヨシノさんに確認する。


「アルクとリディアが転移した時点で客の連中を見ていた。すると、とある男が刺客が君に腕を切り落とされた瞬間に悔しそうな顔をした。他の連中はショッキングな光景を見て、目を逸らしていたのにも関わらずだ」

「なるほどね」


 ヨシノさんは完全記憶があるし、間違いないだろう。


「後のことはこちらでやる。今日はご苦労だった」

「じゃあ、帰ろうかしら…………あれ? どうやって帰るの?」


 アルクいないじゃん。

 王様はウチに転移できないし。


「とりあえず、屋敷の客室に送ろう。そこで待機していてくれ。そのうちアルクも戻ってくると思う」


 地下かー……

 アルクにウチじゃなくて、そこに飛べって指示すれば良かった……

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