第249話 パーティー会場


 リディアちゃんやアルクと出かけて一週間が経った。

 この日は2人のお披露目会という名のパーティーがあるため、俺の家にアルク、ナナポン、ヨシノさんがやってきていた。


「あれ? リディアちゃんは?」


 アルクしかいない。


「リディアは準備があるんだよ。女の子は時間がかかるからね」


 お前もやんけ。


 俺はアルクの顔をじーっと見る。


「何?」

「あんた、本当にわからないわね」

「君はすごく変わるね」


 まあ、エレノアさんと沖田君は全然、違うからな。


「検証したいんだけどねー」


 皆嫌がる。


「誰だって嫌でしょ」

「まあいいわ。パーティーは昼からよね?」


 まだ10時前だ。


「うん。だけど、先に会場に案内するよ。見ておいた方がいいでしょ」

「そうね。ナナカさん、ヨシノさん、大丈夫?」


 2人を見る。


「大丈夫です」

「私も問題ない」


 2人は懐かしい冒険者の服装だ。

 2人のこの姿を見たのはいつ以来だろうか?


「カエデちゃん、留守番よろしく」


 さすがにカエデちゃんは連れていけない。


「わかりましたー」

「じゃあ、アルク、お願い」

「うん。行くよー」


 アルクが手をかざすと視界が変わる。

 そこは広い部屋のようで50メートル四方はありそうだった。

 そんな部屋には白い布がかかった丸テーブルが千鳥配置で置かれている。

 ただし、椅子もないし、テーブルの上には何も置かれていない。


「おー、外が見える」


 ヨシノさんが言うように窓が設置されており、外から明かりが入っていた。


 俺達は一目散に窓に向かい、外を見る。

 すると、どうやらこの部屋は2階のようで、外には同じような2階建ての建物や石で舗装された道が見えた。

 だが、人の姿はない。


「あんまり見ないでよー」


 アルクが何か言っている。


「ナナカさん、透視を使いなさい。誰かいる?」

「すんごい無視……」

「えーっと、1階に料理をしている大勢の方がいますね。あ、ミーアさんがいます。その近くにはリディアちゃんが着替え……さいてー」

「なんで私を見るの? 透視している最低な覗き魔はあなたよ」


 THE・犯罪者。


「覗き魔じゃないです」

「うそつけ。周囲の建物は?」

「ひどい……うーん、周りの建物には誰もいませんね」


 いないの?

 結構、建物があるんだけど。


「アルク?」

「前に言ったじゃん。人が少なくなってんの。この辺りは昔の貴族街だけど、もうほとんどが別のところに集まって生活をしているんだよ」


 世界中の人々が9割も消えたからか。


「廃墟?」

「維持管理はしているよ。廃墟って言わないで」


 デリケートなのかもしれない。


「これがフロンティアかー。普通だな」


 ヨシノさんが窓から見渡しながらつぶやく。


「君らの町の方がずっとファンタジーだよ。あの何十階もあるビルの森は何よ?」


 コンクリートジャングルという言葉があるが、異世界人も似たような感想を抱くんだな。


「外に出歩いてもいい?」

「ダメ。というか、仕事を忘れないでよ、師匠……」


 あ、そうだった。


「あなた達のお披露目席はあそこ?」

「そうだよ」


 この部屋の奥には50センチ程度の高さの壇上があり、そこには豪華な椅子が二つ並んでいた。


「ふむ……3人共、来なさい」


 俺達は窓から離れると、壇上に上がり、椅子まで行く。


「ここが僕ね」


 アルクが左側に座った。

 ということは右がリディアちゃんだ。


「全体が見渡せるわね」


 俺はアルクの横に立つと部屋を見渡す。

 少し高いこともあり、人が大勢入っても十分に見渡せるだろう。


「ナナポン、後ろは?」


 ヨシノさんが椅子後ろの壁を見ながらナナポンに聞く。


「あそこに通路がありますね」


 ナナポンが左側の壁を指差した。

 だが、俺の目にはただの白い壁にしか見えない。


「隠し扉か……」


 ヨシノさんはそうつぶやくと、歩いていき、ナナポンが指差した壁を触り始めた。


「ナナカは本当に怖いよ……大丈夫かな?」

「私達では悪用しようがないわよ。だから頼んだんでしょうが」

「まあね……ヨシノ、そこはいざっていう時に逃げるためのものだからあまり触らないで」


 アルクが止めると、ヨシノさんが戻ってくる。


「ちゃんとそういうのもあるんだな」


 ヨシノさんが感心したようにつぶやいた。


「一応だけどね。もし、何かあって、僕の転移が間に合わなかったらあそこから逃げてね」

「わかった。アルク、私達はどうとでもなるからリディアを連れて沖田君達の家に転移しろ」

「そうする」


 ヨシノさんの言葉にアルクが頷く。


「まあ、そんなことは起きないけどね。そのためのナナカさんだし」

「任せてください」


 ナナポンの透視があれば問題ない。


「ヨシノさん、あなたがリディアちゃんを守って。私はアルクを優先して守る」

「それがいいだろうな」


 ヨシノさんなら大丈夫だろう。

 守銭奴のヨゴレさんだけど、仕事は真面目にやってくれる。


「私はどうしましょうか?」


 ナナポンが聞いてきた。


「あなたは透明化ポーションを飲んで私のそばにいなさい。効果が切れそうになったらそこの暗幕に行きなさいね」


 左の方の暗幕を指差す。


「あれの裏ですね……わかりました」


 ナナポンは暗幕を確認した後に深く頷いた。


「3人共、お願いね。特にリディアをお願い。僕と陛下は転移があるけど、リディアはどうしようもない」

「わかってるわよ。大丈夫だから安心しなさい。弟子は守るし、賊がいたとしても私が真っ二つにしてあげる。あ、首を刎ねる方がいい?」


 この世界の文化を知らないが、さらし首にするんだったら刎ねた方が良い。


「だから怖いって……」

「人斬りだなー」

「エレノアさん、ストレスが溜まってません?」


 3人が引いている。


「溜まってるわよ。最近、全然身体を動かしてないし、私のこの100万円のショートソードも泣いているわ」


 そう言いながらフードから剣を取り出した。


「やっぱり冒険者に復帰しましょうよー。あなたはもう平和な世界で生きられない魔女なんです」


 戦争帰りの兵士みたいに言うな。

 俺はラ〇ボーか。


「カエデちゃんがダメって言うんだもの」

「まあ、朝倉さんはそう言うでしょうねー……」

「あー、賊来ないかなー」


 久しぶりに俺の剣術の腕を見せつけられる。


「こんなことを言う護衛は初めてだよ……」


 アルクが不安そうな目で俺を見てきた。

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