第246話 策略


 王様からの依頼を受けて10日程が経ち、我が家にも平穏が戻ってきた。

 といっても、平穏すぎてやることがない。

 今日もアルクとリディアちゃんがゲームをしている姿を後ろから眺めながらカエデちゃんとお酒を飲んでいる。


「ミーア、おかわり持ってきて」

「ミーアちゃん、ついでに私の分と冷蔵庫にあるお漬物を持ってきて」

「はい、ただいま」


 俺とカエデちゃんがメイドさんに頼むと、メイドさんはすぐにキッチンに向かい、ビールと酎ハイ、そして、自身が漬けてくれた漬物を持って戻ってくる。


「「ありがとー」」

「いえ……」


 俺達が礼を言うと、ミーアはソファーの端にちょこんと座り、2人がしているゲーム画面を見始めた。


「いやー、メイドさんっていいですね」

「でしょ? 俺達の唯一の弱点である家事をやってくれる」


 ミーアは一度、こちらにやってきたらその後は抵抗がなくなったようでアルクが来る時は付き添うようになった。

 すなわち、毎日来ている。

 だから暇そうなメイドさんに料理をお願いしたのだ。

 最初はフロンティアとは違うキッチンに困惑していた様子だったが、さすがはプロのメイドさんであり、俺達とは違ってすぐに慣れ、美味しい料理を作ってくれるようになった。

 しかも、その後は掃除も洗濯もしてくれるようになった。


「……どうします? 餌付け作戦です?」


 カエデちゃんが身を寄せ、小声で聞いてくる。

 俺もだが、カエデちゃんもミーアを手放す気はないらしい。


「……ミーアはアルクから離れないと思う。だからアルクやリディアちゃんの方をどうにかした方が良いと思う」


 あの2人がここに来れば、ミーアも来る。


「……なるほど。将を射んとする者はまず馬を射よですね」


 ん?

 しょうをいん?


「……そう、それ」

「……知らなかったですかー」


 知らん。


「……とにかく、あの2人はほぼ居着いていると思うんだ」

「……毎食来ますし、夜はほぼゲームしてますもんね」


 前に寝ていたら朝ご飯ちょうだいって起こされたことがある。

 しかも、飯食ったら仕事があるって言って帰っていった。

 さすがに勝手に食って帰れやって思った。


「……いっそあいつらを住まわせるか」

「……狭くないです? ここ2LDKですよ」


 カエデちゃんと2人で住むことを想定していたからなー。


「……豪邸は? 金はある」


 なんだったら金閣みたいのも作れる。

 嫌だけど。


「……ミーアちゃんがいたら維持管理の面は問題ないでしょうけど、そもそもそんな大金をどこから得たんだってことになりません? 怪しまれるかと思います」


 豪邸は目立つしなー。

 エレノアさんと同じギルドに所属していた冒険者と職員夫妻がそんなものを建てたら怪しまれる。


「……もっと広いマンションに引っ越そうか」

「……それぐらいなら問題ないかと思います。4部屋ぐらいあればいいでしょう」


 リビングを抜けばそんなものだろうな。

 俺とカエデちゃんの寝室、チビ2人の寝室、ミーアの部屋、それに予備。


「……よしよし、それでいこう」

「……問題はどうやってそういう風に誘導するかですよ?」

「……任せて。アルクを射るにはヤンデレ少女を射ればいい」


 あいつ、完全に尻に敷かれているもん。


「……なるほど」


 俺達は内緒話を終えると、離れる。

 すると、ミーアと目が合ったが、そっと目を逸らされた。

 聞いたな?


「ミーア、お菓子、美味しいか?」


 ミーアは好物のチョコクッキーを食べている。


「あ、はい。とても美味しいです」

「良かったね。アルクもリディアちゃんも楽しそうだよね?」

「そ、そうですね……」

「そっか、そっか。ミーアもそう思うか。とても良いことだと思う」


 邪魔すんなよ?


「ミーアちゃん、冷蔵庫にジュースがあるから飲んでいいよー」

「は、はい……」


 カエデちゃんが笑顔で勧めると、席を立ち、キッチンの方に向かう。


 さてと……


「リディアちゃん」


 ゲームに夢中なリディアちゃんに声をかけた。


「何でしょう?」

「前に言ってたパフェを食べに行こうと思うんだけど、いつが空いてんの?」


 そう聞くと、リディアちゃんがコントローラーを置き、こちらにやってくる。


「えーっとですね、明日は大丈夫で明後日はダメです。その次の日は大丈夫ですけどその翌日以降は3日ほどお稽古があります」


 めっちゃ早口……


「じゃあ、明日行こっか」

「はい! ありがとうございます、師匠」


 笑顔だけはかわいいんだよなー……


「ハジメー、ラーメンはー?」


 それがあったな。


「なあ、マジで行くの?」

「行ってみたい」


 マジかー。


「じゃあ、連れていくよ。いつが空いてるんだ?」

「明日はパフェでしょ? 僕は陛下とパーティーの話し合いがあるからダメだし、明後日にしようよ」


 明日はアルクが来ないわけね。

 好都合。


「わかった。カエデちゃんとミーアはどうする?」

「私はラーメンは遠慮しておきます」


 だろうね。


「私はどちらも遠慮します。ちょっと外に出るのは怖いですから」


 ミーアはこの家に来るのは抵抗がなくなったようだが、外は嫌らしい。

 いずれは買い物も任せるつもりだから徐々に慣れさせていこう。


「じゃあ、ラーメンはアルクと2人で行ってくるよ」


 どっかの筋肉バカと鉢合わせませんように。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る