第243話 スカウト失敗


 王様はもう勃たないらしい。


「残念ねー」

「別に気にしてない。妻もいないし」


 それを言われると困るな。

 事情が事情なだけにからかいにくい。


「まあ、無理なのはわかったわ。それでナナカさんの透視をねー……」

「ダメか?」

「いや、逆に聞きたいんだけど、いいの? あの子の透視は本当に何でも見通すわよ?」


 前に手で目を抑えながらかっこつけてた。

 鼻で笑ったら顔を赤くして俯いてたけど。


「正直に言うが、別に見られて困るものはなかったりする。それにお前をここに招いている時点で今さらだ」


 まあ、そうかもね。

 透視よりも恐ろしい錬金術持ちだ。


「私も行ってもいいのよね?」

「弟子が気になるだろうし、それは構わない。むしろ、護衛として雇いたい。相当の腕と聞いた」


 ふふん!


「剣術レベル6!」

「うむ。帯剣の許可も出すし、お前にも出席してもらいたい」

「いいわよ。どうせ暇だしね。それに弟子のことを考えれば当然、手助けするわ」


 前者が8割、後者が2割。


「助かる」

「でも、こればっかりはナナカさんに聞いてみないとわからないわね」


 王様が欲しいのはどちらかというとナナポンだ。


「わかっている。まずは聞いてみてくれんか? それから日程なんかを決めたいんだ」


 ナナポンがいるかいないかで警備の規模が変わるからか。


「わかったわ。帰ったら聞いてみる」


 多分、オッケーって言うだろうけどな。

 行きたがってたし。


「頼む」

「大丈夫だったらヨシノさんも連れていっていい? あの子もAランクでそこそこ強いのよ」

「もちろんだ。むしろ警備が2人いてほしい。リディアもいるからな」


 確かにそうだな。

 俺がアルクを襲った相手を斬れてもその間にリディアちゃんと王様はフリーになってしまう。

 王様は転移で逃げることができるかもしれないが、リディアちゃんはヤバい。


「そっちの方も聞いてみるわ」

「よろしく頼む。あまり信用できる人間が少ないんだ。何しろ、王位継承となると様々な利権が絡んで複雑なんだよ」


 それに比べて俺達はまったく関係ないからな。

 どこかと繋がるということもない。

 あと、誠実。


「わかったわ。まずは聞いてみて、報告する。報告はどうすればいいの? アルクに言えばいい?」

「そうしてくれ。これからアルクとリディアを呼んで説明するつもりだからな」


 となると、お茶会はその後か……


「じゃあ、戻してちょうだい」

「わかった」


 王様が頷くとすぐに視界が元の食堂に変わる。

 食堂ではアルクとカエデちゃんがお菓子を食べながらお茶を飲んでいた。


「あ、戻ってきた」

「アルク、話がある。リディアを連れて、書斎に来てほしい」

「え? わかった」


 2人は頷き合うと、同時に消えてしまった。


「客を残して消えた……」


 ひどいホストだわ。


「エレノア様、どうぞ」


 ミーアがカエデちゃんの隣の椅子を引いてくれる。


「あなたは本当にできた人間だわ。ユニークスキルを持っていないと確実に言える」


 そう褒めながら席についた。


「私には恐れ多いです」


 ミーアは答えながらお茶を淹れてくれる。


「ミーア、座りなさい」


 アルクが座っていた席を指差した。


「いえ、それは……」

「いいから座って。カエデちゃんと並んで座ってあなたがそこで立っているって絵面はおかしいでしょ。それにちょっと話し相手になってちょうだい。そこでは話しづらい」

「わかりました」


 お茶を淹れ終えたミーアは俺達の対面に座る。


「あなた、すごい有能よね。ナチュ畜なんかに仕えないでウチで働かない? そうしたら豪邸に引っ越す」


 金はあるし、豪邸への引っ越しも検討しているのだが、どうしても管理がネックになる。

 あっちの世界で雇うにしてもやはり信用できない。

 その点、ミーアは安心安全。


「すみません。大変光栄な話ですが、私はアルク様にお仕え続けます」


 がーん。


「断れちゃったよ……豪邸作戦は失敗」

「だから言ったじゃないですか。王家のメイドさんを引き抜くのなんか無理ですって。あのマンションでいいでしょ」


 まあ、カエデちゃんがそう言うなら諦めるか。


「ミーアさー、アルクが王様になるらしいけど、あなたはこれからも仕えるの?」

「そのつもりです。不敬なことを言いますが、私はアルク様が幼少の頃より仕えておりますので弟や妹に近い感覚も持っております」


 ずっと一緒だとそうなるのか……

 それにしても弟なのか妹なのかめんどくさい奴だな。


「ユニークな夫妻になると思うけど、頑張ってね」

「慣れてますよ」


 ミーアが苦笑いを浮かべた。


 あ、やっぱりアルクに対して思うところはあるんだな。

 あいつ、挑発レベル7のナチュ畜だもんなー。

 絶対に余計なことを言っている。


「ミーア、辛いことがあったら言いなさいね。私がボコってあげるから」

「大丈夫です……」


 ボコるのはマズいか。

 俺は子供に手を上げないのだ。


「じゃあ、リディアちゃんにチクるから」

「もっと大丈夫です……」


 ミーアもリディアちゃんが怖いんだな……


 俺達がその後も話をしていると、王様とアルク、そして、リディアちゃんが転移していた。

 すると、すぐにミーアが立ち上がる。


「毎回、思うけど、急に転移してこられるとドキッとするわね」

「それはすまない。次からは注意しよう」


 以前、アルクにも注意したことがあるが、こいつはまったく聞かなかったな……


「まあいいわ。話は終わった?」

「ああ、時間を取らせてすまなかったな」

「別にいいわよ。マジで暇だから」

「そうか……では、お茶会とやらを楽しんでくれ。私は仕事に戻る」


 王様って何の仕事をしているんだろう?


「それでは師匠、カエデ様、我が家にご招待します。アルク」

「はーい。行くよー」


 アルクが素直に頷くと、視界が変わった。

 しかし、どっちが王女様かわからんな。

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