第244話 弟子のメイドはウチのメイド


 俺達はアルクの転移を使い、以前にも来たリディアちゃんの部屋にやってきた。

 そして、席につくと、ミーアがお茶の準備をしだす。

 正直、さっきもお茶を飲んでいたから微妙だ。


「アルク、リディアちゃん、王様から話は聞いた?」

「聞いたよ」

「ええ」


 2人が同時に頷いた。


「結婚、おめでとう。今度、結婚祝いをしてあげるわ」

「どうも……」

「ありがとうございます」


 アルクはそっぽを向き、リディアちゃんは笑顔で頭を下げる。


「リディアちゃんは食べたいものある?」

「パフェが食べたいです。以前に連れていってもらったお店のパフェが大変美味しかったです」


 ショッピングモールにあるレストランで食べたやつだな。


「そのくらいだったらいつでも連れていってあげるわよ」

「ありがとうございます」


 この子はアルクさえ絡まなければ本当にかわいくていい子なんだよなー。


「アルク、あんたは食べたいのもとかないの?」

「家系のラーメン」


 やめなさい……よしなさい……

 その先にいるのはバカマッチョだぞ。


「食べられないんじゃないかなー……」


 量も多いし。


「残ったらハジメが食べて」


 沖田君もきついんじゃないかな?


「まあ、今度、連れていってあげるわ。それで護衛とナナカさんのことは聞いた?」

「聞いた。ナナカをこっちの世界に連れてくるのは反対だけど、確かにこの前の説明では各国の武器を完璧に見つけたからねー。まあ仕方がないかな。君達はこっちの世界に興味がないだろうし」


 まったくないね。

 そもそも俺達はどう使えばいいのか悩むほどの金を得ている。


「ナナカさんに聞いてみないとだけど、多分、オッケーすると思うわ」

「だと思うよ。いつも留守番なことを気にしてたし」


 有能すぎて残念っていつも言ってるな。


「それでさ、そのパーティー的なものに私も参加するわけだけど、どんな感じのパーティーになるわけ?」

「立食形式だと思うよ。僕とリディアは座っているけどね」


 2人だけ?


「王様は?」

「色々と話をしたりすると思うし、普通に立って飲み食いしてると思う」

「え? あなた達は食べないの?」

「食べないね。僕達は順番に挨拶されるからそれを待つだけ」


 苦痛だなー……


「つまんなさそうね」

「実際、つまんないよ。ただ頷くだけだろうし」


 大変だな。


「リディアちゃんも?」


 カエデちゃんがリディアちゃんを見る。


「ええ。私はアルク以上に暇ですね。結婚おめでとうございますって言われて、笑顔でありがとうございますって答えるだけです」


 そりゃ暇だわ。


「そのパーティーってどのくらいの時間なの?」

「んー? 2、3時間ですかね? 大人の皆様はお酒を飲まれるでしょうし」


 きっつ……


「前にあんたらが仲良くなったきっかけがパーティーだったって聞いたけど、本当につまんなさそうね」


 そりゃ仲良くもなるわ。


「その時よりきついよ。僕とリディアは隣同士で座ることになるけど、私語は厳禁だもん」

「私、そんなの絶対に嫌ね」

「何言ってんの? 君らは護衛でしょ? 僕達の後ろで立っているんだからもっとだよ」


 マジだ……


「私いる? ナナカさんとヨシノさんで良くない?」

「おい、師匠」

「師匠……」


 こんな時だけ……


「まあ、弟子のためにやってあげるけど……」


 わかったからそんな目で見るな、子供達。


「先輩、なんだかんだ言って、ナナカちゃんもですけど、お弟子さんの頼みを断りませんよね」

「俺、子供好きだもん。全員、ドブ川みたいな性格だけど、かわいいし」


 ユニークチビ三人衆。


「掃き溜めのくせに……」


 ほら、ドブ川だ。


「あのー、私もそれに含まれているんですか?」


 ドブ川どころかヘドロみたいにドロドロしているリディアが聞いてくる。


「あなたはねー……いやいいわ。とりあえず、ナナカさんとヨシノさんに話をしてみてオーケーだったらフォーメーションを考えましょう。私とヨシノさんはともかく、ナナカさんは雑魚だし」


 あいつは護衛にならんだろう。

 何かあったら俺を盾にする。


「そういえばなんですけど、魔法とかは大丈夫なんですかね?」


 あ、ホントだ。


「アルク、どうなの?」

「魔法は大丈夫だよ。魔法封じの結界がある」

「何それ?」


 でも、どっかで聞いたことがあるような……


「君は覚えてないだろうけど、最初に君を呼び出した時に使ってたでしょ。もっとも、君は魔女じゃなくて剣士だったから意味なかったけど」


 あー、思い出した。

 確かにアルクがそんなことを言ってたわ。


「そういうのがあるわけね。そうなると、いよいよナナカさんはダメね。自衛手段を考えないと……」

「師匠、ナナカさんに透明化ポーションを飲ませておけばいいんじゃないですか?」


 それだ。

 リディアちゃん、賢い。


「なるほどねー……よし、そんな感じでいきましょう」

「ナナカが了承するかわかんないけどね」


 まあね。


「よし、3人共、お茶会の場所を移すわよ。ここは携帯が使えないし」

「ハジメの家に行くの?」

「お茶会なんてどこでもいいでしょ」

「君が遊びに行きたいって言ったんじゃん……」


 うっせ。


「状況が変わったのよ。いい? あんたも王様になるんだったら臨機応変という言葉を覚えなさい」

「師匠が師匠っぽいです!」


 リディアちゃんが手を合わせ、笑顔になる。


「たまにはね」

「そう? 僕、行き当たりばったりって聞こえたよ」

「まあ、先輩はいつもそんなんですもんね」


 しゃらーっぷ。


「いいから移動するわよ」

「ミーアは?」


 ミーア?


「連れていきなさい」

「え?」


 ミーアが意外そうな顔をする。


「誰がお茶を淹れるのよ? あんたでしょ」

「えーっと、まあ……」

「じゃあ、来なさい。おみやげをいっぱいあげるから」


 まだ余ってるんだよー。


「異世界ですか……」


 ミーアって前からあまり行きたがってないんだよな。

 フロンティアの法で禁じられているからだろうが、次の王と王妃が好き勝手してるんだからメイドもいいだろうに。


「こっちより住みやすいわよ。あなたも気に入ると思うわ」

「…………あの、メイドにはなりませんよ?」

「いいからいいから」


 深く考えるんじゃないよ。


「え? このクソ魔女、人の侍女を奪おうとしている?」

「先輩、アルクちゃんがウチを狭いってバカにしたから豪邸に住もうとしているんだよ。それでお気にのメイドを奪おうとしてる」


 カエデちゃんはすぐにバラすなー。


「君、ひどくね?」

「いいから帰るわよ。ケーキを買ってあげるから」

「じゃあ、行こうか」

「行きましょう」


 薄情な次期王様と王妃様の2人を見て、ミーアが微妙な顔になった。

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