第240話 友情? ぺっ


 阿鼻叫喚を含んだタコパも終わり、一息つくと、アルクとリディアちゃんがゲームを再開した。

 俺達は酒やジュースを飲みながら白熱というか、徐々に不穏な空気が漂い始めた2人のゲーム画面を眺める。


「……アルク、妻を捨ててどこに行くんですか?」


 貧乏神をお尻に着けたリディア社長がつぶやいた。


「来るな、貧乏神」


 薄情な夫のアルク社長はお構いなしにサイコロを3つ振って逃げ出す。


「……チッ」


 リディアちゃんが舌打ちをした……


「……先輩、止めた方が良くないです?」


 かつて、『先輩の愛はそんなものですか……』とつぶやいたことがあるカエデ社長が小声で聞いてくる。


「ナチュ畜とヤンデレには相性の悪いゲームだったか……リディアちゃん、ちょっといいかしら?」


 熟年離婚を回避させてやろうと思い、リディアちゃんを呼んだ。


「何でしょう?」


 リディアちゃんがゲームの電源を消して、こちらにやってくる。


「おいぃ! あと少しでゴールだったのにー!」


 うるせーな、あいつ……


「今度、遊びに行ってもいい?」

「ダメ」


 なんでアルクが否定する?


「リディアちゃんに聞いているんだけど?」

「頼むからフロンティアをこっちの世界みたいに混沌に落とさないで」


 こっちの世界も混沌なんかに落ちてねーわ。


「そんなことしないわよ。暇だから遊びに行きたいだけ。私、ニートよ? マジで暇」

「普通の会社で働きなよ……」


 それは無理。

 スーツを着ただけで気持ち悪くなってしまう。


「遊びに来られるのは構いませんが、フロンティアって本当に何もありませんよ?」

「リディアー、ダメだって」

「別に何かを期待しているわけじゃないのよ。本当に暇だから行ってみたいだけ」

「おーい」


 うるさいな……


「では、お茶会にでもいらしてください」

「なんで無視するの?」

「妻を無視してどこかに行ったのはあなたです」


 根に持ってる……


「あのゲーム、ヤバくない?」


 ようやく察したアルクが俺を見てくる。


「仲が良い人とやらない方がいいわね。罪悪感とかすごいし……ナナカさんとかヨシノさんなら簡単に潰せるけど」


 まったく悪いと思えない。


「バカが何か言ってるぞ」

「ハワイにぶっとぶ沖田さんが目に浮かびますね」


 ほら。

 このユニーク2人に何を気遣う必要があろうか。


「すでにバチッている…………いや、そんなものを勧めないでよ」


 面白いのは確かなんだぞ。


「お前の人間性が悪い。そういうわけで今度、リディアちゃんの家に連れていきなさい」

「まあ、家くらいなら……」


 よし、リディアちゃんに外に連れていってもらおう。


「そういえば、あんたの呼び出しは何だったの?」


 昼に陛下に呼ばれていた。


「あ、そうだった。陛下が話があるんだってさ」


 はよ言えや。


「話ねー……商売かしら?」

「さあ? 空いている時でいいって言ってたよ」


 いつも空いてますよ……

 あー、フロンティアで刀を振り回してー。

 モンスターを狩りてー。

 暇だわー。


「じゃあ、明日ね。今日はもう飲んでいるし」

「わかった。昼くらいに送るよ」


 迎えに来るじゃなくて、送るわけね。

 朝からゲームをしにくるわけだ。


「でしたら話が終わったらウチに来ませんか? 歓迎しますよ」


 リディアちゃんが早速、誘ってくれる。


「いいの?」

「はい。ぜひ、ご夫婦でいらっしゃってください」


 ご夫婦だって。

 俺ら、結婚したんだなー。


「カエデちゃんも行く?」

「はい。せっかくなんで行きたいです」


 じゃあ、ご夫婦で行くか。


「私は? 私は?」


 出たよ、お邪魔虫。


「あなたは学校に行ってなさい」

「休みですよー。ゴールデンなウィークです」


 そういや休みか。


「ナナカさん、残念ながらあなたは出禁を食らっているの。諦めなさい」

「またハブ……」

「ヨシノさんと冒険にでも行ったら?」

「ゴールデンウィークは休むんですよ」


 そうなの?


「行かないの?」


 ヨシノさんに確認する。


「ゴールデンウィークは新規が一気に増えるんだよ。だから面倒なことが多いから休むことにしている」


 長期休みだからなー。

 もしくは、五月病にかかってしまった人達が冒険者になろうとしているのかもしれない。


「女子2人はダメね」

「そうだね。リンも旦那と旅行に行くって言ってたし」


 リンさんの旦那さんは普通の社会人だし、せっかくの休みは夫婦で過ごしたいわな。


「まあ、暇ならウチに来てもいいから我慢なさい」

「はーい……有能は辛いぜ」


 ナナポンは渋々頷いた。


「しかし、何の用かしら? まさかエメラルダス山脈で何かあったんじゃないわよね?」

「それはないよ。エメラルダス山脈はちゃんと日本とアメリカに渡しているし、調査をしているってニュースでやってたじゃん」


 エメラルダス山脈はまだ解放されていない。

 自衛隊とアメリカの軍が調査を進めている段階である。

 もっとも、日本とアメリカの冒険者が早く解放しろと急かしているが……


「うーん、まあ、明日聞けばいいか……」


 俺達はその後も飲み続けると、アルク、ナナポン、ヨシノさんの4人で友情破壊ゲームをした。

 激しい殺し合いだった。

 だって、誰もゴールを目指さず、嫌がらせしかしないんだもん。


 ゴミークスキル持ち共め……

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