第241話 立場が逆なら嫉妬する


 腕が重いなと思って目が覚めると、隣にはかわいい顔で寝ているカエデちゃんがいた。

 この字面だけだとえっちだが、実際はここはベッドではなく、ソファーだ。


 突っ伏して寝ているヨシノさん、ソファーで横になっているナナポン。

 そして、テーブルの上にある大量の空き缶とテレビに映るゲーム画面。


 うん、潰れたんだ。


「しかし、ちゃっかりアルクとリディアちゃんはおらんな」


 飲んでない2人は俺達を放って帰ったんだろう。


 俺はカエデちゃんを起こさないように慎重に抱きしめた後、ソファーに寝かせる。

 そして、風呂場に行くと、風呂の準備をし、リビングに戻った。


「えーっと、9時か……」


 早いような、遅いような……

 自堕落人間になってしまったからわからんわ。


 俺はナナポンのところに行くと、身体を揺する。


「ナナカさん、ナナカさん、起きなさい」

「んー……あれー? エレノアさん、寝ぐせすごいですよ?」


 ナナポンが目をこすりながら上半身を起こした。


「あなたもよ。お風呂を入れたから入りなさい」


 年下が先だ。


「はーい……」


 ナナポンは起き上がると、そのまま風呂場に行ってしまった。


「ハァ、ヨゴレさんはどうでもいいか……」

「誰がヨゴレだ」


 ヨシノさんが起き上がる。

 なお、テーブルに突っ伏していたので顔には痕がついている。


「あら? 起きてたの?」

「ナナポンの足音で起きた……眠っ」


 俺も眠い。


「朝ですかー……?」


 カエデちゃんも目をこすりながら起き上がった。


「おはよう。今、ナナポンがお風呂に入っているから次はカエデちゃんが入りなよ」

「うーん、ヨシノさんが先に入ってください」


 お客様が先がいいか……


「だってさ。ヨシノさん、入りな」

「いや、私はいいよ。どうせそのうちアルクが来るから転移で帰る」


 それもそうか。

 アルクはヨシノさんの家にも転移できるし、ヨシノさんも自分の家に帰って風呂に入った方が良いわな。


 俺達は空き缶やゴミなんかを集めて掃除をしていると、アルクがやってきた。


「うわー……君達、あのまま寝ちゃったの?」

「そうね……あんたは帰ったの?」


 俺の記憶では12時くらいまではいたと思う。


「うん。リディアを送らないといけないし、こんなところに泊めるわけにはいかないでしょ」

「女しかいないわよ。おほほ」

「オカマ野郎って言いたいけど、君への暴言はすべて自分に返ってくるから言わないでおくよ」


 言ってるがな。


「まあいいわ。アルク、ヨシノさんを送ってもらえる?」

「あ、そうだね。じゃあ送るよ」


 アルクが頷いた。


「じゃあ、またね。ナナポンにもよろしく」

「ええ……あ、おみやげ、おみやげ」

「そうだったね。えーっと……」


 ヨシノさんがテーブルに行き、選び出す。

 その間に冷蔵庫に行き、チラガーを取り出し、袋に入れた。


「これをもらうよ」


 ヨシノさんが選んだのはもみじだった。


「いいわよ。あと、これをサツキさんにあげて」

「いいけど、冷蔵?」

「ええ。すぐに渡してあげて。きっと喜ぶわ」


 あの人は普通に食うだろ。


「わかった。じゃあ、アルク、頼むよ」

「はいはーい」


 アルクとヨシノさんは消えてしまった。

 2人を見送った俺はカエデちゃんのもとに行き、抱きつく。

 すると、風呂場の方からガタガタという音が聞こえた。


「相変わらずだなー……」


 カエデちゃんが呆れたようにつぶやく。


「どっちが?」


 ナナポンだよな?


「両方です。先輩、エレノアさんですよ?」


 そうだった……

 つまんね……


 俺は離れると、掃除を再開した。

 そして、アルクが戻ってきて、ナナポンも風呂から上がると、カエデちゃんがお風呂に行ってしまった。


「ナナカさん、あなたはいつ帰るの?」

「昼から出かけられるんですよね? だったらもうちょっとしたら帰りますよ」


 ふーん……


「あなたって、卒業後も冒険者?」

「多分、そうだと思います。普通に就職して上手くいくイメージが沸きませんし」


 こいつ、俺と同じ道を行きそうだな。


「上司のセクハラ、女の同僚からのイジメ……鬱まっしぐらだな」


 内弁慶のチビだし、セクハラされそうだ。

 それにこいつが同性に好かれることはまずないだろう。


「だと思います。まあ、働かなくても遊んで暮らせるお金はあるんですけどねー」

「感謝しなさい」

「師匠ー」


 よしよし。

 ナナポンは覗きと口の悪さとすぐにマウントを取ってくるところさえなければかわいいもんだ。

 まあ、それはもはやナナポンではない別人だが。


「せんぱーい、上がりましたよー」


 カエデちゃんがお風呂から上がってきたので俺も入ることにした。

 そして、風呂から上がると、ナナポンも家に帰っていき、カエデちゃんとソファーでコーヒーを飲む。

 なお、アルクはゲームをしている。


「アルク、リディアちゃんは?」

「リディアはお茶会の準備だってさ」


 お茶会に準備がいるのかね?


「あんたも参加するの?」

「そりゃね。カエデはともかく、リディアと君の組み合わせが怖い」

「嫉妬?」


 かわいいところもあるじゃないか。

 でも、リディアちゃんはねーわ。

 子供にしか見えないし、あと怖い。


「違うよ。どっちも発想がぶっ飛んでるから組み合わさるとヤバいアイディアが生まれそうで怖いんだよ」


 うーん、リディアちゃんはなー……

 あのあげたTSポーションはどうなっているんだろう?

 怖いからこれ以上は考えないけど……


「沖田君で行った方が良い? それとも私?」

「できたらクソ魔女の方でお願い」

「まあ、王様と会うのは私だから別にいいけど……」


 やっぱり嫉妬してるな、こいつ……

 かわいいやっちゃ。

 

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