第239話 タコパ


 俺とナナポンはスーパーに行き、具材と酒を買うと、家に戻る。

 すると、リビングでは異世界の子供2人がゲームをして遊んでいた。


「んー? アルクはともかく、リディアちゃんも来たんだ」

「お邪魔してます。タコ焼きパーティーなるものをするそうで。お招きいただきありがとうございます」


 多分、この子が思ってるパーティーとは違うと思うな……

 あと、招いた記憶は一切、ない。

 ユニークな子だなー。


 俺は買ってきたものを冷蔵庫に入れると、エレノアさんにチェンジし、リビングに戻る。


「アルク、呼び出しは何だったの?」

「あー、それね。後で話すよ。今ちょっと忙しい」


 ゲーム優先かい……


「まあ、何でもいいけどね。カエデちゃん、飲もうよ」

「昼間からですか?」

「昼も夜も関係ないじゃん。アルクの負けっぷりを眺めながら楽しもうよ」


 どうせアルクが負ける。

 こいつ、ゲーム下手だもん。


「いや、今度は勝つから」


 俺達はアルクとリディアちゃんのゲームを眺めながら酒を飲み始める。

 2人はレースゲームをしているのだが、やはりリディアちゃんが強い。

 だが、何回もしていると、たまにアルクが運良く勝つこともあるのだが、その度にリディアちゃんから黒いオーラが出ていた。

 なお、ナチュ畜王女はそのことにまったく気付いていないのが面白い。


「こいつら、将来、熟年離婚とかしそうね……」

「おい、クソ魔女! 何を言ってんだ!?」


 アルクが怒る。


「気遣いがねー……」

「え? そんなことを君に言われるとは……」


 なんでショックを受けてんだ、こいつ……


「違うゲームにしたら? それとか日本の勉強になっていいわよ」


 テレビの横に置いてあるソフトを指差す。


「面白いの?」

「面白いわね。日本中を回って色んな物件を買って、お金持ちになるゲーム」


 面白いが、かつて、俺とカエデちゃんの鉄壁の絆にヒビが入りかけたことがある友情破壊ゲームだ。


「ふーん……リディア、やってみる?」

「おすすめならやってみましょう」


 泣け、アルク。


「カエデちゃん、そろそろタコパの準備をしようか」


 アルクとリディアちゃんがゲームの準備をし始めたので俺達もキッチンに行き、タコパの準備を始める。


「先輩、タコが少なくないです? 5人いますよ?」


 カエデちゃんは冷蔵庫からタコを取り出しながら聞いてきた。


「せっかくだからタコじゃないのも入れてみようと思って。イカとかエビとかも買ってきたんだよ」

「なるほど。それも良いですね。色々、入れてみますか」


 うん。

 アルク用にタバスコとかフリスクとか買ってきた。


「エレノアさーん、こんなものですかねー?」


 生地を混ぜているナナポンが聞いてくる。


「知らないけど、分量が合ってるなら大丈夫じゃない? というか、この中で経験者はあなた1人よ?」

「母が全部やってくれたから知らないんです」


 まあ、普通は親が作るか。

 子供はイタズラしそうだし。


「多少失敗しても大丈夫でしょ。それよりも罰ゲーム具材も買ったし、ヨゴレさんでも呼ぶ?」

「来ますかねー?」

「ダメなら仕方がないわよ。おみやげも渡したいし、声をかけてくれる?」

「わかりました」


 ナナポンがスマホを取り出し、操作しだす。


「ヨゴレさんで通じるんですね……」


 俺とナナポンのやり取りを聞いていたカエデちゃんが呆れた。


「でも、カエデちゃんだって誰かわかるでしょ」


 1人しかいない。


「まあ……」


 ほらー……


「エレノアさん、ヨシノさんも来られるそうです。アルクちゃんに迎えに来てほしいそうですね」


 スマホを見ていたナナポンが教えてくれる。


「わかったわ。彼女のためにリンゴを切ってあげましょう」


 あの人、リンゴジュースが好きだし、ちょうどいいだろう。


「なんかゲテモノが増えてません? 楽しいパーティーが曇りますよ」

「それもそうね……この辺でやめておいて真面目にしましょう。アルクー、ヨシノさんを呼んできてー」


 キッチンからアルクに声をかける。


「わかったー。ねえ、博多ってどこー?」


 最初から遠いところになったな……


「左の方ね。矢印を追えばいいわよ」

「わかったー」


 俺達はその後も準備をしていき、準備を終えたのでリビングに戻る。

 すると、ソファーに座りながらゲーム画面を眺めているヨシノさんがいた。


「いらっしゃい」

「やあ。久しぶりだね。旅行はどうだった?」

「楽しかったね。でも、気付いたのは一度に纏めて行くんじゃなくて、数ヶ月おきにすれば良かったってこと」

「そりゃそうでしょ」


 なんとなく日本一周旅行という字面に惹かれたんだよね。


「まあいいわ。ヨシノさん、帰りにそこのテーブルにあるおみやげを持って帰ってちょうだい。ついでに冷蔵にある特別なおみやげをサツキさんに渡して」

「おみやげねー……なんかいっぱいあるね」


 ヨシノさんがおみやげが山積みになっているテーブルを見る。


「お金だけはあるからね」

「そりゃそうだね。しかし、お金を持っているのにタコパか……」

「やったことある?」

「あるよ。昔、仲間とやった」


 おー、ここに経験者が。


「じゃあ、お願い」


 ナナポンからドロドロの液体が入ったボールを受け取ると、ヨシノさんに渡した。


「普通に焼くだけだよ」


 ヨシノさんはそう言いながら生地を丸い穴がいっぱい開いたホットプレートに入れていく。


「上手ね」

「そうか? で? それを入れるの?」


 ヨシノさんが呆れた顔でローテーブルに置かれた具材を見た。


「そうそう。えーっと、まずはアルクの分を作ってあげないと。王子様が優先」

「クソ魔女もついに敬意という言葉を覚えたかー」


 アルクはゲームに夢中でこちらを見ていない。


「そりゃそうよ。次期王様じゃないの」


 そう言いながら一つの穴にタコを入れ、タバスコを振っていく。


「えーっと、可愛いカエデちゃんにはこの焼いたサイコロステーキを入れてあげて。あ、俺、エビ」

「私、イカが良いです」


 ナナポンも要望を出した。


「適当に入れていくよ……というか、このサイコロステーキはそのまま食べた方が美味しいでしょ」


 絶対にそうだと思う。

 さっきつまみ食いしたけど、めっちゃ美味かった。


 ヨシノさんは適当な具材を入れつつ、きれいにタコ焼きを丸く整形していく。


「上手ですね」

「慣れてますね……リア充」


 カエデちゃんとナナポンが称賛した。


「このくらいはねー……もう良いと思うよ」


 ヨシノさんがそう言ったので爪楊枝でお目当てのたこ焼きを刺すと、皿に乗せ、アルクの前に置く。


「はい。王子様」

「悪いね」


 俺達もそれぞれお目当てのたこ焼きを取ると、食べだした。

 しかし、アルクはもぐもぐとたこ焼きを食べているのに普通だ。


「あれー…………ん?」


 俺はエビだったはずだが、中身が弾力のあるタコだぞ……

 しかも、なんか口の中が熱くなってきた。


「…………辛っ!」


 すげー辛いぞ。おい!


「クソ魔女め! 騙されると思ったか! 僕の転移の恐ろしさを思い知れ!」


 こいつ、転移で自分の分と俺の分を入れ替えやがった!


 俺は慌ててカバンから回復ポーションを取り出し、一気飲みする。

 すると、すぐに痛みがなくなっていった。


「このガキ、師匠の厚意を何だと思ってやがる!」

「恐れ多いから厚意を返しただけだよ。エビ、美味いね」


 俺のエビがー……


「しょうもないケンカをしないで食べなよ……」


 ヨシノさんが呆れる。


「おら、チビ2人、いつまでもゲームしてないでこっちに来い。飯だぞ」

「今、良いところなんだけど、仕方がない」

「結局、タコ焼きって何ですー?」


 アルクとリディアちゃんはコントローラーを置いて、テーブルにやってくる。


「えーっと、どれがどれだっけ?」

「これがフリスクですね」


 透視持ちのナナポンが教えてくれる。


「アルク」

「お前が食べろ、クソ魔女」

「じゃあ、じゃんけんな」

「よし、こういうのは日頃の行いがものを言う。勝ったね」


 ガキが。

 大人の恐ろしさを教えてやるぜ。


「仲良いなー……」

「2人は放っておこう。リディアちゃん、どれが食べたい?」

「甘いのがいいです」

「それは地雷だと思うんだけど……」


 外野を尻目に俺とアルクはじゃんけんをした。

 そして、真っ青な顔で自分のチョキを呆然と見ている日頃の行いが悪いアルクの顔がめちゃくちゃ面白かった。

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