第237話 新生活


 俺はカエデちゃんと結婚した。

 それから4ヶ月が経ち、寒い冬を越し、4月ももう終わりそうになっている。

 その間、色々とあった。


 定期的によくわからない金が入ってくるし、金塊を入れたアイテム袋もクローゼットに積み上がっている。

 よく考えたら明らかに人生が何回あっても使いきれない量の資産だ。

 ちょっと調子に乗りすぎたなと反省した。

 とはいえ、もう金儲けも終わっている。


 黄金の魔女、エレノア・オーシャンも消えたし、沖田君も冒険者を引退した。

 テレビをつければまだ黄金の魔女の余波が残ってはいるものの、世間は別の話題に移りつつあった。


 私生活においてもカエデちゃんと結婚したから親御さんに挨拶をしたし、結婚式も挙げた。

 なお、披露宴はしなかった。

 理由は簡単でカエデちゃんに『先輩、呼ぶ人がいるんですか?』という感動的なことを言われたからだ。

 おかけで涙が出たよ……


 呼べる人なんかナナポンとヨシノさん、あと元お隣のやーさんくらいだ。

 さすがにやーさんは呼べないし、ナナポンとヨシノさんは女だから微妙。

 他にもアルクとリディアちゃんという線もあったが、同様の理由で呼ぶのもどうかと思った。

 まあ、アルクは違う意味でも微妙だけど。


 そういうわけで簡素な結婚式で済ませた。

 女の子は結婚式に憧れを持っていると聞いたことがあるのでそれはどうなんだと聞いたのだが、憧れはダイヤモンドと言われ、納得した。

 高かったもん。


 そんなこんなで仕事はなくなったが、非常に忙しい4ヶ月だった。

 そして、この前、新婚旅行として、地球一周旅行ならぬ、日本一周旅行も済み、我が家に帰ってきた。


 もうすぐでゴールデンウィークになる。

 世間の社畜共は喜んでいるだろうが、俺には関係ない。

 今日も家でゴロゴロだ。


 しかし、やることねーな……

 お義父さんが言ってた意味がよくわかる。

 何かしないとな……


「アルク。あんた、よく新婚夫婦の家に我が物顔で来れるわよね?」


 俺はソファーに腰かけながらテレビの前に座り、テレビゲームをしているアルクに苦言を呈する。


「お邪魔なら言って。1時間くらい帰るから」


 1時間って……

 こいつに性教育をしたのは誰だ?

 はい、俺でーす。

 ネットで教えてやった。


「あんた、仕事は?」

「君が色んなポーションをくれるから随分と落ち着いてきたよ。君も儲かって万々歳でしょ」

「それなんだけどさー、もう金はいらない」

「でしょうね。あんなに集めてどうするのって感じだよ。金閣でも作るの?」


 こいつもこっちの世界に馴染んだなー。


「何か他に代わるになるものとかないの?」

「土地いる?」

「もらってどうするのよ?」

「貴族にでもなったら? 僕の代になったら潰すけど」


 おい……


「先輩が領主とか怖いですよねー。とんでもないことを起こしそう」


 我が妻が笑う。


「本当にそうだよ。君、ロクなこともしないもん……うーん、ショートカットが上手くいかないなー」


 アルクは某レースゲームをしている。


「普通にやれば?」

「普通にやったらリディアに勝てないもん」


 あの子、ゲームにも性格が出てるもんなー。

 めちゃくちゃ卑怯だし、手を抜かない。


「というか、あんたら、入り浸りすぎ」


 今はリディアちゃんがいないけど、どうせ夜になったら来る。


「別にいいじゃん。というかさー、今朝、来た時から気になっていること聞いてもいい?」


 今は昼だ。

 朝、寝てたら起こされて、ゲームしていいか聞かれた。

 勝手にしろよ。


「何よ?」

「なんでエレノアなの? 目覚めた?」


 お前と一緒にするな。


「午後からバカポンが来るのよ」

「あー……ナナカか。なんで?」

「お土産を渡すために呼んだ」

「ふーん……君ら、結構長い間、旅行に行ってたもんね」


 なお、その間、こいつとリディアちゃんは勝手に家でゲームをしてた。

 まあ、別にいいし、掃除もしてくれたみたいだから良しとした。


「そう。あんたもいる? おすすめは沖縄土産」


 チラガー。


「いらない。どうせロクなものじゃないし」

「じゃあ、ナナカさんにあげることにするわ」

「いいんじゃない? きっと喜ぶよ……ん?」


 アルクが操作しているキャラが落下し、動きを止めた。


「どうしたの?」

「しっ。念話が……」


 念話……ということは王様か……


 そのまま待っていると、アルクがゲームの電源を落とした。


「仕事?」

「みたいだね。僕はニート夫妻と違って忙しいから」


 相変わらず、一言多い。


「アルク、そういうところを治せってリディアちゃんに言われなかった?」

「え? 何が?」


 ダメだこりゃ……

 こいつ、天然だもん。


「いいわ。王様が待ってるなら帰りなさい。あ、普通のお土産は持って帰りなさい。テーブルの上にあるから好きなものを好きなだけ持っていっていいから」

「わかった。ありがとう」


 アルクは立ち上がると、テーブルまで行き、いくつかのお菓子を収納していった。


「王様と私のミーアによろしく」

「ミーアはあげない。じゃあね」


 アルクが手を上げる。


「はいはい」

「ばいばーい」


 俺達が手を振り返すと、アルクが消えていった。


「ようやく消えたか。さてと……カエデちゃーん」


 隣に座ってスマホで動画を見ているカエデちゃんを抱き寄せる。


「何ですかー?」

「お邪魔虫は消えたよ。カエデちゃんはかわいいなー」


 そう言いながらカエデちゃんの頭を撫でた。


「エレノアさんで言われても……」


 あ、そうだった。


 俺はカエデちゃんから離れると、立ち上がり、リビングを出て自室に向かう。

 すると、自室の扉を開けようとしたらピンポーンというチャイムが鳴った。


「………………」


 俺は無言で玄関まで行くと、扉を開ける。

 そこには頬を染めたナナポンが立っていた。


「ご、ごめんなさい……見守ってようと思ったんですけど……」


 見守る?

 覗きの間違いだろ。

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