第235話 真の黄金は家にいる
俺はヨシノさんに家まで送ってもらうことにし、家に近づくと、透明化ポーションを飲んだ。
そして、ヨシノさんに家の近くまで送ってもらうと、車を降りる。
なお、ヨシノさんはナナポンを送るためにそのまま行ってしまった。
俺はそのまま歩いて家に帰ると、透明化ポーションを飲み、透明化を解いた。
すると、奥からカエデちゃんが出迎えに来てくれた。
「おかえりなさーい」
「ただいまー」
いやー、出迎えてくれる人がいるっていいねー。
「先輩、ココア、飲みます?」
「飲む飲むー」
「じゃあ、淹れますんで着替えてきてくださいよー」
そうしよう。
さっさとエレノアさんから沖田君にチェンジしたい。
「わかったー」
俺は返事をすると、自室に戻り、黒ローブを脱いで素っ裸になる。
そして、TSポーションを飲み、沖田君に戻ると、服を着た。
「やっぱり家だとこっちだなー」
俺は服を着終えると、カバンから書類を取り出し、リビングに戻る。
リビングに戻ると、カエデちゃんがソファーに座っており、ソファーの前のローテーブルにココアが入ったコップが2つ置いてあった。
「カエデちゃん、ありがとうねー」
俺はお礼を言いながらカエデちゃんの隣に座り、書類をローテーブルに置いた。
そして、カエデちゃんが淹れてくれたココアを飲みだす。
「あー、温まるわー」
「外は寒いですもんねー」
「ホントだよな。もう外で着替えるのは無理」
10月や11月はまだギリギリ我慢できたが、さすがに12月、1月は無理だ。
「まあ、当分はエレノアさんになることはないんじゃないですか?」
「ああ、それそれ。話を聞いてきたよ」
「おー! どうでした? あ、その前に襲撃はありましたか?」
当然だが、襲撃がありそうなことはカエデちゃんも知っている。
とはいえ、そこまでは心配していなかった。
まあ、リークされてるから完全に読まれてるしね。
「あったよ。計画通り、警察に一網打尽にされてた」
「議員の人は?」
「見学に来てたからそのまま逮捕」
アホだね。
「あー、わざわざ見にきたんですか」
「なんで来たのかねー?」
「まあ、もうどうしようもなくなった後の逆恨みですからね。元凶となった人がボコボコにされるのが見たかったんじゃないですか?」
あのメンツで俺をどうにか出来ると思っているのがすげーわ。
もう完全にダメになってたんだろうな。
「救いようがないな」
「まあ、元からひどかったですし、自業自得です」
ホント、ホント。
塀の中に入るかは知らんが、反省してくれ。
「だよねー」
「それで金の受け渡しはどうなったんです?」
「クレアが来ててね。いつものタクシーでやるんだってさ。まあ、他の取引もあるし、その時に一緒にやるんだろ」
回復ポーションやアイテム袋の取引が残っているし、これからも売っていくわけだからあの2人とはまだ付き合いがある。
「ギルドの裏が闇取引の現場になってますねー」
まあ、実際、ミネルヴァとやらとも闇取引をしたし、間違ってはいない。
あそこって、人がいないからそういうのに適しているんだよな。
「量が量だし、30回払いになるってさ」
10トンのアイテム袋ならそういうことになるだろう。
「300トンですもんねー。いやー、それにしてもとんでもない数字ですね。一晩経った後も信じられません」
「ホントにな。俺もよくわからん」
1兆ってなんだ?
1万円札が何枚?
「錬金術は本当にすごかったですね」
「ホント、ホント。あの時、俺が池袋ギルドに行かなかったらどうなってたのだろう?」
こんなに上手くいったのだろうか?
「もし、池袋じゃなかったら渋谷でしょうね。おそらく、受付嬢の色香に惑わされ、渋谷支部長にいいように使われていたでしょう」
池袋でも受付嬢に惑わされてるよ。
「かねー? あそこ、すごかったもんなー。男ばっかだし」
ヨシノさんやサツキさんが下品と言っていた意味がよくわかる。
「先輩は池袋に来て正解だったんですよ。そう、運命です」
「カエデちゃんがそれ言う? 俺が前にそう言った時、鼻で笑ったじゃん」
ディスティニー(笑)
「いやー、あの時は先輩が真顔で言うんですもん。ガラじゃないし、変ですって」
俺はホストにはなれないらしい。
なる気もねーけど。
「まあいいや。とにかく、すべての金を受けとるにはちょっと時間がかかりそう」
「いいんじゃないです? すぐにいるわけではないですし、ゆっくりでいいでしょう」
「そうしよっか。冒険者になってから働きっぱなしだったし、ゆっくりしようかね」
前職の半分も働いてないけどな。
うっ……心が痛い。
「温泉にでも行きます? 私の仕事復帰もまだでしょうし」
温泉かー……
混浴…………
「いいねー。平日だったら空いてるだろうし、温泉でゆっくりしようか」
「そうしましょう。ちなみに、先輩は男湯? 女湯?」
「なんでエレノアさんが行くねん」
嫌だわ。
いや、女湯に行くのはいいんだけどね。
「冗談ですよー。じゃあ、早速、調べましょうか…………」
カエデちゃんがスマホを見始めた。
「あ、ちょっと待って。カエデちゃん、その前にここに名前を書いてくれる?」
俺はローテーブルに置いた書類を手に取ると、名前を書く欄を指差す。
「はいはい」
カエデちゃんが記入欄に朝倉カエデと書く。
「これがカエデちゃんの印鑑」
俺は朝倉と書かれたハンコを渡した。
「用意が良いですねー。それにしても証人のこの人は誰です?」
「高校時代の部活の恩師。泣いてたよ」
数学で12点を取ったアホが立派に……だってさ。
うるさいっちゅうねん。
「ホントに用意がいいですねー……」
カエデちゃんがそう言いながら押印する。
「よしよし。カエデちゃん、結婚しよう」
「順番がやばいですねー…………はいはい」
ノリ悪いな。
「今度、指輪を買いに行こうよ。エターナルなやつ」
「給料3ヶ月分ですねー! 素晴らしい!」
3ヶ月…………
3兆円になっちゃうんですけど……
「好きに選んでいいけど、ほどほどにね。目立つよ」
「それもそうですね。しかし、沖田カエデかー……」
え?
嫌なん?
「沖田ってあいうえお順で早いから便利だよ」
「いや、私に勝てるわけないじゃないですか」
朝倉だもんね……
「嫌なら朝倉のままでいいよ」
朝倉ハジメになろう。
おっ……なんかかっこいいぞ!
めっちゃ強そう!
「いや、沖田で良いですよ。先輩、新選組じゃなくなりますよ」
そうなんだけど、ハジメは長生きだけど、沖田って早く死ぬじゃん……
「まあ、カエデちゃんが良いならいいか。俺一人っ子だし、親もそっちが良いだろ」
「あのー、親御さんへの挨拶は?」
「うーん、メールでは伝えてあるし、その内、帰ってくるんじゃね?」
あいつら、今どこにいるんだろう?
「だから順番がおかしいって……」
気にすんなよ。
俺は2ヶ月以上前から準備してたんだから。
ナナポンはドン引きしてたけど。
「ほら、カエデちゃん、おいで」
俺はいつぞやのように腕を広げた。
すると、カエデちゃんがやれやれと言った感じで抱きついてくる。
「年収1千万を超えたから良しとするかー」
「そんなもん時給以下だよ」
「もう訳がわかんないです……」
いいの、いいの。
お前はただ流されていればいいの。
「よーし、遊んで暮らそうぜ!」
「よし! 非常勤にしてもらおう!」
ナナポンのことがあるから完全に辞めることはできないか。
まあ、俺もサツキさんに卸さないといけないしな。
「飲むー?」
「飲むー」
俺達は抱き合うのを止め、ココアを飲み干すと、ビールで乾杯を始めた。
俺はついに世界で一番の幸せ者になった。
26歳で幸福の底辺から頂点に立ったのだ。
やったね!
「あ、先輩、ウチに挨拶に来てくださいね」
まだ頂点ではなかったわ。
――――――――――――
ここまでが第7章となります。
ここまで読んで頂きありがとうございます。
引き続き、第8章も投稿していきますが、第8章が最終章になります。
もう少しだけお付き合いください。
他作品も含め、今後ともよろしくお願い致します。
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