第234話 人類、皆、友達
進藤大先生との別れに涙した俺はギルド本部に入った。
そして、1つしかない受付に向かう。
受付には以前と同じく、若い受付嬢がいた。
「こんにちは。あら? クビになってなかったの?」
俺がそう言うと、受付嬢がビクッとする。
「あまりウチの職員を虐めんでくれ。その子はまだ新入社員なのだよ」
声がしたので横を見ると、本部長さんが立っていた。
「面白いわねー。私がここで受付嬢と話していた時にそこに立っていたのが誰かさんよ。そして、進藤大先生の所に連れていかれたわ」
「まったく笑えんな」
でしょうね。
それにしても、この子、新入社員だったのか……
いや、そんな子に大事な受付を任せるな。
ブラックだな、ここ。
「ふーん、まあいいわ。サツキさんは?」
「こっちだ。これまた笑えんが、あそこの応接室だ」
本部長さんがそう言って見た部屋はかつて、俺が進藤先生と交渉した部屋だった。
「悪意を感じるわね」
「応接室があそこしかないんだから仕方がない。今回はぼったくりはないし、問題ないだろ」
まあ、ぼったくりのしようがないからな。
そもそも、本部は場所を貸してくれただけで、今回のオークションには関係ないし。
「ところで、あの職員はどうしたの? メガネをかけた男」
元上司に似てるヤツ。
「誰かな? そんな男はここにはいない」
あっ……
「じゃあいいわ」
クビになったか……
仲間だね…………ざまあ!
「進藤は?」
「警察に連れていかれたわね」
「ようやく消えてくれたか……こんなことを頼んで悪いな。礼を言う」
いえいえー。
いいものが見れて俺の溜飲も下がったし、モーマンタイよ。
「私も自分の身を守りたいからねー」
「ふむ。まあ、そうだな……こっちだ」
本部長さんが歩き出し、すぐそこの扉の前までやってくると、扉を開けた。
「先に言っておく、桜井の他に急遽、もう1人増えた。ではな。私は進藤の対応をしないといけない」
もう1人?
局長さん?
俺は本部長が去っていったので空いた扉から部屋の中を覗く。
「はーい!」
「あんたかい……」
部屋の中にいたのは陽気なクレアだった。
「まあ、そんなところに立ってないで座りなさいよ」
クレアが自分が座っているソファーの横をポンポンと叩く。
「普通、対面じゃない?」
俺は呆れながらも近づき、クレアの横に座る。
「そう?」
「そうよ……でも、いつも隣に座ってるからしっくりくるわね」
タクシーでもラーメン屋のカウンターでも隣だもん。
「そんなことより、エレノア、外はどうだった?」
対面に座っているサツキさんが聞いてきた。
「なーんも。警官が出てきたら逃げ出したわ。情報提供者が言うようにこんな仕事を受ける人はその程度みたい」
誰もこんな仕事はやりたくないらしく、基本的にはお隣さんも含めて、組は断ったらしい。
だからあの程度のチンピラしかいなかったのだろう。
「ふーん……やっぱり私の出番はなかったか」
この人は自分が出て、とっちめてやるって言っていた。
引退したんだからその好戦的な性格を直せばいいのに。
「普通に過剰防衛で捕まるわよ?」
警察官がいっぱいいたし。
「それもそうだな…………まあいい。エレノア、ここにサインをくれ」
サツキさんがそう言って、書類を渡してきた。
「…………英語なんだけど」
翻訳ポーションを飲むか……
「私が確認したから大丈夫だ。というか、オークションの結果に納得するかどうかの承諾書だよ」
「じゃあいいわ」
俺は書類の署名欄にエレノア・オーシャンと書き、サツキさんに返す。
「カタカナでいいわよね?」
「いいぞ。じゃあ、これはWGO本部に送っておく。私からは以上だ。受け渡しなんかはそいつと話せ」
サツキさんは書類をカバンにしまうと、スマホを弄りだした。
「またソシャゲ…………クレア、説明するために来たの?」
「そうそう。本当は本国のお偉いさんが来るはずだったんだけど、誰が行くかで揉めてね。そしたらノーマンがお前が行けってさ」
そんな適当でいいのか、ノーマン?
さすがはシャワーを浴びながら煙草を吸う男だぜ。
「まあ、あんたらのごたごたはどうでもいいわ。それよりも本当に日本と合同にしたの?」
「そうらしいわよ。おかげで勝てたわ。意外にもロシアは微妙だったけど、中国とは僅差だったわ」
「後で文句を言われそうねー」
日本と合同なのがわかったら絶対に揉めるだろう。
「さあ? 私は関係ないし、そういうのは政府の仕事よ」
まあ、こいつは元軍人とはいえ、冒険者だしな。
「それで? 受け取りはどんな感じ?」
「受け取りは私がするわ。いつもタクシーね」
だからクレアを指名したのか……
「そういや、筋肉バカは?」
「バカは北海道にラーメンを食べにいった。今は池袋を張る理由がないしね」
ホント、バカだわ。
「あいつ、全国を回りそうね」
「そうするんじゃない? 付き合ってらんないわ」
ホント、ホント。
「ラーメン筋肉バカは置いておいて、受け取りは何回払い?」
「えーっと、プレジデントの言葉を伝えるわね。受け渡しは前にクリスマスプレゼントとしてもらった2000キロのアイテム袋で行う。だから300トン割る2トンで150回払いになってしまう。もっとアイテム袋があれば早く渡せるんだが…………」
チラッと見てそう…………
「金をもう10トンくれたら10トンのアイテム袋と交換してあげる」
輪ゴム1個で金が1キロに!?
「ふむふむ…………これはエージェント契約をしてる私の案件ね。あなたは黙ってなさい。プレジデントとの交渉は私がする」
クレアが目を光らせた。
「いいの?」
「それが私の仕事だもの。あなたは私に一任したと言えばいいの。いい?」
どいつもこいつもがめついなー。
お金、お金、お金。
まあ、俺もだけど……
「わかったわよ。あなたに任せる。10トンで30回払いね。どうせ、他の契約の話もあるし、タクシーでいいわ」
「了解。私に任せときなさい。いやー、持つべきものは友ね」
お前らが言う友ってすげー信用できないんだよな。
ビジネスの国は怖いわー。
「それでいいわよ……じゃあ、もういいわね? 準備ができたら連絡して」
俺はそう言うと、立ち上がった。
「はいはーい」
クレアが手を振る。
「サツキさん、あなたも帰る? 外にヨシノさんの車があるけど?」
「いや、私は本部長と話があるし、タクシーで帰る」
「あらそう? じゃあ、ここでね。また連絡するわ」
打ち上げをしないといけない。
「ん。またな」
俺はサツキさんとクレアに手を振ると、部屋を出て、ギルドを出る。
そして、ヨシノさんの車に乗り込み、自分の家に帰ることにした。
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