第233話 栄枯盛衰


 オークションの結果がわかった日は夜遅くまで騒いだ。

 そして、翌日。


 俺はエレノアさんの姿で車の助手席に乗っている。

 今日はギルドの本部に行き、金の引き渡しについての説明と契約書にサインをしなければならないのだ。

 今までのオークションではオークションを開催したのが池袋支部だったため、そういうめんどくさいのは全部サツキさんがやってくれたが、今回はWGOが主催なため、俺がわざわざ出向かないといけない。


「どのくらいの時間がかかるものなの?」


 俺は相変わらず、素晴らしいスラッシュを見せつけながら運転しているヨシノさんに聞く。


「時間はそんなにかからないと思う。サインもすぐだしな。後は金を何分割にするとか輸送方法の相談だろう。向こうが提示してくるから君が決めればいい」

「アメリカに来いって言われるかしら?」

「言われるかもしれんが、拒否でいいだろ。アメリカだって一枚岩ではないだろうし、海外に行くのは危険だ。というか、君、パスポート持ってる?」


 パスポート……


「いや、沖田君のすらないわ。海外に行ったことがない」

「だろうねー。君は知らないと思うが、冒険者が海外に行く時はめちゃくちゃ手間だぞ。色んな書類を書かないといけないし、時間もかかる」

「冒険者の海外流出のせい?」


 ネットで見たことがあるが、昔は各国の有望な冒険者の引き抜き合戦がすごかったらしい。


「ああ、そうだ。日本は少ないが、発展途上国なんかは旅行に行ったら帰らなくなるケースがいまだに多いからな」


 亡命かね?


「あなたは特に大変そうね」

「そうだね。皆でハワイに行こうと思ったら審査に1年以上かかるって本部長に言われて諦めたことがあるよ」


 1年って……

 Aランクはすごいな。


「私は海外には行けないわね」


 まあ、そもそも、戸籍がないし、パスポートを作れないけど。


「君は逆に行きやすいと思うぞ。アメリカだったら軍経由で行ける」


 嫌だわ。


「ふーん……もし、海外旅行に行くとしてもエレノアさんの姿にはなれないわね」

「そうしてくれ。私の仕事が増えそうだ。行くなら沖田君で行ってくれ。沖田君はDランクだし、そんなに手間はないと思う」


 だったら世界一周旅行には行けるな。


「そんなに海外に行きたかったら僕が他国のゲートを使って連れていってあげるよ」


 後部座席にいるアルクがひょこっと顔を出してきた。

 なお、同じく後部座席にいるナナポンは青い顔で死んでいる。

 どうやら車酔いしたようだ。

 透視ってエンジンも見れるのって聞いたアルクが悪いと思う。


「私がゲートから出てきたらパニックよ。完全にフロンティア人認定されるし、不法入国で捕まるわ」

「それもそっかー…………ナナカ、大丈夫? ごめんね」


 アルクは顔を引っ込め、真っ青なナナポンに声をかける。


「ナナポン、一回止めようか?」


 ヨシノさんも心配そうに声をかけた。


「だ、大丈夫です。時間に遅れちゃいますし…………昔、透視で人の内蔵を見た時を思い出しただけですので」


 透視ってそこまで見れるんだ……

 こえー。


「僕も気持ち悪くなってきたな……」


 アルクが嫌な顔をする。


「私は平気」

「私も」


 そういうスプラッタ系の映画も割かし見るし。


「人斬りサイコの御二人はそうでしょうね……」

「ヨシノもどこか怖いんだよなー……」


 失礼な。


「ミスユニークさんと一緒にしないでくれる?」

「私も君と一緒にされたくはないな」


 ほら、ヨシノさんも自らユニークさに納得して、こう言っている。


「さて……そろそろね」


 俺達が話していると、ギルド本部が見えてきた。

 本部の近くにはワゴン車が路駐してある。

 そして、その先には高そうな黒塗りのセダンも路駐していた。


「そうだな…………」


 ヨシノさんはそう言うと、スピードを緩め始める。


「ナナカさん、悪いけど、見てくれる?」


 俺は後部座席でぐったりしているナナポンにお願いした。


「ええ……もう見えてます。6人です。ついでに例の人もいますね」


 わかりやすいこった……


「ヨシノさん、この辺でいいから止めて」

「わかった」


 ヨシノさんが車を止めた。


「じゃあ、ヨシノさんは2人をよろしく」

「ああ、気を付けてな」


 俺は後部座席にいるチビ2人をヨシノさんに任せ、車を降りる。

 そして、数ヶ月前にも来たことがあるギルド本部に歩いて向かった。


「ふふ」


 俺は歩いていると、思わず、笑みがこぼれた。

 何故なら、俺がギルド本部まで後、10メートルというところで近くに止まっているワゴン車から6人の男が降りてきたからだ。


 6人の男は若く、10代から20代前半と思われ、髪を金に染めていたり、服装が派手だったりでチンピラそのものである。

 とはいえ、中肉中背だし、とてもではないが、強そうには見えない。

 正直、このレベルなら何人いようと俺の敵ではない。


「あらあら?」


 俺は笑うのを必死に堪えながら男達を見る。

 男達は何も言わずに俺に近づいてくる。

 …………ナイフを持って。


「バカねー……こういう時に有効なのは鉄パイプかバットよ」


 シロウトがナイフを持っても意味がない。

 ナイフで刺すには度胸がいるし、リーチがないので何の役にも立たない。


「進藤先生もこんなのしか雇えなかったのねー…………ねえ、後ろを見てごらんなさい」


 俺は近づいてくる男達の後ろを指差しながら忠告した。


「…………なっ!?」


 6人中1人の男が後ろを振り向くと、驚愕の声をあげる。

 その声を聞いた他の男達も釣られて後ろを振り向いた。


「な!?」

「話が違うぞ!」


 男達はうろたえ始める。

 何故なら、男達の後ろには10人以上の警察官が立っていたからだ。


「大先生に警察や警備は止めるって言われた? 残念ながら大先生にもうそんな力はないわよ」


 実際、そういう圧力があったらしい。

 だが、党内で孤立し、粛清を待つだけの大先生にそんな権限はない。


「クソッ!」

「おい、どうする!?」

「知るか! 俺は関係ねー!!」


 1人の男が俺に向かって走ってきた。


 んー?

 やる気か?

 いや、男には殺気がないし、何より俺を見ていない。


 俺は男の様子を見て、歩道の端に避ける。

 すると、走ってきた男は俺をスルーして、そのまま駆けていった。


「逃げたわよー。何してんの?」


 俺は立ったままの警察官に声をかけた。

 すると、残っている5人も走って逃げだし、警察官がそれを追いかけていく。


 男5人が俺の目の前を走っていき、警察官も走っていくと、1人の警察官のおじさんが俺の前で止まった。


「ケガはありませんか?」


 あるわけないじゃん。


「ないわねー。それよりもあそこの高級車に進藤先生が…………あらま」


 俺が高級車を指差そうと思って高級車を見ると、すでに高級車を別の警察官が囲んでいた。


「情報提供に感謝します」


 警察官のおじさんが敬礼をした。


 実はお隣さんから情報を聞いた俺はその情報をサツキさんに流した。

 そしたらこういう計画になったのだ。

 説明や契約書にサインをするのが池袋ギルドではなく、本部になっているのもこのためである。

 お偉いさん方は進藤先生をどうしても排除したかったらしい。


「ご苦労様。後は任せるわ。私は本部に行く」


 俺は警察官のおっさんに手を振ると、高級車を眺めながらギルド本部に向かう。

 すると、高級車から見たことがある初老のじいさんが降りてきた。


「離せ! 儂に触るな!」


 往生際の悪い大先生だなー。


「クソ! おのれ、魔女め! 貴様のせいで国に貢献してきた儂がこんな目に!!」


 大先生は俺を見ながら怒鳴ってくる。


「ばいばーい」


 俺はそんな大先生に笑顔で手を振ってあげた。


「クソ! 死ね、魔女!」


 醜いねー……

 この人が過去にどんな功績があったかは知らないが、大臣まで経験してるくらいだから有能なんだと思う。

 でも、今回のケースは完全に自業自得だ。

 素直にレベル2の回復ポーションを300万くらいで買えばよかったのだ。

 それなのに欲をかいて、100万で奪おうとした。

 そして、俺を拘束すると脅してきた。


 うん、俺は悪くない。

 大先生が勝手に転んでいっただけだな。


 俺は歳は取りたくないなーと思いながらパトカーに乗せられていく大先生を見つめた。


「ぷぷぷ」


 ヤバい…………笑いそう。

 ざまあ!





――――――――――――


本日は投稿日ではないですが、書籍発売を記念した特別更新となります。(宣伝)


本作とは関係ないですが、現在連載中の別作品である『廃嫡王子の華麗なる逃亡劇』が明日、カドカワBOOKS様より第1巻が発売されます。

興味がある方はぜひ覗いてみてください。


https://kakuyomu.jp/users/syokichi/news/16818093073291208848


本作品も含め、今後ともよろしくお願い致します。

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