第232話 勝ち組ばんざーい


 お隣さんから情報提供を受けたため、俺はその情報をサツキさんに報告した。

 俺はその後、たまに買い物に行く程度でほぼ家で過ごし、オークションの日を待っていた。


 家にはカエデちゃんがいたし、アルクとリディアちゃんもほぼ入り浸っている。

 さらにはたまにナナポンやヨシノさんも来たため、暇ということはなかった。


 そして、1ヶ月後。

 各国は入札を終え、それぞれ会見を開き、自国民に必ず落札できるとアピールしていた。

 なお、一部の国はこのオークションは不当であるとエレノアさんやギルドを批判している。

 でも、ルールを破ったのはそっちなので自業自得だ。


 多分だが、オークションを終えた後、落札できなかった国々もエレノアさんやギルドを批判すると思われる。


 まあ、このあたりは仕方がないし、ギルドが何とかしてくれると思う。

 それにエレノアさんはこのオークションで表舞台から消えるため、何の問題もないはずだ。


 俺は今、自宅のソファーに座りながらローテーブルに置いたスマホを見ている。

 隣にはカエデちゃんが座っており、ナナポンやヨシノさんもソファーの近くにいた。

 さらにアルクとリディアちゃんがテーブルに座っている。

 そして、そんな5人が俺と同じく、ローテーブルに置いてあるスマホを見ている状況だ。


 俺達が何の言葉も発さずにただただスマホを見ていると、スマホが光り出し、着信音が鳴り響いた。


 俺はすぐにスマホの着信ボタンを押し、電話に出る。


「もしもし、サツキさん?」

『ああ、エレノアか?』


 俺は沖田君ではなく、エレノアさんになっている。

 ナナポンがいるからという理由もあるが、今日はオークションの落札結果がわかる日なのだ。


「ええ、そうよ……で?」


 俺は固唾を飲んでいる人達に急かされている気がしたので早速、本題に入る。


『ああ…………ぐふっ……実はな……ふふふ』


 サツキさんが壊れている……


「落ち着きなさい。笑いを我慢して簡潔に報告してちょうだい」

『エメラルダス山脈が落札されたぞ』

「どこの国?」

『お前のフレンドだ』


 アメリカか…………

 順当すぎてつまらんが、面白さは必要ない。


「ふぅ…………それで? いくら? というか? 金は何トン?」


 俺は一つ、息を吐くと、一番知りたいことを聞く。


『さん………ふひひ』


 金の亡者め!

 いつものできる女っぽさはどうした?


「落ち着け、アホ」

『悪い…………300トンだ』


 300…………トン!?


「え!? トン!?」

『そう。トンだ』

「それ、円でいくらよ?」

『金が1キロ400万円だとすると……電卓、電卓…………いち、じゅう、ひゃく、せん、まん……………うん! 1兆2000億円だな!』


 イミフ!


「私のちっぽけな頭では理解できない数字ね……」

『大丈夫。私もよくわからん』


 まあ、あんたの脳もぶっ壊れてるしね。


「絶対に生涯、お金に困らないわ」

『私の取り分は10パーセントだったっけ?』

「確かそうね」


 そんな気がする。


『1200億円だな…………結婚とか仕事とかどうでもよくなってきたなー』


 あのやっかみ女が丸くなったぞ。

 1200億円すげー!


「受け取りは?」

『何回かに分けると思う。お前はとりあえず、本部に行ってサインしてくれ。私も行くから』

「わかった。明日、本部に行くって伝えてちょうだい」


 早い方が良い。


『わかった』

「今からウチに来る? 高いワインでも開けない?」

『いや、寝る。実は昨日、寝てない』


 気持ちはすごくわかる。

 俺も昨日、寝れなくて酒で無理やり寝たし。


「じゃあ、今度、勝ち組万歳の打ち上げをしましょう」

『ああ。そうしよう。じゃあな』


 サツキさんはそう言って、電話を切った。


「ふぅ…………勝ち組ばんざーい!」

「「「ばんざーい!!」」」


 俺が両手を上げて万歳をすると、カエデちゃんとナナポンとヨシノさんも続けて万歳をする。


「アルク! 冷蔵庫から酒を持ってきなさい!」


 俺はテーブルに座っているアルクに指示を出す。


「僕、飲めない」

「チビ3人と下戸の巨乳はリンゴジュースでいいわ」

「待ってて!」


 アルクがキッチンに駆けていく。

 そしてすぐにワインとリンゴジュースと共に人数分のグラスを持って戻ってきた。


「ご苦労」


 俺はワインと2人分のグラスを受け取ると、ローテーブルに置き、ワインをグラスに注いでいく。

 アルクもテーブルに4人分のグラスを置き、リンゴジュースを注いでいった。

 そして、注ぎ終えると、全員がグラスを持つ。


「皆、サツキさんの電話は聞いたわね? この度のオークションは1兆とかいうよくわからない値段になった。私達は今日この日を持って勝ち組になったわ! いえーい! かんぱーい!」

「「「かんぱーい!!」」」


 やっふぅー!


「僕らは関係ないよね? 」

「アルク、空気を読んで。かんぱーい!」

「かんぱーい」


 俺とカエデちゃんとナナポンとヨシノさんの4人が上機嫌で乾杯をすると、少し遅れてアルクとリディアちゃんも乾杯をした。


「いやー! 1兆ってすごいなー! サツキ姉さんが動揺を隠しきれてなかったぞ」


 リンゴジュースを一気に飲み干したヨシノさんが上機嫌に笑う。


「仕方がないでしょ。私も理解が及ばないもん」


 億万長者を超えたんだぞ。

 まあ、取り分やギルドの手数料を引くと、兆を切ってしまうが……


「私、何もしてないのにお金がどんどんと入ってきます」


 ナナポンの目が泳いでいる。


「黄金を見せてあげるって言ったでしょ」

「し、師匠……! この男、ゴミだなって思っててごめんなさい」


 もういいよ。

 お前がエレノアさんしか見てないのはわかってたし。

 沖田君は諦めた。


「しかし、すごい額になったねー。あんな辺境の要らない土地なのに……」


 アルクが感心したように言う。


「あなた達にとっては要らないかもだけど、私達には必要なの。アルク、これが商売よ。あなた達はフロンティアのエリアを支援物資とかで簡単に譲るけど、本来はこのくらいの価値があるものなの。今度からはもうちょっと高値をつけなさいよ。それで売ったお金で食糧や医療品を買いなさい」

「うーん、何か良いことを言っている……」


 もうそのセリフでこいつが俺をバカにしていることがわかる。


「あんたが王様になったら私がアドバイザーになってあげようか?」

「国が滅びるからいい」


 失礼な。

 お前らのところの錬金術師と一緒にすんな。


「アルクが要らないなら私が雇おうかしら?」


 リディアちゃんが不穏なことを言っている。

 正直、嫌だ。

 だって、リディアちゃんの方が魔女っぽいし。


「せんぱーい、そんなことより、グラスが空いてますよー。おつぎしまーす」


 隣に座っている高級キャバ嬢のカエデちゃんがそう言いながら俺の肩を叩いてきた。


「いやー、悪いねー」

「どうぞ、どうぞ」


 カエデちゃんが俺のグラスにワインを注いでくれる。


「ルネサーンス!」

「ルネサーンス!」


 俺とカエデちゃんは貴族風に乾杯をする。


「よーし、潰れるまで飲むぞー。回復ポーションがあるから二日酔いも大丈夫!」

「はーい! 大量に買ってきて良かったですねー」


 ホント、ホント。


「酔っぱらいは嫌だなー」

「気をつけてくださいよ。この人、酔うとその辺の物を斬りだすらしいです」

「タチ悪っ!」


 うるさい巨乳とチビだわ。


「金って硬いかな?」


 俺はリビングの端にある金の延べ棒タワーを見る。


「先輩、マジでやめてください」


 カエデちゃんの顔がまったく可愛くなくなった……





――――――――――――


今週は明日も投稿します。

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