第231話 おかわりしていいって言ってんのに


「まあな…………お前も元気そうで何よりだ。それに別れてないみたいで安心したわ」


 お隣さんがチラッとカエデちゃんを見る。


「当たり前じゃん。ってか、こんなところで何してんっすか?」

「普通に買い物だよ」

「へー……ファッションが決まりすぎでは?」


 ちょっとガラが悪すぎやしないだろうか?


「いつもこんなんだっただろ」

「いや、俺のイメージはスウェット姿でタバコを吸っている姿です」


 いつも玄関前で吸っている。

 非常におっさんっぽい。


「あー、まあそうか。お前とは外で会うことはないもんな」

「ですよ。俺は仕事で帰るのが遅かったですし…………」


 うっ……心が痛い。


「先輩、もう大丈夫ですよー」


 カエデちゃんが背中をさすってくれる。


「うーん、やっぱりあのまま仕事を続けてたら刀傷沙汰だったな。有名人になれたのに」

「嫌じゃい。ところで1人っすか? 肉じゃがの彼女さんは?」


 おすそ分けを作ってくれたらしい人。


「1人だよ…………お前、ちょっと来い」


 お隣さんは俺の腕を掴み、立たせてくる。


「何っすか? 俺、20年ぶりのパフェを食ってんですけど…………」

「んなもんいつでも食えるだろ。ちょっと来い」


 お隣さんは強引に別の席に連れていく。

 そこはコーヒーカップが一つ置いてあるテーブルであり、お隣さんが座っていたであろう席だ。


「マジで何ですか? 俺が女を3人も連れているのが気にくわないんです?」

「アホか……というか、ガキじゃねーか」


 カエデちゃんは大人だよ。


「じゃあ、何です?」

「お前、例の魔女とはどういう関係だ?」


 あ、そういえば、俺、エレノアさんの姿でこの人に会ってるわ。


「知り合い? 同じギルドに所属しているんっすよ」

「ふーん……まあ、詮索はしねーわ」


 おや?

 意外だ。


「そうなんっすか?」

「アメリカがうるせーんだよ。俺らだって、軍人や冒険者連中を敵に回したくない」


 あー、クレアとハリーがいるもんな。


「時の人ですもんねー」


 自分でも言うのもなんだが……


「まあ、別にあれがどうとか言うつもりはねーよ。管轄外だ。だがな、ちょっと俺らの業界で噂が立っている」

「噂?」

「えーっと、誰だったかな? 名前を忘れたが、何とかっていう国会議員様があの魔女をめっちゃ恨んでいるそうだ」


 1人しかいないな。

 進藤先生だ。


「へー……何かあるんです?」

「俺らみたいなヤツらに襲撃というか、制裁を指示したらしい」


 あのじいさん、やーさんとまで繋がってんのかい。


「マジっすか? え、お隣さんも?」

「そんなもん受ける訳ねーだろ。メリット皆無じゃねーか。それどころか終わるわ」


 そりゃそうだ。


「じゃあ、誰?」

「こんな仕事を受けるのはどっかのチンピラというか、半グレとかじゃないか?」


 めんどくせ。


「ちなみに、制裁ってリンチ?」

「まあ、そうだろ。拷問とかか?」


 怖いわー。

 進藤先生、嫌いだわー。


「嫌っすねー」

「そりゃな。こんなんで巻き込まれると嫌だからお前に知らせておこうと思って…………お前もあの魔女も名刺をくれてやったのに連絡してこねーし」


 やーさんにかけねーわ。


「ふーん、あざます」


 俺は頭を下げる。


「ちゃんと魔女やギルドに知らせろよー。あと、俺らは無関係なことをちゃんとアピールしろよー」

「わかってますよ」


 むしろ、情報提供者だ。


「じゃあ、話は終わりだ。俺はパチンコに行くからお前はガキの子守を続けろ。あ、ここは払っておく」


 お隣さんはそう言って立ち上がった。


「あざーす」


 お隣さんは俺らのテーブルまで行くと、テーブルに置いてある伝票を持って、店を出ていく。

 俺はお隣さんを見送ると、席についた。


「誰、あれ? ハジメの知り合い?」


 アルクが聞いてくる。


「前に住んでいた家のお隣さんだよ。危ない人だからお前らは近づくなよー」


 優しいし、良い人ではあるが、世間的にはよろしくない人だ。


「あ、やっぱりそっち系の人ですか……」


 カエデちゃんは想像がついたらしい。


「そうそう。まあ、カエデちゃんに手を出したら首を刎ねるって言ってあるから」

「先輩、笑えないんですけど……」


 そりゃ、本気だもん。


「ふーん、ハジメのサイコっぷりは今更だけど、何の話だったの?」


 アルクは耐性がついてきたな。

 でも、俺はサイコではない。

 最愛の人を守るナイトなのだ。


「ちょっとした情報提供だよ。どうやらエレノアさんはとある大先生に大変に恨まれているらしい」

「まあ、エレノアはあちこちで恨まれてるだろうね」


 何もしてないんだけどなー。

 大先生に至っては自業自得だし。


「先輩、とある大先生ってもしかして……」


 まあ、カエデちゃんはわかるわな。


「そそ。あの人。サツキさんに話してみるわ」


 本部長さんが何とかしてくれるだろ。


「気をつけてくださいね」


 カエデちゃんはいい子だわー。

 しかし、リディアちゃんは会話に加わらず、アルクのプリンパフェをじーっと見ているな…………

 そして、アルクはそんなリディアちゃんに気付き、自分のパフェをリディアちゃんから遠ざけた。


「リディアちゃん、プリンが食べたかったら頼んでいいよ」


 俺がそう言うと、リディアちゃんの顔がぱあっと華やいだ。


「さすがは我が師。それに比べてアルクは……」


 リディアちゃんがジト目でアルクを見る。


「いや、僕は悪くない。絶対に悪くない」


 悪くはないけど、良くもないな。

 リディアちゃんは怖いから尾を引いちゃうぞ。


 うーん……後で教えておくか?

 いや、まあ、ナチュ畜アルクが聞くとは思えんな……

 いいコンビだわ。

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