第229話 ほら、居ついた……


 エメラルダス山脈の説明会を終えて、1週間が経った。

 説明会の3日後にはWGOからオークションについての発表があり、世間を賑わせている。

 ネットの掲示板、テレビのワイドショーなどでは日本が入札すべきなどを議論しているし、他国のニュースでも大々的に取り上げられていた。

 まさしく、世界はオークション一色といった感じである。


 俺は今、ソファーに座りながらスマホでそういった情報を見ていた。

 なお、テーブルではカエデちゃんとアルク、リディアちゃんの3人が飽きずにお茶会をしている。


 ここのところ毎日、お茶会してるなー……

 アルクもだけど、リディアちゃんって暇なのかね?


 俺はスマホをテーブルに置き、呆れながらテーブルの3人を見た。

 すると、リディアちゃんがスッと立ち上がり、俺の方にやってくる。


「ん? どうしたの?」


 俺はソファーのそばまで来て、俺を見下ろしているリディアちゃんに聞く。


「ハジメ様、お願いがありまして……」


 今日はナナポンが大学に行っているため、俺はエレノアさんではなく、沖田君だ。


「んー? なーに?」

「買い物に出かけたいのですが……」


 買い物?

 リディアちゃんが?


 俺はリディアちゃんを頭から足のつま先までをじっくり見る。

 リディアちゃんはドレス姿だ。


「目立つよ?」

「服はアルクに借りて、着替えます」


 まあ、アルクとリディアちゃんは身長も体格もほぼ変わらないから問題はないのだろうが、特殊なプレイをする夫婦だな。

 俺もカエデちゃんの服を着たことあるけどさ。


「いいけど、髪は結んでね」


 正直なことを言うと、今は外出を控えてほしいとは思う。

 だが、見下ろしているリディアちゃんが微妙に怖い。

 すごく可愛らしい子なのだが、何故か怖いのだ。


「ありがとうございます!」


 うーん、笑顔は可愛いんだけどなー。


「買い物って何を買うの?」

「服とかですね」


 服……

 行きたくないなー。

 カエデちゃんに任せようかな……

 でも、女だけだとちょっと怖いか……

 カエデちゃんもリディアちゃんも可愛いし。


「カエデちゃん、付き合ってくれる?」


 俺はテーブルにいるカエデちゃんに聞く。


「いいですよー。このところ、ずっと家ですし、出掛けたいです」


 カエデちゃんはまだ冬休みだもんなー。


「アルクは?」


 一応、聞いておこう。


「僕も行くよ」


 だろうね。

 絶対にお留守番はしないだろう。


「じゃあ、準備するか……カエデちゃん、リディアちゃんをよろしく」

「はーい」


 俺はカエデちゃんにリディアちゃんを任せると、立ち上がり、着替えるために自分の部屋に向かう。

 そして、自室に入ると、後ろを見た。


「なんでお前がついてきてんだ?」


 俺の後ろにはアルクがいた。

 アルクは扉を閉めると、俺のそばまでやってくる。


「ハジメさー、ちょっと確認したいことがあるんだけど、いい?」

「いいけど、早めにしろよ。リディアちゃんが待ってるだろ」


 彼女を待たせるんじゃないぞ。


「そのリディアなんだけどさ、僕のことがバレてない?」


 バレているとはもちろん、アルクが女の子だということだろう。

 アルクはさすがに鎧は着ていないが、ゆったりめのパーカーにパンツスタイルなため、体格はわからない。

 男の子と言われれば信じられる感じだ。


「どうしてそう思うんだ?」

「服を借りるっておかしくね? 普通、カエデに借りるでしょ」


 まあ、そうだろう。

 カエデちゃんはリディアちゃんよりあちこちが大きいが、体格は小柄だ。

 服だって着れないこともないだろうし、カエデちゃんはおしゃれさんなので色んな服を持っている。


「アルク、スルーしろ。それがお前の幸せだ」


 正直、リディアちゃんはアルクが好きなだけで、男だろうが、女だろうが関係ないっぽい。

 彼女は深淵を覗いてしまったユニークスキル保持者なのだ。


「……ねえ、君、何か知ってるの?」

「知らない。お前らの問題だ。師匠が立ち入っていい話ではない。頑張れ」


 応援してる。


「君、リディアが苦手?」

「あの子、怖い」


 リディアちゃんには皆がエレノアさんに感じているだろうどこか恐ろしいミステリアスさがある。


「リディアも君に言われたらおしまいだね」


 そんな子を娶るか、娶られるお前もおしまいだよ。


「いいから服を貸してこい。地味なやつな」

「わかってるよ。あ、僕もここで着替えるからね」


 アルクはそう言うと、部屋を出ていった。


「マジであいつの親な気分になってくるぜ……」


 俺はやれやれと思いながら着替えを始めた。


 着替えを終えると、リビングに行き、3人を待つ。

 すると、アルク、リディアちゃん、カエデちゃんの順番でやってきた。


 アルクはなんで着替えたのかわからないが、違うパーカーを着ている。

 リディアちゃんもパーカーのパンツスタイルでキャップを被っている。

 カエデちゃんは白いコートを羽織っており、非常に可愛らしい。


「リディアちゃん、そのキャップは?」


 俺はちょっと気になったので聞いてみる。


「カエデ様が貸してくれました」


 ふーん……


「カエデちゃん、キャップなんて持っているんだね。被っているところを見たことがないわ」


 というか、カエデちゃんが帽子類を被っているのを見たことがない。


「高校の時のやつです。さすがに大学以降は被ってませんよ」


 まあ、そうだろう。

 だって、リディアちゃんからワルガキ感が出てるし。

 大人なカエデちゃんには似合わない。


「まあいいか。タクシーを呼ぶからそれでショッピングモールにでも行こう」


 俺はスマホを手に取り、タクシーを呼ぶことにした。

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