第228話 打ち合わせ
各国の代表さん達の後にサツキさんと局長さんもゲートをくぐっていった。
この場に残っているのは俺とチビ3人だけだ。
「エレノアさー、なんで僕に説明させるんだよ。しかも、無視するし」
アルクが文句を言ってきた。
「あなたの方が詳しいし、説明の練習になったでしょ。王様になるんだったら口くらいは上手になりなさい」
けっして、めんどくさくなったわけではない。
「まあ、説明しようかって言ったのは僕だけどさー……絶対にフロンティア人ってバレたな」
「別にいいでしょ。私と一緒にいる時点でそうよ」
というか、リディアちゃんに至っては隠す気すらなかった。
「ここまで来たら誤魔化す意味はないか……」
「私的にはサンドドラゴンを誤魔化そうと思ったんだけどね」
「無理でしょ。誰だってドラゴンって言われたら食いつく」
まあねー。
俺も王様に説明してもらった時には食いついた。
「まあいいわ。アルク、ナナカさんとリディアちゃんを送っていってちょうだい。後は局長さんと話すだけだし」
局長さんのステータスも把握したし、隠し武器を持っていないこともわかっている。
まあ、あんなじいさんが武器を持っていてもどうとでもなるけど。
「わかった。僕も同席していい?」
「当たり前でしょ。誰が私を連れて帰ると思ってんの? それにこれも勉強よ」
王様になるんだから色んなことを経験するべきだ。
「どっちが本音かわかりやすいね……ナナカはエレノアの家でいいでしょ? リディアは?」
「私もエレノア様のお宅でお願いします。カエデ様とヨシノ様にお茶会に誘われてますので」
リディアちゃんがお茶会って言うと、優雅に聞こえるな。
どうせ、お菓子をバクバク食べるだけなのに。
「じゃあ、2人共、あそこの家だね。送っていくよ」
「いってらっしゃい」
俺がそう言うと、アルクは一瞬にしてナナポンとリディアちゃんと共に消えた。
俺は1人になったのでなんとなく、カバンから剣を取り出し、刃を眺める。
「オークションが終わったらこれを使うこともなくなるのか……」
ちょっと寂しい。
別に何かを斬りたいと思っているわけではないが、8年ぶりに剣を振るのは楽しかった。
「ただいまー……って怖っ!」
俺が剣を眺めていると、アルクがすぐに戻ってきた。
「早いわね」
「そりゃあ、送るだけだもん…………ねえ、何してんの? 君が剣を見ていると、異様に怖いんだけど……」
「別に……これを使うこともなくなるのかなって思っただけ」
哀愁。
「怖いよ……辻斬りの発言だよ……エレノア、ちょっとそのままで笑ってみて」
俺はアルクにそう言われたのでニコッと笑ってみた。
「うわー……こっちは全然、笑えない」
じゃあ、させんな!
「私は哀愁も感じられないのね……どうでもいいから行くわよ」
俺は剣をカバンにしまうと、ゲートに向かって歩き出す。
「あ、もうゲートは繋がってないから僕が連れていくよ」
「じゃあ、お願い」
俺とアルクは局長さんとサツキさんが待つ池袋ギルドに戻ることにした。
アルクの転移魔法でギルドのゲートに戻ると、そのままサツキさんの部屋に向かう。
そして、サツキさんの部屋の前まで来ると、ノックをした。
「入っていいぞー」
俺とアルクはサツキさんの了承を得られたので部屋に入る。
部屋の中ではすでにサツキさんと局長さんがソファーに座っていたので俺とアルクは2人の対面に座った。
「他の2人は?」
俺達が座ると、局長さんが聞いてくる。
「帰らせた。大人数では座れないしね 」
このソファーはそこそこ大きいが、さすがに4人も座れない。
「その子はいるんだな……」
局長さんがアルクを見る。
「お勉強。特別に目をかけている子なの」
「…………嫌な言い方」
アルクは本当に嫌がるなー。
ツンデレか?
「まあ、気にしないでちょうだい。それよりもまずはお疲れ様」
「ああ、そうだな。お疲れ様。私も久しぶりのフロンティアで緊張したよ」
局長さんは結構な歳だもんな。
「無事に終わって良かったわ。もっと荒れるかと思ってた」
俺に襲い掛かるヤツがいるかもと思って、アイテム袋にしているローブのフードに刀を隠していたのだが、出番はなかった。
「退場者を出したがな…………まあ、正直に言うと、私も思ったより平和に終わったと思っている」
局長さんもどっかの国が約束を破るとは思っていたんだろう。
「苦情や言い訳が来ると思うけど、対処をよろしく」
「そうだな…………まあ、それがギルドの仕事だ」
局長さんはものすごく嫌そうな顔をしているが、一応、対処はしてくれるっぽい。
「それでエメラルダス山脈に行ったわけだけど、ギルド的にはこれをオークションに出してもいいと思った?」
「少なくとも、嘘ではないことはわかった。もっと言えば、ギルドからもフロンティアに確認をしている」
あ、王様がちゃんと答えてくれたんだ。
「じゃあ、いいわね?」
「ああ、許可しよう。ただし、いくつかの条件がある」
条件ねー……
「まあ、それを話す場だものね」
「そういうことだ。まずなんだが、オークションの形式を決めたい」
オークション形式か……
「これまで通りのギルドのホームページじゃマズい?」
「間違いなく、サーバーが落ちる。事実、君がオークション開催の意志を発表してから何回かギルドのホームページが落ちた」
「ウチのも落ちた。もっと言えば、本部のも落ちたらしい」
あらら。
日本のもか……
ごめんなさい。
「じゃあ、どうすんの? どっかの会場を借りて、皆で昔ながらのオークションをする? 競りみたいなやつ」
「無理だ。世界中の代表を集められんし、パニックになる」
まあ、そうだろうな。
俺もこれはないと思っている。
「じゃあ、どうすんの?」
「価格は落ちるかもしれんが、封印入札方式にしたい」
「何それ?」
聞いたことない。
「各国がエメラルダス山脈を買い取る額をギルドに提出する。その中で一番高い額を提示した国に落札されるという方式だ」
「競らないってこと?」
「そうだ。実はな、国が相手の場合、競りは厳しい。何しろ、どこの国も税金だからな。予算が決まっている」
なるほど。
普通はヒートアップして予算以上にお金を出すものだが、税金だとそれは許されないわけだ。
「うーん、どうだろー? サツキさんはどう思う?」
「私もそれがいいと思うな。額が額だし」
それもそっかー……
「じゃあ、それでいいわ」
ぶっちゃけ、よくわかないし。
サツキさんがそれでいいって言うんだったらそれでいいだろ。
「うむ。それと商品は金で支払うことで良かったかな?」
「ええ、そうね」
「そうなると、分割払いになると思うがいいか?」
「分割払い? なんで? すぐにちょうだいよ」
ケチんな!
「エレノア、お金じゃないから振り込んで終わりってことにならないんだ。お前、大量の金をどうやって受け取る気だ?」
サツキさんが呆れたように説明してくれる。
「なるほど。もらっても困るわ…………」
いくらになるかは知らないが、100トンの金だよーって渡されてもアイテム袋に入れるのも大変だ。
「だから分割払いだ。何分割にするかは今は決められん。落札された後に金の量を見てから決める。そのあたりはギルドが責任を持ってやることを約束しよう」
「国が踏み倒すことはないの?」
「その時はその国からギルドが撤退する。その場合はその国からゲートがなくなることになる」
「そうなの?」
「我々ギルドはフロンティアとそういう条約を結んでいる。ギルドの裁量でゲートの撤去を決めることもできるんだ」
ギルドってすげーな。
「そうなの?」
俺は隣に座っているアルクを見る。
「委託みたいなもんでしょ。フロンティア人はこっちにいないからこっちがどうなっているかはわからない。だから国とは無関係な組織を作ってもらって、ある程度は委託してんでしょうよ」
ほうほう。
アルクがそう言うならそうなんだろう。
「なるほどね。じゃあ、踏み倒しはないわけだ」
俺はアルクから目線を切り、局長さんに確認する。
「そうなるな。もし、踏み倒した場合、エメラルダス山脈は君に返却となる」
いらないからまたオークションを開催してもらうか。
「わかったわ。その辺のことはギルドにお任せします。オークション開催の時期は?」
「当初の予定通り、1ヶ月後だ。数日後にはオークション形式、取引が金になることなどを発表する」
「数日? 早いわね?」
今日のことをまとめるんじゃないの?
「そのくらいしないと1ヶ月後には間に合わないんだ」
早いに越したことはないけど、別に1ヶ月後じゃなくてもいいんだけどなー…………
まあ、いっか!
「わかったわ。よろしくお願いします」
俺はアルクの頭を押さえ、一緒に頭を下げた。
「何かあったり、国から問い合わせがあったら連絡したいが、桜井でいいか?」
「ええ、そうしてちょうだい。サツキさん、よろしく」
「わかった」
サツキさんが頷く。
「では、打ち合わせはこの辺にしよう。私はさっさと指示を出さねばならないし、国に帰らなければならない」
局長さんはそう言うと、立ち上がった。
「私はこのままオークションが終わるまで待っていればいいの?」
やることない?
「そうだな。できたらなるべく外には出ないでくれ」
「それはそうする」
絶対に騒ぎになるし、下手をすると暗殺される。
「あと、オークションが終わったら契約書を交わせねばならんからそのつもりでな」
「ここでいい?」
「ああ。その辺も含めた日程調整をしよう。まあ、オークションが終わった後だな」
それそうか。
まずはオークションを終えないと。
「わかったわ。今日はありがとう」
「いやいや、これも仕事だ。ではな」
局長さんはそう言って帰っていったので俺達もその場で解散となり、俺とアルクは転移魔法で家に帰ることにした。
そして、家に帰ると、テーブルの上に散りばめられた地球とフロンティアのお菓子をカエデちゃん、ナナポン、ヨシノさん、リディアちゃんの4人が美味しそうに食べていた。
どうでもいいけど、アルクだけでなく、リディアちゃんまで家に居つきそうなのは気のせいだろうか?
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