第227話 エメラルダス山脈 ★


 次々と各国の代表がやってくるが、10組に1組の割合でユニークスキル持ち、もしくは、武器を隠し持っている者がいた。

 魔女とその弟子達はそういった者を次々と消していくと、最後はアメリカの代表がやってきた。


「これで最後か。アメリカさんは…………問題ないようね」


 魔女はチラッと弟子達を見たが、弟子3人は何も反応しなかった。


「これで全員だな。まあ、思ったより、退場者が少なかったなー」


 桜井が笑いながら言う。

 だが、正直なことを言えば、私も同じことを思った。

 半分とは言わないが、3割、4割は違反をすると予想していたのだ。


「良いことじゃないの。では、説明会を開始しましょう」


 魔女はそう言うと、各国の代表を見渡す。

 私はポケットからボイスレコーダーを取り出し、録音を開始した。


「皆様、本日はよくおいでくださいました。これより、説明会を始めます。なお、質問事項も受け付けますが、この説明会と関係ないことは受け付けません。また、時間のこともあるのですべての質問に答えることができないことをご承知ください。質問できなかった事項は後日、ギルドに問い合わせてください。では、説明を始めます」


 魔女はそう言うと、エメラルダス山脈の方を見て、指差した。


「あちらに見えるのがエメラルダス山脈です。標高等は知りません。ですが、変なガスが出るとか毒があるとかはありませんのでご安心を。あそこの山脈及び周囲2キロがこのエリアの範囲となります。また、フロンティアの王様の話ではあそこの山には金などの鉱物が採れるらしいです。そして、それは手付かずで残っております」


 それは前にも聞いたんだが、落札の料金を金で取引するなら自分で鉱山経営でもすればいいのに。


「次にですが、出現するモンスターです。ここは多くの種類のモンスターが出ます。スライム、ゴブリン、スケルトンを主としていますが、稀にサンドドラゴンも出ます。でも、本当に稀にです」


 サ、サンドドラゴン!?

 聞いたことないモンスターだが、ドラゴンって大丈夫か?


 私が不安に思っていると、各国の代表もざわつき始めた。


「ん? どうしました?」


 各国の代表の反応を見た魔女が首を傾げる。


「エレノア君、多分、皆はサンドドラゴンが気になるんだと思う。サンドドラゴンはギルドでも確認していないモンスターだ。どういうモンスターなのかね?」


 私は代表して聞くことにした。


「ああ……なるほど。サンドドラゴンはドラゴンという名前ですが、ドラゴンではありません。大きなトカゲです。もちろん、火は吐きませんし、魔法も使ってきません」


 コモドドラゴンみたいなものかな?


「大きさは?」

「…………5、6メートル程度です」


 魔女が目を逸らしながら小声で言った。


「5、6メートル!?」


 各国の代表達のざわつきが大きくなる。


「危険性は? 毒があるとか……」

「…………毒はないかな」


 魔女は一向に私を見ない。


「エレノアさー、正直に言いなよ。代わりに僕が言おうか?」


 魔女の弟子のショートカットの子が呆れたような顔をして、魔女に言う。


「任せるわ」


 魔女は弟子にそう言うと、エメラルダス山脈の方を見た。


「ハァ……サンドドラゴンに毒はない。だけど、地面や岩に擬態するモンスターだ。スビードはないけど、待ち伏せして獲物を狩るハンターだね」


 5、6メートルもある巨大なトカゲが擬態して待ち構えているわけだ。

 危険度がすごい……


「あの、対処法はあるのか?」


 各国の代表の中の一人が手を挙げて聞く。


「怪しいところに石でも投げるといいよ。それで反応するから。擬態しているとはいえ、見えないわけじゃないからね。サンドドラゴンはその大きさがネックになるからわかりやすいんだ。大きい岩とかがあったら要注意」


 確かに擬態をしているとはいえ、サイズがサイズだ。

 不自然さは残るだろう。


「そのサンドドラゴンは何をドロップするのかね?」

「竜のウロコっていうアイテムを落とすね。実際はトカゲなんだけど、結構いい素材だし、防具でも作りなよ」

「ほう……!」


 竜のウロコと聞いた各国の代表が色めきだった。

 竜のウロコは聞いた事のないアイテムだし、当然の反応だろう。

 リスクはあるが、その分、旨みもありそうだ。


 ところで、魔女は何もしゃべらなくなったな……

 それどころか、横川と一緒にエメラルダス山脈を眺めながら2人でこそこそ喋っている。


「サンドドラゴンに遭遇したら慌てないことが重要。よくあることなんだけど、サンドドラゴンを見つけて、慌てて逃げると、別のところに隠れているサンドドラゴンにやられちゃうからね」


 よくあること?

 フロンティアから借地しているエリアにサンドドラゴンは出ないのに?

 このアルクという子はフロンティア人で確定だ……


「あなた、山登りは好き?」

「嫌いです。ですので、私はここには来ませんね」

「私も嫌だわ。やっぱりミレイユ街道よね」


 魔女はいよいよもって我関せずだ。

 君が説明するんじゃないのか?


「数はどれくらいなのかね?」

「そこまで多くはないから狙って狩るのは難しいかも……」

「うーむ……」

「夜はどうなんだ?」

「サンドドラゴンは寝てるね。でも、起きてる時もあるから気をつけて。夜は見通しが効かない分、危険だし」


 こっちはこっちで盛り上がってるし……


「あ、鳥」

「ドラゴンじゃない?」

「いやー、鳥ですよ」

「エレノア様、あれはグレードイーグルです」

「ほらー!」

「へー、ナナカさんもだけど、リディアちゃんって目が良いわね」


 1人増えた……


「コホン! エレノア君、説明会はどうしたのかね?」


 私は軌道修正することにした。


「アルクでいいかな……あの子の方が詳しいし」

「いや、いいのかね? 囲まれてるが…………」


 アルクとかいう子は各国の代表に囲まれて質問攻めにあってる。


「ひどい絵面ねー。小さい少女をおっさん連中が囲んでる……まあ、あの子は大丈夫」


 弟子に優しくない師匠だな。


 その後もアルクとかいう子が各国の代表の質問に答えていき、説明会の主役は魔女からその弟子に変わってしまった。


「おーい、エレノアー、君が説明するんじゃないのー?」


 各国の代表に囲まれているアルクが手を上げて、魔女に聞く。


「あの山に遺跡ってないのかしら?」

「この前の地下遺跡みたいなものですか?」

「そうそう」


 すごい……

 こいつら、ついにはアルクを無視し始めた……


「エレノア様、この辺りは雨が少なく、作物が育たないんです。だから人は住んだことはないと思います」


 あっ……

 このリディアって子もフロンティア人な気がする。


「へー……まあ、だから王様がくれたのか」

「人が住むなら川や森があるところです。それは私達もフィーレの皆様も一緒でしょう」


 フィーレ?

 私達の世界のことか?

 まあ、少なくともリディアという子がフロンティア人なのは確定……


「おーい! もう時間的にいいんじゃなーい?」


 アルクはめげずに魔女に声をかけた。


「王様に頼んで避暑地でももらおうかしら?」

「いいですねー」

「うーん……どっかの孤島とかならいい気がしますのでその辺は交渉すべきですね」


 こいつら、絶対にユニークスキル持ちだ。

 マイペースすぎる……


「おーい!」

「うるさい子ねー。局長さん、このあたりで終わりましょう」

「そうだな」


 このままでは収拾がつかなくなる。


「アルク、こっちに来なさい」


 魔女がそう言うと、魔女の横にアルクが現れた。


 え?

 急に現れたぞ!

 ユニークスキルか!?


「ハァ……疲れた」


 アルクが喉を抑える。


「後でジュースでも飲みなさい…………皆様方、説明会は以上となります。他に質問事項がある方はギルドへ問い合わせてください。お帰りはゲートをくぐれば、元のゲートに戻れます」


 魔女がそう言って、ゲートを指差すと、各国の代表達はぞろぞろとゲートをくぐっていった。


「思ったより、素直に帰ったわね?」


 魔女が首を傾げた。


「違反したヤツらが退場したからだろ。ここまで約束を守ってきたんだ。帰りに余計なことをして退場したら国に帰れん」


 桜井が首を傾げている魔女に説明する。


「なるほどね……サツキさん、局長さん、あなた達も先に帰ってちょうだい」

「ん。局長、行こう」


 桜井が私を促す。


「わかった」


 私は知りたくないことをいっぱい知ったなーと思いながら桜井と共にゲートをくぐった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る