第224話 厄災ではない魔女 ★


 説明会の日程が決まり、暇になった俺は主にアルクやカエデちゃんと出かけたり、家で適当に過ごしていた。

 たまにナナポンやヨシノさん、リディアちゃんもやってきたが、平和な3週間だったと思う。


 そして、3週間が経った金曜日。


 家にはカエデちゃんはもちろんのこと、ナナポン、アルク、リディアちゃん、そして、ヨシノさんが集まっていた。


「あなた達、準備はいい?」


 俺はエレノアさんの姿でチビ3人に確認する。


「いいですよー」

「僕もー」

「私も大丈夫です」


 チビ3人は何が楽しいのか、嬉しそうに答えた。

 なお、ナナポンはいつもの黒づくめのスーツにサングラスという変装だし、アルクとリディアちゃんもサングラスはかけていないが、ナナポンとお揃いの黒づくめのスーツだ。


「まあ、統一性があって良いとは思うが、君達、似合わないな……」


 カエデちゃんと一緒にテーブルに座っているヨシノさんが呆れた顔でチビ3人を見る。


「うーん、リディアちゃん、こっちにおいで。髪を結んであげるよ」


 カエデちゃんは立ち上がると、リディアちゃんに向かって、手招きをする。

 確かにエレノアさんと同じくらいの長さでウェーブがかかった金髪は結んだ方が良いだろう。


「では、お願いします」


 リディアちゃんはさっきまでカエデちゃんが座っていた椅子に座ると、カエデちゃんがリディアちゃんの長い髪を結び始めた。


「エレノア、ゲート前に飛べばいいんでしょ?」


 俺がリディアちゃんを見て、俺もカエデちゃんに結んでほしいなーと思っていると、アルクが聞いてくる。


「そうね。そこに飛んでサツキさんの部屋に行く。そして、局長さんとサツキさんを連れてゲートに戻るからそこからエメラルダス山脈に行くわ。王様の準備はオーケー?」

「大丈夫。約束の時間に指定のゲートをエメラルダス山脈に繋げてくれるってさ」


 よしよし。

 さすがは王様。

 いい人だ。

 アルクに渡せなかったエロ本で了承してくれるとはさすがである。


「よろしい。では、最後に確認よ。ナナカさん、あなたは透視でお客さんが暗器類を持っていないかの確認ね」

「はい」


 ナナポンは慣れたもんだから大丈夫だろう。


「アルク、あなたは私が指示した者を飛ばすこと」

「来たゲートに帰せばいいんでしょ? 任せておいて」


 便利な子だわ。


「リディアちゃん、あなたはスキルの確認ね。ユニークスキル保持者、もしくはこいつは危険だなっていうヤツがいたら教えてちょうだい」

「はい。私にお任せください」


 うんうん。

 素直な子だ。

 こうしているとかわいい子なんだけどねー。


「エレノア、気を付けろよ」


 俺が最終確認を終えると、ヨシノさんが忠告してくる。


「ええ、わかってるわ。一応、強化ポーションを飲んでいくし、マズくなったらアルクの転移で逃げる」


 どんなダメージを負おうと、とりあえず逃げれば、レベル3の回復ポーションがあるからなんとかなる。


「よし! できた!」


 どうやらカエデちゃんがリディアちゃんの髪を結び終えたらしい。


「カエデ様、ありがとうございます。エレノア様、お待たせしました」


 髪を後ろに結んだリディアちゃんが立ち上がった。


「では、行きましょうか…………カエデちゃん、ヨシノさん、留守番、よろしく」

「はい、先輩も気を付けてください」

「いってらっしゃい」


 カエデちゃんとヨシノさんが頷いた。


「よし、アルク、飛んでちょうだい」

「りょーかーい」


 すべての準備を終えた俺達はアルクの転移で池袋ギルドに向かった。




 ◆◇◆




 私は久しぶりの日本に来ると、まっすぐ池袋ギルドに向かった。

 そして、部下や護衛を外に待たせ、ギルド内で池袋支部長と会っていた。


「桜井、久しぶりだな。元気そうでなによりだ」


 私はソファーに座り、対面でだるそうに座っている桜井に声をかけた。


「ですねー。私が支部長に任命された時以来ですから2年前くらいですか?」

「そんなものだな。しかし、お前、いつから英語がしゃべれるようになったんだ?」

「今朝から」


 翻訳ポーションか……

 桜井が魔女と繋がっているのは確定だな。


「貴重な翻訳ポーションを簡単に使ってくれるな……」

「あいつにとっては貴重じゃないんでしょうよ。エレノアは翻訳ポーションを拳銃と交換しましたよ」


 物の価値がわからん魔女め。


「クレアだな。随分と荒稼ぎをしているみたいだ」


 魔女から仕入れたアイテムをアメリカや世界各地の富豪に売りつけている。


「上手く丸め込まれたようですね」

「何とかできんか? このまままではアメリカにすべてを奪われる」

「問題ないでしょう。アメリカもバカではないですからギルドにケンカを売るようなことはしません」

「だが、実際、アイテム袋や回復ポーションをギルドに通さずに売買している。別に違法ではないが、限度があるぞ」


 何百という回復ポーションを売買されると、さすがに苦しい。


「エレノアはギルドにも売る意思はありますよ。実際、売ってもらってますからね」

「レベル1だけだろ」

「ここはそれしか需要がないですから。一応、本部長を通してレベル2も仕入れているんでしょ?」

「まあな。あの男は実に優秀だ。元はウチの所属だけあって、日本の利を考えつつもギルドの利も考えている。某国の本部長と変わってほしいわ」


 あの強欲な国は最悪だ。


「お察しします」

「直接、取引はできんか?」

「レベル2を買い取ってくれるって言うなら私がエレノアから仕入れますよ」


 こいつも優秀なんだが、すぐ中抜きをしようとするな。

 まあ、それはどこの支部長も一緒なんだが……


「それでいい。このままではギルドのメンツが潰れる。忌々しい魔女め……!」


 あの規格外の魔女が現れてからギルドは混乱しっぱなしだ。


「まあ、その魔女で潤っているからいいじゃないですか」

「わかってる……だから何も言えんのだ。ゲートを閉じることができるという話もある。手出しなどできんよ」


 放っておけば、メリットをくれ、何かをしようとすると、極大なデメリットが待っている。

 どうしようない。


「このオークションを最後に当分は大人しくしてくれるでしょう。本人は黄金がいっぱいで喜んでますよ」


 お前もだろ。


「だと良いがな……それで? 魔女はまだか?」

「そろそろ5分前ですから来るでしょう。遅れてくることはないはずです」


 フロンティア人は時間にうるさいからな……


 私がそう思っていると、部屋にノックの音が響いた。


 来たか……


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