第225話 どっかで見た気がする弟子 ★


 ガチャという音と共に長い金髪の女が入ってきた。

 何度も写真で見た黄金の魔女、エレノア・オーシャンである。

 魔女が部屋に入ってくると、その後ろからぞろぞろと黒のスーツを身にまとった金髪の少女達も入ってきた。


「あら? もう来てたの?」


 魔女は頬に手を当てながら桜井に聞いた。


「ああ、30分前から来てたな。エレノア、こちらがこの前説明したWGOの事務局長を務めているマイケル・スミス局長だ」


 桜井が私を紹介してくれる。


「ええ、知ってるわ。あれから調べたもの…………はじめまして、局長さん。私がエレノア・オーシャンよ」


 魔女は名乗ると、私に向かって手を伸ばしてくる。


「ああ、私がスミスだ。会えて光栄だよ」


 私は正直、この魔女と握手はしたくなかったが、我慢して握手した。

 魔女の手は柔らかく、暖かかった。

 当たり前だが、人間と一緒だ。


「私の弟子は紹介しなくてもいいわね。弟子1号、2号、3号。基本、無視してちょうだい」


 無視しろと言われても少女にしか見えない弟子とやらが真っ黒のスーツを着ているのは非常に気になる。


 まあ、1人は知っているんだがな。

 あのサングラスをかけた少女はこの池袋ギルドに所属している冒険者の横川ナナカだろう。

 日本の自衛隊のユニークスキルを見破ったという情報が私にも入ってきている。

 あと、若干、経歴に怪しい点が見られる。

 とはいえ、魔女の弟子の時点で怪しさは十分だ。


「まあ、わかった。今回の説明会に参加する国々にも君の弟子が参加することは通達しているので特にトラブルはないと思う」

「それはよかった。私の弟子に手を出そうとした者は問答無用でオークションには不参加だから」


 だったら連れてくるなよって言いたい。


「では、そろそろ時間だし、エメラルダス山脈に連れていってもらいたい」

「そうね。参加者より先に行ってないと…………サツキさん、準備はいい?」


 魔女が桜井を見る。


「いつでもいいぞ」

「あなた、武器は?」

「アイテム袋に入ってる。ついでにステータスカードも持ってきた」


 桜井はそう言うと、腰につけている自分のウエストポーチを叩いた。


「いらないでしょうに」

「気分だよ、気分。現役の時を思い出すだろ」

「そんなどうでもいいことに浸らないで局長さんを守りなさいよ」


 うむ。

 実に良いことを言う魔女だ。

 少し見直したぞ。


「はいはい。じゃあ、ゲートに行くぞー」


 桜井はそう言うと、さっさと部屋を出ていった。


「素晴らしい護衛ね。早速、護衛対象を悪い魔女のいる部屋に置いていったわ」


 本当にひどい。

 渋谷支部長にすればよかった。


「ハァ……」

「まあいいわ。あの人はそういう人だもの。私達も行きましょう」


 魔女がそう言って促してきたため、私達も部屋に出て、ゲートに向かうことにした。

 ゲートに着くと、桜井がゲート前に待っていたため、私達もゲート前まで歩く。


「このゲートは何なのかね?」


 私はゲートを見上げながら長年思っていた疑問を聞いてみる。


「そんなもんはこれを作った人に聞いてよ。私は知らない」

「作ったのは君ではないのかね?」


 私がそう言うと、魔女が笑った。


「ゲートが現れたのは30年前。私がそれ以上の年齢だと? 年齢はデリゲートなことだから聞いてはダメよ」


 そんなことを言われても、この魔女の年齢を知らない。

 若く見えるが、得体の知れない魔女のことだから見た目と年齢が違う可能性だってある。

 正直、100歳、200歳と言われても驚かない。


「そうか……まあいい」


 女の年齢がデリケートなのはどこの国もどこの世界も一緒なのだろう。


「ところで、局長さんはステータスカードをお持ち?」

「視察でフロンティアに行ったことがあるから持ってはいる。ただ、今日は持ってきてない」

「へー……リディアちゃん」


 魔女が3人いる弟子の内の1人である長い金髪の子を見た。

 どうやらあの子はリディアという名前らしい。


「話術、演技、格闘術です。全部、レベル1ですね」


 リディアと呼ばれた少女が私のスキルを言い当てた。


「……何故、わかる?」


 この少女は何者だ!?

 ユニークスキル持ちか!?

 いや、落ち着け!

 落ち着け、私!


「魔女の弟子だからね……それにしてもユニークスキルはなし……か。まともな人なのね」


 ユニークスキルを持てる人間が特殊な性格である傾向なのはわかっている。

 やはりそうなのか……


「その少女はユニークスキル持ちか?」

「そんなことどうでもいいじゃないの。そんなことより、格闘術なんてあるのね」


 格闘術の方がどうでもいいと思うのは私だけか?

 この魔女、やはりどこかズレている。


「若い頃にボクシングをやっていた。そのせいだろう」


 これは本当。

 子供の頃にボクシングの試合を見て、目指したのだ。

 才能がなかったから辞めたが、フロンティアに行き、自分のステータスカードを見て、スキルに格闘術があったことは嬉しかった。


「ふーん、スキルが3つもねー……」

「エレノア、そういうところだぞ」


 魔女が何かを考え込むと、桜井が諌めた。


「何かマズかったかね?」


 格闘術があったらマズいか?

 たいしたものではないし、何より、私はもうすぐで60歳になるんだぞ。

 自分で言うのもなんだが、危険なんかない。


「いいえ、問題ないわ……行きましょう。ゲートをくぐれば、そこがエメラルダス山脈だから」


 私をじーっと見ていた魔女は興味をなくしたようにゲートを見ると、そのまま歩いていった。

 すると、弟子3人もエレノアに続いたので私と桜井もゲートに向かう。


「サツキさんがいるから危険はないと思うけど、勝手にどっかに行かないでね」

「わかっている」


 そんな危ないことをせんわ。


「よろしい」


 魔女は頷くと、ゲートをくぐっていった。


 私は魔女や魔女の弟子達がゲートに消えると、何年ぶりだろうかと思いながらゲートをくぐった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る