第220話 黄金の山
朝食を食べ終えた俺はアルクに客室まで送ってもらったので風呂に入ることにした。
そして、風呂から上がり、部屋に戻って着替え終えると、ノックの音が聞こえてくる。
「誰ー?」
アルクか?
「私だ」
「あ、私もいます!」
この声はヨシノさんとカエデちゃんだ。
「どうぞー」
俺が入室の許可を出すと、ヨシノさんとカエデちゃんが部屋に入ってきた。
「準備はできたかい?」
部屋に入ってきたヨシノさんが聞いてくる。
「まあね。アルクは?」
「金の延べ棒の準備をするからちょっと待って、だってさ。準備ができたら呼びに来るって」
いよいよ黄金の山とのご対面か。
「量が量だろうしね。あ、2人共、座って」
俺はカエデちゃんとヨシノさんをテーブルに勧める。
「金の延べ棒をもらったら帰るんです?」
テーブルにつくと、カエデちゃんが聞いてくる。
「年末だし、もらってさっさと山分けした方がいいでしょ。ここも来ようと思えばいつでも来れるわけだし」
「確かにそうですね。でも、ここってそんなに簡単に来れるんです?」
「アルクに連れていってもらえばいいしね。アルクが断ってもリディアちゃん経由で頼むわ」
アルクはリディアちゃんに逆らえまい。
「リディアちゃん? 連絡は?」
「通信用の鏡をもらったからいつでも連絡が取れる」
王様にもらったやつと同じものだ。
「いつの間に…………というか、知り合いのようでしたけど、会ったんです?」
「昨日の夜に会った。アルクのバカがあのげろマズグミをリディアちゃんにあげたんだと。そのフォローをした」
「あれを? それはまあ、怒るでしょうね。だからさっきの朝食であんなんだったのか…………」
まあ、そこまで怒っているわけではなさそうだったけどね。
「エレノア、金の延べ棒を受け取ったら君達の家に転移でいいか? サツキ姉さんとナナポンを呼んで山分けしよう。私は明後日には実家に帰るし、部屋の片付けとかをしたい」
ヨシノさんも年末年始は実家に帰るようだ。
「いいわよ。あなたの実家って? 都内?」
「いや、千葉だ。サツキ姉さんもだな。あの人が帰るかは知らないけど」
関東か。
そこまで遠くない。
「アルクはどうすんの?」
「実家に連れていくわけには行かないし、家に置いていく。君は帰らないんだろう? 多分、アルクが入り浸ると思う」
要は今まで通りなわけね。
寝る時だけヨシノさんの家に転移するわけだ。
「わかったわ。カエデちゃんもいい?」
「ええ。構いません」
カエデちゃんも問題ないようだ。
「じゃあ、アルクはこっちで面倒を見るわ。どうせ暇だし、ゲームでもしてる」
「悪いね」
「いいわよ。オークションはどうなってる感じ?」
「今はまだ協議中だろう。本部長の話では年明けには結論を出したいらしい」
こっちもいよいよか。
頑張るぞー。
「わかった。よろしくね」
「ああ」
――コンコン。
俺達が今後のことを話していると、部屋にノックの音が響いた。
「はーい?」
「僕だよー。入ってもいい?」
アルクだ。
どうやら準備ができたらしい。
「どうぞ」
俺がそう言うと、アルクが扉を開けて入ってきた。
「お待たせ。待たせて悪いね」
アルクが謝りながら近づいてくる。
「別にいいわよ。リディアちゃんは?」
「帰ったよ」
さすがに帰ったか。
「金の延べ棒をもらったら帰るけど、それでいい?」
「ん? 帰るの? 早いね」
「年末だからね」
「あー、そういえば、ヨシノがそんなことを言ってたね。了解。じゃあ、行こうか」
アルクがそう言ったので俺達は立ち上がった。
「よろしく」
「うん。行くよー」
アルクがそう言って手をかざすと、視界が白く染まった。
◆◇◆
俺達はアルクの転移により、とある部屋に転移した。
そこはかなり広い部屋…………というより、倉庫のようだった。
だが、そんなことはどうでもいい。
何故なら俺達の目の前には光り輝く黄金の山があるからだ。
その輝く山はまるでピラミッドのような三角形になっている。
「こんなものでいいかね?」
高く積まれた金の延べ棒を見上げていると、声がしたので正面を向く。
「あ、いたんだ」
よく見たらミーアもいる。
「お前らの呆けた顔が面白かったわ」
だってねー。
こんな金の山を見たのは初めてだもん。
ヨシノさんに至ってはいまだに呆けている。
「すごいわねー」
俺は再び、金の山を見上げる。
「積むのに苦労したわ」
でしょうね。
驚かせるためにやったのだろうが、効果は抜群だ。
「ねえ、ぶっちゃけて聞いていい?」
「いいぞ」
「フロンティアって金の価値が低いの?」
「鉄と変わらん。大量に取れるんだが、使い道があまりない」
この人達からしたら鉄でポーションを買うようなものか……
ということは黄金の魔女は鉄の魔女なわけだ。
だっさ……
「いい世界ね」
「アルクに聞いたが、フィーレは金が採れないらしいな?」
「ええ……だから高値なの」
「エメラルダス山脈を金で取引すると聞いた時は正気を疑ったが、そういうことならばありえる話だ」
世界が違えば需要が異なるんだなー。
まあ、だから俺とこの人達は取引をしているんだけど。
「私以外の国と金を取り引きするのはやめてね」
大量に流通されると、俺の資産の価値が落ちてしまう。
「安心しろ。少なくとも私が在位中はそんな取引はせん」
アルクも大丈夫だろう。
俺が止めるし。
「これ、どれだけあるの?」
「10キロの金の延べ棒が1800本だ」
1万8000キロ……
意味がわからない。
「オークションなんてどうでもよくなってきたわ」
どう考えても俺がどんなに散財しようが、破産はない。
「今後の取引をやめるかね?」
「やめないけど、ちょっと考えるわ。金じゃない不思議アイテムとかの方がいい。ほら、例の鏡みたいな」
「まあ、考えておこう。どちらにせよ、次の取引は当分先だ」
かなりの量のポーションを渡したからな。
「ヨシノさん、あなたの取り分は180本よ」
俺はいまだに停止しているヨシノさんに言う。
「そうか……引っ越そうかな……」
「散財はやめなさい。ナナカさんはそれで拉致されたのよ」
「そうだな……そうだったな。私が君に一服盛られたのも金に目が眩んだからだった」
金の魔法は怖いからね。
みーんな、正常じゃなくなる。
「しかし、これ、どうやって持って帰ろう……」
アイテム袋はあるが、金の山の上まで登って1本ずつ収納していくか?
危ないし、面倒だな。
「アルクに運ばせればいいだろう。どうせ、まだそちらに滞在するんだろ?」
俺が悩んでいると、王様が提案してきた。
「それもそうね。アルク、おねがい」
「うん、いいよー」
「あ、ちょっと待って」
俺はアルクが手をかざしたところで止めた。
「どうしたの?」
アルクが急に止めてきた俺を不審がり聞いてくる。
「王様、写真を撮ってもいい? この量を出せる場所がないし、記念に1枚欲しい」
「まあ、そのくらいならいいぞ」
王様は苦笑しながら了承してくれた。
「アルク、撮りなさい」
俺はアルクにスマホを渡すと、金の山の前に立つ。
「あ、私も」
「じゃあ、私も」
俺が金の山の前でピースをすると、カエデちゃんとヨシノさんも嬉しそうにやってきた。
「「いえーい!」」
カエデちゃんとヨシノさんはテンションマックスでピースをする。
「何がそんなに楽しいんだか……撮るよー」
アルクも王様と同様に苦笑し、スマホで写真を撮った。
「見せて、見せて」
俺達はアルクに群がり、写真を確認しだす。
「おー、写真でも色褪せない黄金ですー」
「戻ったらナナポンに送ってやろ」
「あ、私もサツキ姉さんに送ろ」
一生の自慢になるな。
「もう収納してもいい?」
俺達がキャッキャしながら写真を見ていると、アルクが聞いてくる。
「いいわよー」
俺がそう言うと、一瞬にして黄金の山が消えた。
「お前らはもう帰るんだったな?」
王様が聞いてくる。
「ええ、そうね。もうちょっといたい気持ちもあるけど、年末だしね」
「わかった。いつでも来るといい。また、リディアを貸し出す件も了承している」
ん?
「リディアちゃんに聞いたの?」
「ああ、色々と聞いた……」
王様がこめかみを押さえる。
どうやら俺と同じ事を聞いたっぽい。
「頑張って!」
「ああ……まあ、有能な子であることは間違いないからな」
俺もそれは同意。
ちょっと歪んでいるだけだ。
「何の話?」
何も知らないアルクが聞いてくる。
「手伝ってもらうっていう話よ。あんたは気にしなくてもいい。それよりも帰るわよ。さっさとナナカさんに見せびらかせないと」
「ナナカ、行きたがってたから悔しがるだろうね」
だろうね。
でも、透視を持っているのが悪い。
「そういうわけだから王様、ミーア、私達はここで失礼するわ」
「ああ、またな。アルク、ビールと例の辛いお菓子を忘れるなよ」
やっぱりハマっとる……
「アルク様、私もクッキーを」
メイドはメイドで便乗しとる……
「わかってるよ。じゃあ、行ってくる」
俺達は過去最高の取引を終えると、地球に帰ることにした。
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