第221話 山分け


 アルクの転移魔法で家のリビングに戻ると、早速、ナナポンに写真付きでメッセージを送った。

 すると、すぐに既読がつき、返信がくる。


『私もその映える写真を撮りたかったです(泣)…………すぐにそちらに行きます』


 うーん、ちょっとかわいそう。

 このところ置いてけぼりばっかりだったしなー。


「ナナポンは何て?」


 俺と同じようにスマホを弄っているヨシノさんが聞いてくる。


「すぐに来るって。そっちは?」

「サツキ姉さんもすぐに来るって」


 まあ、あの人はそうだろう。


「アルク、こっちに来なさい。アイテム袋に移すから1本ずつ出してちょうだい」


 俺はアルクにそう言うと、ソファーに向かう。


「めんどいねー」

「仕方がないでしょ」


 俺だってめんどいわ。


「あ、お茶淹れますね。コーヒーでいいですか?」


 カエデちゃんが聞いてくる。


「おねがい」

「私もコーヒーでいい」

「ココア!」


 アルクはココアが好きだなー。


「はーい。ちょっと待ってくださいね」


 カエデちゃんはそう言って、キッチンに向かったので俺はアルクと共に金の延べ棒を空のアイテム袋4つに分けていく。

 そうこうしているうちにカエデちゃんがコーヒーを持ってきてくれたのでコーヒーを飲みながアルクと黙々と仕分けをしていった。


 そして、俺達が仕分けを終えると同時にナナポンとサツキさんがやってきた。


「写真見たぞー。すごい量だな」


 サツキさんが上機嫌に笑う。


「1800本だって」

「もはや意味がわからんな。この前の地下遺跡は何だったんだって感じだ」

「あっちでは金の価値が鉄と一緒なんだって。だから地下遺跡に放置されてたんじゃない?」


 俺があそこの主人でも避難時に重い鉄なんか持っていかない。


「そうかもなー。アルク、どうなんだ?」


 サツキさんがアルクに尋ねる。


「昔は金貨が貨幣だったんだよ。多分、その時のだね。でも、詳しくは言えないけど、とある場所で大量の金が採れる金山が見つかったんだ。それで金の価値が暴落した。今は金なんか誰も欲しがらない」


 そういう歴史があるんだな。


「他の遺跡にもあるのか?」

「さあ? フィーレ人に譲っている遺跡は価値のない古い遺跡ばかりだからね。わかんないよ」

「うーむ……まあ、日本が借りているエリアはクーナー遺跡しかないから別にいいか」


 外国が借りているエリアは行けないからなー。


「エレノアさーん、黄金はー? 私の金のベッドは? クレオパトラごっこをしたいんですけど」


 ナナポンがそう言いながら俺の袖をグイグイと引っ張ってきた。


「クレオパトラってそんなだったっけ?」

「知りません」


 まあいいか。


「じゃあ、はい。これがナナカさんの分」


 俺はナナポンにカバンを渡す。


「おー! …………カバンだと味気がないですね」


 ナナポンは一瞬喜んだが、すぐに微妙な顔で首を傾げた。


「180本もあるのよ? 1800キロも持てないでしょ」

「すごい量…………あと、さり気にこのアイテム袋もやばい」


 2000キロも入るやつだからね。


「売っちゃダメよ。じゃあ、これがヨシノさんの分」


 俺は今度はヨシノさんにカバンを渡す。


「ありがとう。私も家に飾るかなー?」


 ヨシノさんがチラッとリビングの端に置かれている金の延べ棒タワーを見た。


「お酒が美味しくなるわよ」


 自然と頬が緩むしね。


「飲めないってば」

「リンゴジュースでも飲みなさいよ。じゃあ、これがサツキさんの分ね。5パーセントだから90本だけど」

「私は何もしてないが?」

「それを言うならこいつらも何もしてないわよ。取り分は保証するって言ったでしょ。あげる」


 俺はそう言って、サツキさんにカバンを渡す。


「悪いな。お前って良いヤツだったんだな」


 今までどう思ってんだよ。


「…………まあいいわ。とにかく、これでフロンティアとの取引は終了。年内に終わって良かったわ」

「そうだな。オークションは来年か…………」

「ギルドはどんな感じ?」

「年明けだな。説明会とやらの開催をすることは了承で固まった」


 思ったより早く決まったな。

 プレジデントの圧力に屈したか?


「じゃあ、ギルドに伝えておいて。説明会に行けるのは同行者を含めて2名だけ。あと、ユニークスキル持ちはダメ。もし、連れてきた国はオークションに参加できないようにする」

「ユニークスキル持ちをNGにするのはわかるが、どうする気だ? ステータスカードを提出でもさせるか?」

「それは無理ね。どうせ偽造か別人のやつを用意するだけよ。便利な子に手伝ってもらうから大丈夫」


 リディアちゃんに見てもらえばいい。


「武器の所持はどうする? 認めるか? 正直、暗殺もありえるぞ」

「武器の所持をNGにしたいけど、モンスターが出るからね。武器は事前に申請したものだけにしてちょうだい。これを破った者もオークションに参加できない」

「これはナナポンに見てもらうわけだな?」


 どれだけ上手く隠し持とうが、ナナポンの透視の前では無意味だ。


「そうね。ナナカさん、頼むわよ。アイテム袋の中まで見えるあなたが頼りなんだから」


 俺はいつの間にか人の家のリビングで金の延べ棒を取り出して山を作っているナナポンを見る。


「え? あ、はい。任せといてください。私に見えないものはありません!」


 アルク曰く、透視は支配者の目と呼ばれているらしい。

 非常にかっこいいし、ナナポンのセリフもかっこいいのだが、ウサギを背負った子が言ってもかわいいだけだ。


「ナナポンで暗器類は大丈夫だろう。フロンティアでは重火器もない。とはいえ、実力者が来ると思うが、大丈夫か? いくらお前でもわからんぞ?」


 サツキさんが心配している。

 多分、心配しているのはお金だろうけど。


「わかってる。不審者は問答無用でアルクの転移魔法でバシ〇ーラよ」


 俺の弟子を総動員だな。

 ガキばっかりだけど。


「不審な行動をしないように徹底させるか…………」

「それでいいんじゃない? その辺の通達なんかはギルドに任せるわ」

「わかった。伝えておく。お前は年末年始はここにいるんだったな?」


 カエデちゃんから聞いたのかな?


「そうね。アルクと暇をつぶしているわ。サツキさんは実家だっけ?」

「ああ、ヨシノに送っていってもらう予定だ」


 ということは明後日か。


「初耳だけどね…………」


 ヨシノさんがボソッとつぶやいた。


「別にいいだろ?」

「いや、まあいいけど……車、買いなよ。金の延べ棒一本でおつりがくるよ?」

「運転が好きじゃない」


 俺も運転するのが怖い。

 あと、カエデちゃんが嫌がる。


「ナナポンは?」

「私はそもそも免許を持っていません。皆が…………親に止められました」


 わからんでもない。

 俺もナナポンが車の免許を取りたいって言ったら止める。

 ものすごく心配になるし。


「一応、聞くけど、カエデは?」

「私も運転が怖いですね。免許は持ってますけど、自動車学校を卒業してからは実際に走ったことないですし」


 俺も俺も。


「僕は運転したいなー。あれ、速いし、快適だよね」


 まさかのアルクが手を上げた…………


 一番、ねーよ!

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