第218話 上級者
アルクは即行でバレてたっぽい。
師匠が師匠なら弟子も弟子だったらしい。
「アルクが男になっているというのはどういう意味?」
俺は一応、抗ってみることにした。
「アルクは女の子です。男性ではありませんでした」
はい。
もう無理だわ。
「ふーん、まあ、座って話しましょうか。私を敬う必要はないし、立って話すことではないでしょう」
「…………はい。どうぞ、こちらへ」
リディアちゃんは立ち上がると、俺をテーブルに勧めてくる。
俺は勧められるがまま、テーブルに座ると、リディアちゃんも対面に座った。
「あなたは気付いていたようだから正直に言うけど、アルクは確かに男の子になりました。どうしてわかったの?」
「子供の頃からずっと見てましたから…………アルクが女の子なのも最初からわかっていましたし、先ほど会ってすぐに気付きました」
うーん、愛の力か?
「最初からわかってたの? アルクから聞いたけど、結婚の約束とかしたんでしょ?」
「子供の頃の話ですよ。子供の時なんかは深く考えずにするものでしょう?」
俺はなかったが、そういうのがあることは知っている。
幼なじみだったり、パパと結婚するーってやつだ。
「でも、本当に結婚することになったわね」
「ですね…………あのー、魔女様。魔女様はこの世界についてどこまでご存じなのでしょう?」
「大抵は聞いた。滅びそうなんでしょ?」
「いえ…………滅びはしませんけど、衰退はしていますね」
まあ、そこまではないか。
「ふーん、リディアちゃん、私を魔女様と呼ぶのはやめなさい」
「申し訳ありません。では、エレノア様とお呼びします」
まあ、呼び捨てでもいいが、この子は礼儀正しそうだから別にいいか。
アルクに対しては呼び捨てっぽいけど、幼なじみの特権だろう。
「それで? 結婚はどうする気だったの? アルクの兄弟姉妹が亡くなり、アルクが次期王様になったわ」
「はい…………私的にはどうとでもなるかと思っておりました」
ん?
「どうとでもなる? 王様とアルクは頭を抱えていたわよ」
あの親子はほんま……
「問題なのは私とアルクに子ができないことです。王族の血筋を絶やすわけにはいきませんから」
転移魔法があるからな。
「じゃあ、無理じゃないの」
「私が陛下の子を産めばいいだけです。その子をアルクの子とすればいい」
…………こいつ、こえーな。
「あなた、いくつ?」
「アルクと同い年ですから13歳になります」
13歳の発想じゃないだろ。
「あなたはそれでいいの?」
「どこぞの馬の骨と一緒になるよりかはアルクと人生を歩む方がいいです」
ヤンデレ入ってない?
よく見ると目のハイライトがない……
怖い……
「あなた、ユニークスキルを持っているでしょ」
「はい。天から授かりました」
やっぱりね……
そうだと思ったよ。
「そうならなくて良かったわね」
「はい。エレノア様に感謝しております」
リディアちゃんは頭を下げた。
「いえいえ、たいしたことはしてないわよ」
「そんな…………貴重な性転換ポーションを使っていただいたのに」
えー……
「性転換ポーション?」
「はい。エレノア様は錬金術師様でしょう?」
えー……
「違うわ」
「あー……剣士でしたね」
こいつ、俺のステータスをわかってやがる。
「それがあなたのユニークスキル?」
「はい。私の鑑定眼は人の情報を見ることができます」
ユニークスキルってロクなのがないな。
ヨシノさんの完全記憶が一番マシだろう。
…………本人はアレだけど。
「すごいわねー」
というか、アルクはリディアちゃんがそんなスキルを持っていることを事前に言っとけよ!
王族がステータスカードを管理してるんだろ!
「自分でもすごいとは思います。ただ、このスキルはアルクや陛下には言っておりません」
「言ってない? 王族はステータスカードを管理してるからわかってるでしょ」
「はい。ですが、完全に把握するのは無理なんですよ。だって、私のステータスカードに書かれている鑑定眼には人の情報を見ることができるとしか書かれていないのですから」
情報って広いもんなー。
性別や年齢、名前だって情報だ。
「そんなもんなの?」
「このスキルをかつて持っていた者が自己申告していれば、記録に残っているでしょう。実際、詳細にわかっているユニークスキルもあります。ですが、鑑定眼は残っていません。誰も申告しなかったのでしょうね」
素直な人間ばかりではないか…………
まあ、俺らもユニークスキルの存在を黙ってるしな。
「王族の鑑定眼の認識は?」
「人の名前とレベル、あとはジョブがわかるだけですね」
ステータスカードに書かれているやつか……
なるほど…………性別はないわけね。
「言わないの?」
「アルクが自分のことを打ち明けたら言うつもりでした。私のこの目は武器であり、防具なんですよ。この目は名前や年齢などの基本的なことからスキルまでわかりますから。私はこの目を売り込み、陛下の子を生み、アルクと一緒になるつもりだったんです」
「たくましいわね」
「商家の娘ですから」
他の商家の名誉を守るために言うが、お前が変なだけだ。
「なるほど。それで私の錬金術が見えるわけね……」
「はい。ついでに言うと、剣術も見えます。6ってすごいですね。初めて見ましたよ」
だろう! だろう!
「ふっ……でも、性転換ポーションを知ってるっていうことは私が作れるレシピも見えるわけ?」
「あ、そこまでは見えていません」
「じゃあ、なんでわかったのよ?」
「私の家は商売をやっています。かつて、伝説の錬金術師様とも取引をしていましたので錬金術師が性転換ポーションを作れることを知っているのです」
あー、あの世界を滅ぼしたアホね。
「ふーん、売ったの?」
「いえ、売りませんでした。取引をしていたのは私の祖父ですが、錬金術師様と話し合いをし、売るのはやめたんです」
「なんで? 売れないから?」
皆、性別を変えるのを嫌がるし、売れないのかな?
「いえ、売れます。ですが、悪用されるのが目に見えてました」
「悪用?」
美人局?
覗き?
「はい。いくつかあります。まずですが、エレノア様もご存じでしょうが、性別を変えるとステータスカードが新たに出ます。これはちょっとマズいです」
あー、そういやそうだ。
「そうね。私も2枚持ってる」
「もう一つは人身売買ですね。その辺の孤児を女の子にして売ればいい。しかも、別人になるので足もつかない」
ひえー……
恐ろしい。
「怖いわね」
「他にも活用方法はいっぱいあります。そういったことを踏まえて売るのはやめたんです」
リディアちゃんのおじいちゃんも例の錬金術師も良心的だったんだな。
「あなたはそれを知っているのね」
「父から教えてもらいました。他にも王族が知らないことを知っています。この情報も武器であり商品なのです。私は自分を高く売る」
アルク…………
お前がこの子の上に立つのは無理だ。
器が違う。
一生、尻に敷かれな。
「ご立派なことで…………まあ、頑張りなさい。アルクは少し心配だし、あなたが支えることね」
「そうします。そして、アルクの子を産める幸せを頂いたことに感謝を…………」
リディアちゃんは俺に向かって祈る。
「ふーん、話ってお礼を言いたいってこと?」
まあ、確かにアルクには聞かせられんな。
「はい。それとお願いがあります」
「なーに?」
「性転換ポーションを売ってください」
えー……
「なんで? 何に使うの? 言っておくけど、アルクには永久的にあげる約束をしてるわよ」
「いえ、アルクのことではないです」
「じゃあ、何よ?」
「夫婦のことに首を突っ込まない方が良いですよ」
……………………この子、怖い。
「聞かなかったことにするわ」
頑張れ、アルク。
悪いが、師匠にはこの子のレベルが高すぎて相談には乗ってやれん。
「はい。いくらで売ってくれます?」
「うーん、お金はいいわ。あなたの旦那や義父にもらってるしね。それよりもちょっとお手伝いをしてくれない?」
「お手伝い、ですか?」
リディアちゃんがかわいらしく首を傾げる。
でも、俺にはもうこの子がかわいいとは思えない。
「ええ。ちょっと大事な案件を抱えていてね。あなたの目を借りたいの」
「鑑定眼ですか? まあ、そのくらいならお安い御用ですけど」
「簡単なお仕事だから」
「わかりました。お任せください、師匠!」
やめて。
マジでやめて。
君は俺の遥か高みにいるんだよ。
教えられることは何一つない。
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