第213話 教師になればよかったかな?
どうやらエレノアさんは信用がゼロらしい。
「では、こうしましょう。実を言うと、オークション開催に伴って説明会を開くつもりだったんだけど、そこにギルド関係者も参加させるわ」
「ん? 説明会とは?」
本部長さんが聞いてくる。
「エメラルダス山脈がどういうところかわからないでしょ。だから事前に案内しようかと思ってる」
「は? 案内?」
「そうよ。実際に見てもらった方がいいし、そのうえで詳細なことを説明するわ」
「ちょっと待て! そんなことができるのか!?」
本部長さんが立ち上がって怒鳴ってきた。
「これが噂のパワハラかー。ヨシノさん、かわいそう」
ブラックはんたーい。
「これはパワハラでは…………いや、申し訳ない。悪い癖だ」
本部長さんはトーンダウンし、着席する。
「ヨシノさんに訴えられるわよ。損害賠償とかされるかもしれないし、落ち着きなさい」
守銭奴だし。
「そうだな。まったく冗談に聞こえんし、そうする」
あの人は完全記憶を持っているから詳細に覚えているぞ。
「そうしなさい。話を戻すと、エメラルダス山脈って言われてもよくわからないでしょ。だから実際に行ってもらって、各国が欲しいのか欲しくないのかを確認してほしいわけ。後から文句を言われたくないし」
「それはわかったが、どうやって行くんだ?」
「そりゃ、ゲートをくぐってもらうの。指定したゲート、時間にだけエメラルダス山脈を繋げるから各国の代表を呼んでちょうだい」
頼むぞ、アルク!
…………めんどくさそうな顔をするな。
「そんなことができるのか!?」
「あら? 私はゲートを閉じられるのよ? 逆もしかり」
嘘だけど。
「いや、しかし…………ど、どうやって?」
「それは秘密。言うわけないし、言っても伝わらないわ」
「うーむ……しかし、希望者を募ると、大人数にならんか?」
確かにそうだ。
「各国2人ずつね。代表さんと護衛。一応、モンスターも出るし」
説明時間は1時間だな。
めんどいし。
「うーむ、2名か……各国が納得するかな?」
「納得しなければ参加しなければいいんじゃない? 後で資料でも作成して配布してよ」
「うーむ…………先行してギルドの者を連れていけんか?」
「別にいいけど、勝手にモンスターに殺されてね。言っておくけど、冒険者を連れてくのはダメよ。フェアじゃないし」
あいつらはすぐに情報を漏らすし。
「わかった。そのことをギルドに伝えよう」
「よろしく。それとこれだけは決定事項なんだけど、オークションは各国の貨幣ではなく、金で行います」
「金? 量で決めるってことか?」
「そうね。公平にしようと思って。私、黄金が好きだし」
黄金の魔女だもん。
「うーん、まあ、これまで通りの円だと揉めそうだし、それがいいかもしれんな……」
そうそう。
「そういうわけでよろしく」
「わかった。そういう風に伝えておこう。桜井、君もいいか?」
本部長さんが興味なさそうに聞いているサツキさんに確認をする。
「私は何でもいい」
やる気ないな、この人。
多分、俺が取り分を保証したからだろう。
「では、これで進めよう。ギルドで協議したのちに決定事項を伝えてもらう」
「早くしてね。あまり時間がかかるようだとアメリカに頼むから」
「…………それも伝えておこう。では、私はこれで失礼する」
本部長さんはそう言うと、立ち上がり、部屋を退室していった。
「あー、めんどくさ。どう考えても私、いらねーだろ。どいつもこいつも丸投げしやがって」
サツキさんはそう言って、ソファーに寝ころび始めた。
「あなた、ギルマスでしょうが」
「そうだ。だから私にお鉢が回ってきた。でも、信用できないから本部長をつけます…………いや、アホか」
まあ、俺もそう思わんでもない。
「それにしてもやけにあっさりと終わったね。もっと揉めるかと思ってた」
アルクが首を傾げた。
「ああ、それな。本部長はエレノアがアメリカと取引したことを知っているんだよ。昨日、アメリカと日本の間で秘密裏に条約が締結されたからな」
「動きが早いねー」
「時間との勝負だからな。他の国もそういう動きがチラホラと見えるようだ」
へー。
皆、賢いなー。
「問題はエレノアに接触できているのが日本とアメリカだけってことか…………」
アルクが考え込む。
「そういうこと。この池袋を歩くと面白いぞ。見たことのない外国人がいっぱいいる」
えー……
「マジ?」
「マジ。世界はお前を人外のバケモノ認定してる。これまではただの商売人だったが、今は本物の魔女だ。リスクがあっても欲しい存在だ」
モテモテで嫌だなー。
「私を敵に回す気?」
「失敗したらどっかの国に責任を擦り付けるだけだろ。そういう算段」
汚いなー。
「アメリカの敵国?」
「それが中心だろう。アメリカはいち早くお前と友好の道を選び、成功した。遅れた国は取り戻そうと必死」
友好?
拉致されて銃を突き付けられましたけど?
「サツキさん、あなたは大丈夫なの?」
どっかのチビみたいに攫われない?
「私を誰だと思ってんだ? そんなもんは返り討ちだ。というか、ギルドの支部長に何かをしようとするバカはいない」
「ギルドって、なんでそんなに力があるの?」
「そら、フロンティアからゲートの管理、維持を任せられているからな。ギルドを敵に回すっていうのはリスクが大きいんだよ」
へー…………
そういえば、最初の講習で習った気がする。
「なるほどねー。これは益々、外を歩けないわね」
「そうした方がいい。お前の友達2人とのドンパチが始まるぞ」
クレアとハリーか。
池袋でハリウッド映画みたいなことが起きるのかね?
「アルク、頼むわよ」
こいつの転移魔法が頼りだ。
「それはいいけど、説明会とやらに気を付けなよ。護衛という名の暗殺者がいるかもしれないし」
「フロンティアでは重火器が使えないのよ? 冒険者はNGにするし、暗殺者なんて返り討ちよ。私を誰だと思ってんの?」
剣術レベル6だぞ!
「サツキと同じことを言ってる…………フィーレ人はなんでこんなに好戦的なんだろう?」
「その辺も含めて見極めなさい。そういうことで悪いけど、説明会の時にちょっと手伝ってね」
「まあ、それはいいよ。君のオークションが気になるし、各国の人がどんな感じかを見てみたい」
おー!
ついに王への自覚が目覚めたか!
俺の教育のおかげだな!
――――――――――――
ちょっと挨拶です。
本日の更新が今年最後になります。
今年の初めに投稿を開始した本作ですが、皆様の応援のおかげで書籍化することもでき、2巻まで出版することができました。
本当にありがとうございました。
来年も変わらずに投稿をしていきますし、現在投稿中の他2作品も含めて良いお知らせができると思いますので来年も引き続き、よろしくお願いいたします。
それではよいお年を!
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