第212話 話し合い
俺とアルクがサツキさん部屋に入ると、そこにはサツキさんはもちろんのこと、すでに本部長さんもソファーに座って待っていた。
「遅れてごめんなさいね」
まだ約束の時間の10分前だが、一応、謝っておく。
「いい。まあ座れ」
サツキさんが座るように勧めてきたため、俺とアルクはサツキさんと本部長さんの対面に座った。
「エレノア君、その子は?」
さすがに本部長さんがアルクのことを聞いてくる。
「私の弟子」
「……違うよー」
アルクがめちゃくちゃ小さい声で訴えた。
「弟子? 横川君の他にいるのかね?」
あらら。
やっぱりナナポンのことはバレてるのね。
そりゃそうか。
「横川? だーれ? 私の弟子はこの子とエージェント・セブンだけよ」
「……そうか。報告には聞いているが、エージェント・セブンの意味がよくわからん。それよりも何故、その子を連れてきた?」
俺もエージェント・セブンの意味はわからない。
「この子はアルクと言ってね。後学のために連れてきたの。特に発言もしないから気にしないでいいわ」
実際、こういうのも次期王様としての勉強になるだろう。
「そうか……部外者は遠慮して欲しいのだが、仕方がない。桜井、君もいいか?」
本部長さんがサツキさんを見る。
そういや、この人、桜井って苗字だったな。
「私も構わない。知っている人間だし、少なくともエレノアよりかは信頼できる」
ひどい……
アルクも真顔で頷いているし。
「君がそう言うならそれでいいだろう。では、早速だが、本題に入ろう」
「そうだな……本部長、よろしく」
サツキさんは頷くと、本部長さんに丸投げした。
「この場は君が取り仕切るのではないのか?」
「私はギルドからもおたくらからも信用されてない。魔女の一味と思われてるんだろ?」
「あなたって、信用がないのね……かわいそうに」
ギルマスなのにねー。
「まったくもってその通りだな」
サツキさんは俺の顔をまっすぐ見て頷いた。
「どういう意味?」
「かわいそうにな……」
このアマ……!
「……やっぱりクソ魔女じゃん」
アルクがせせら笑う。
「黙りなさい。本部長さん、この人は一切信用できないからあなたが進めて」
「ケンカするな……どうしていいかわからん」
本部長さんに窘められちゃった……
「ごめんなさいね。この場には挑発持ちしかいないの」
俺がレベルご……4でサツキさんが5、アルクに至っては6だ。
「どう考えても人選をミスってるな……」
まともな人は逃げたんでしょ。
「どうぞ始めて」
「うむ。まずなんだが、君はフロンティアのエリアをオークションにかけたいということでいいね?」
「そうね。ただ、会見でも説明したけど、あくまでも借地よ」
貸すだけ。
「それは理解している。ただ、100年というのは?」
「それは適当。私はフロンティア王から地球人への借地権をもらっただけなの。私が死んだらその権利は王様に戻る。ただ、交通事故や病気で明日死ぬかもしれないし、その場合は詐欺っぽくなるから100年ということにしたの」
キュアポーションがあるから病気はないと思うけどね。
「うーむ、100年か……」
「短い?」
「多分な」
「では、100年で契約更新としましょう。交渉権は落札者に与える。国が落札した場合は国ね。100年後に王様と交渉してちょうだい」
どっちみち、皆、死んでるだろ。
王様も死んでいるだろうし、アルクの子か、孫かな……
「それはわかったが、君が勝手に決めて良いのか?」
「そういう権利ももらったのよ」
ぶっちゃけると、俺はエメラルダス山脈の権利を完全にもらっている。
王様曰く、好きにしていいそうだ。
だから永久権でもいいんだけど、この前の王様の話を聞く限り、こういう風にした方がいいと判断した。
だって、俺の死後のことなんか知らねーし、俺の子供達(予定)も山なんていらんだろ。
「何故、そんなことができる?」
「プライベートの質問はノーよ。言っておくけど、王様の愛人とか妾じゃないからね」
俺も嫌だが、王様も嫌だろう。
俺、男だし。
「君は例の招待状でフロンティアに行ったのかね? 許可は出していないはずだが……」
「実は急に攫われちゃったの。びっくりしたわ」
アルク、師匠を睨むんじゃない。
めちゃくちゃ心外そうな顔をするんじゃない。
「嘘くさいな……」
信用ねーな。
「まあ、なんでもいいじゃないの。世界中の皆へのクリスマスプレゼントよ」
感謝、感謝。
「私が本部長の立場なら殴ってるな」
「僕も殴ってる」
黙れ、挑発のエリート共!
「私は大人だから殴らん」
ほらー。
「できた人ねー。素晴らしい人格者だわ」
さすがは本部長にまでなった人だ。
「え? このクソ魔女、煽ってる?」
「こいつ、こういうところがあるよな……」
黙れっての。
「コホン! 進めるぞ。君がどういった手段でフロンティアのエリアを手に入れたかは置いておこう。問題はそれが本物であるということがわからない点だ」
「というと?」
「ギルドでも政府内でも君が我々をたばかっているという意見もあるんだ」
ホント、信用ねーな。
「最後のオークションっていう言葉が悪かったかしら?」
「そうだ。最後に儲けて、とんずらするのではないかという意見がある」
「信用できなければオークションに参加しなければよくない?」
そして、後で泣きを見ろよ。
「ああ、そうだ。だが、ギルド主催でやる以上は保証がほしい。ギルドの信用問題になる」
そりゃそうだ。
「じゃあ、アメリカさんに譲りなさいよ。あそこのプレジデントは良い人よ。すぐに手を挙げてくれたもの」
さすがはお友達。
「そこも怪しいという意見がある。君がアメリカと繋がっているのはどこの国も組織も承知だからな」
「別に繋がってないわよ。お得意さんの1つなだけ。どっかの国はレベル2の回復ポーションを100万で奪おうとしたし」
やーい、やーい。
「…………あれは我が国にもギルドにも何も関係ない者だ」
あの嫌なヤツと進藤先生は完全に切られたのか……
ざまあ。
「ふーん。しかし、信用ねー……」
どうしよう?
面倒だからアメリカに任せてもいいんだが……
「アメリカ主催のオークションを開催したらダメ?」
「絶対にやめてくれ。頼む」
本部長がこれでもかというくらいに頭を下げた。
「うーん。サツキさんは?」
「好きにしろと言いたいが、アメリカに取られたら私はクビになるな」
「辞めたい?」
「金は十分に手に入るからなー…………ただ、ナナポンのことがあるだろ。あいつ、見張ってないとバカをするぞ」
ありえる……
良くてどっかのギルマスに捕まる。
最悪は悪い組織に捕まる。
「仕方がないわねー。ギルドのオークションにしましょう」
「感謝する」
問題は信用だが……
さて、どうするか…………
――――――――――――
ちょっと宣伝です。
書籍の第2巻が昨日発売となりましたが、購入してくださった方、ありがとうございます。
地方によってはまだかもしれませんが、是非ともご購入頂けると幸いです。
明日も12時に更新します。
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