第211話 良い舎弟ができて幸せ


 12月24日、25日のクリスマスを終えた翌日の月曜日。

 この日はサツキさんと本部長さんとオークションについての話し合いを行う日だ。


 俺は朝早くに起きると、エレノアさんにチェンジし、準備を行った。

 そして、着替え終えると、朝食のパンを食べる。


「眠いよー。なんでこんな朝っぱらから呼び出されるんだよー」


 俺の対面にはアルクが座っており、リンゴジュースを飲みながら文句を言っていた。

 なお、現在の時刻は9時であり、カエデちゃんはまだ寝ている。


「仕方がないでしょ。私は外に出られないんだから」


 さすがに今の時期にエレノアさんの姿で外を歩けない。

 だからアルクに転移魔法で池袋のギルドに行くのだ。


「わかるけどさー……昼にしてよー」


 俺だってそう言ったが、向こうの都合だ。

 向こうさんは早く打ち合わせをしたいらしい。


「昨日、クリスマスプレゼントをあげたでしょ。我慢なさい」


 昨日、一昨日はクリスマスだったため、カエデちゃんはもちろん、ナナポンやヨシノさん、そして、アルクにクリスマスプレゼントをあげた。


 ナナポンにはうさぎのぬいぐるみ、ヨシノさんには金のしゃちほこをあげた。


 ギャグだったんだけど、2人共、喜んでいた。


 そして、アルクにはエロ本をあげようと思ったのだが、俺の良心と昨日の騒ぎのせいでやめ、レベル3の回復ポーションをあげた。


 なお、カエデちゃんにはバカみたいな値段のするネックレスをあげた。


「もらったねー……ところで、クリスマスって何? なんで皆、はしゃいでいたの? 」


 知らなかったんかい……


「そういうお祭りというか、祝い事って思ってなさい」


 俺も詳しくは知らん。

 家族や恋人と過ごす日だろ。


「ふーん。僕も何かをあげた方が良かった?」

「いらないわよ。子供からはもらわない」


 子供は大人しく、サンタさんを待っとけ。


「まあ、よくわからないけど、ありがとうね」

「いいのよ。弟子のためだもの」

「ああ……着々とクソ魔女に既成事実を作られていく」

「結婚式には呼んでね」


 祝ってやろう。

 新婦にTSポーションをあげよう。


「絶対に呼ばない。あんな記者会見をしたヤツは死んでも呼ばない」


 何も言わないのに……


「まあいいわ」


 王様に頼んどこ。

 サプライズゲストということにしよう。


「すごく嫌な予感がする……」


 勘のいいガキだぜ。


「気のせいよ」

「別にいいけどさー、午前中で終えてね。午後からカエデと買い物に行くんだから」

「こらこらー。沖田君を省くんじゃない」


 昨日、3人で行こうって言ったじゃん。


「わかったから…………もうご飯を食べ終えたでしょ。そろそろ行かないと」


 俺はアルクに言われてチラッと時計を見ると、9時10分だった。

 約束の時間は9時半のため、そろそろ出ないといけない。


「わかったわよ。洗い物をするからあなたはカエデちゃんに声をかけておいて。あの子、完全に自堕落人間になってるから」


 下手すると、昼まで寝てそうだ。

 多分、これまでの反動だろう。

 俺だって、そうだったし。


「似た者夫婦だねー」


 お前も自堕落だけどな。


 俺は食べ終えた皿をキッチンの流し台に持っていくと、洗い物を始める。

 そして、洗い物を終えると、アルクが眠そうなカエデちゃんを連れてきた。


「おはよう」


 俺はかわいいパジャマを着たカエデちゃんに挨拶をする。


「おはよーでーす。もう出かけられるんですかー?」


 カエデちゃんは髪の毛が微妙に跳ねていてかわいい。


「うん。午後には戻るから待ってて」

「わかりましたー……昼御飯はうどんでいいです?」


 カエデちゃんが作ってくれるらしい。


「ラーメンがいい」


 俺が頷く前にアルクが注文をする。


「ラーメンがいいの?」

「あれ、美味しいじゃん。ハマりそう」


 やめろ。

 帰ってこい。

 その道の先にいるのはバカな筋肉マッチョだぞ。


「ふーん……まあ、ラーメンもあるからそっちを作るね。先輩もそれでいいです?」

「いいよ」


 まあ、俺だって別にラーメンは嫌いじゃないしな。

 嫌なのはあのメンツでラーメン屋に行くことだ。

 もっと言えば、ハリーがやるあの間入りという名のサイン会。


「やった! じゃあ、行ってくるね。エレノア、行こうか」

「ん。ゲート前な」


 サツキさんの部屋にいきなり行くと、本部長さんがいるかもしれないのでそういうことになっている。


「了解」


 アルクは了承すると、手をかざす。

 すると、いつものように視界が真っ白に染まった。




 ◆◇◆




 視界が晴れると、いつものゲート前だった。


「本当に便利ねー。この魔法があれば透明化ポーションがいらないわ」


 透明化ポーションは便利であるが、透明化し、さらに透明化を解くのにポーションを2回も飲まなければいけない。

 さらに言えば、TSポーションを始め、各種ポーションを飲むと、お腹がタプタプでトイレが近くなってしまう。


「透明化ポーションはミーアが使っていたように護衛とかで使うんだけどね」


 護衛というか暗殺や潜入捜査の黒い方では?


 王族が使うのはそっちな気がするが、俺が言うことではないだろう。

 そういうのは師より親である王様から習ってくれ。


「そうかもね。では、行きましょう」

「僕はどうするの? ここで待機? 帰ってもいい?」

「ついてきなさい。こんなところで待つのは悪いし、帰るのはダメ」


 話が終わったらパッと消えたいし。


「透明化ポーションを飲めばいいの? でも、打ち合わせが1時間で終わる?」


 透明化ポーションの効果時間は1時間だ。

 打合せの途中で効果が切れ、急にアルクが現れることになるな。

 サツキさんはともかく、本部長さんがびっくりするだろう。


「透明化ポーションは飲まなくてもいいわ。普通についてきなさい」

「いいの?」

「適当に誤魔化すわ」


 俺はそう言うと、アルクを連れ、受付に出た。

 受付には当然、誰もいない。


「ネットで見たけど、ギルドって冒険者が多くて、賑わっているんでしょ? なんか寂しいね」


 いや、ここは元から人が少ない。

 俺にはついに潰れたようにしか見えない。


「そのうち戻るわよ。あなたも冒険者になる?」

「ステータスカードがあるから無理だよ」


 フロンティア人のステータスカードは白いんだっけ?

 目立つし、無理か。


「ちなみにだけど、あんた、クーナー遺跡やミレイユ街道に飛べる?」

「どっちも行ったことがないから無理だね。陛下が飛べるから一度、連れていってもらえば飛べるようになる」


 ふむふむ。

 覚えておこう。


「あなたは本当にいい子ねー」


 実に便利だ。

 可能性に満ちあふれている。


「君は本当に悪い子だね」

「ふふふ。まあいいじゃないの。人生は楽しくしないとね。行くわよ」


 俺は笑いながらそう言うと、サツキさんの部屋に向かって歩き出す。

 そして、部屋の前に立つと、後ろにいるアルクを見た。


「あなたはあまりしゃべらないでね」

「わかってるよ。黙っておく」

「よろしい。では、行きましょう」


 俺は扉をノックした。


「どうぞー。勝手に入れ」


 俺はサツキさんの了承をもらったので扉を開けた。





――――――――――――


ちょっと宣伝です。


本日、書籍の第2巻が発売となりました!

是非とも年末年始にでも読んで頂けたらと思います。

よろしくお願いいたします。


明日も12時の更新となります。

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