第210話 おかしいのは君の頭の中身


 12月24日のクリスマスイブに皆でパーティーをした翌日、この日はクリスマス当日である。

 この日、カエデちゃんはナナポンとヨシノさんと一緒に出かけていた。


 これは俺がカエデちゃんに頼んで、出かけてもらったのだ。


 クリスマスだし、カエデちゃんと過ごしたいという気持ちもある。

 しかし、それよりも大事なことをしなければならない。


 俺は家のリビングでアルクと一緒にいた。

 なお、俺はソファーに座っているが、アルクは立っている。


「さて、アルク、心の準備はいいかしら?」

「うん……ところで、君はエレノアなんだね」


 俺はカエデちゃんが出かけると、エレノアさんにチェンジしていた。


「沖田君よりかはいいでしょ」

「まあね……ありがと」


 今日はいよいよ、アルクがTSポーションを使ってみる日である。

 こっちにいる時はアルク(女)だが、あっちに帰ったらアルク(男)になる。

 帰る前に試しておこうということになったのだ。


「クリスマスなのにカエデちゃんに外してもらったのよ。マジで感謝して、一生恩に着なさいね」

「君、そういうところを直した方がいいよ」


 うっさい。


「いいから始めるわよ。まず、物を渡しておくわ」


 俺はカバンからTSポーションを取り出すと、アルクに渡した。


「これが性転換ポーションか……」


 アルクはマジマジと真っ白いポーションを見る。


「飲む前に注意事項を言っておく。そのポーションには効果時間がない。つまり、もう1回飲むまでは戻れない。まあ、ストックは大量にあるし、後でいっぱいあげるわ」

「うん。君が死んでも大丈夫な量をちょうだい」


 俺を殺すな。

 お前もそういうところを直さんかい。


「私は死なない」

「そんな気がする。良い人は皆、死んじゃうよ……僕なんかが生き残っちゃった」


 ツッコみにくい……


「それは運命よ。あなたはあなたで必要なの。神様がそう決めたのよ」

「ミーアにも言われたよ」

「ならそう思いなさい。死んだ者の分まで生きなさい。幸せになりなさい」

「うん……」


 まだ子供なのにねー……


「次だけど、性別が変わると、体格が変わるわ」

「君を見ればわかるよ。身長も体つきもかなり変わってる。ついでに髪も」


 まあね。


「性転換ポーションを飲んだのは私だけだからデータが少ないの。他の人が飲んだらどうなるかはわからないわ」


 カエデちゃんもナナポンも絶対に嫌だと言う。

 面白そうなのに……


「僕の場合は大きくなるのかな?」

「あなたはまだ13歳だから微妙ね」


 中学生はまだ成長期だ。


「体格のいいのは嫌だなー」

「マッチョの方が良くない?」


 かっこいいじゃん。

 ……うーん、ハリーが浮かんじゃった。

 いや、あいつはねーわ。


「いきなりそんなに変わったらリディアがびっくりするじゃん」

「直近でリディアちゃんに会ったのはいつ?」

「10日前くらいかな?」


 最近すぎる……


「わかったわ。とりあえず、飲んでみなさい。大丈夫よ、男子はすぐに成長するからって誤魔化せばいい」

「大丈夫かな……? まあ、飲んでみるよ」


 アルクはそう言うと、フラスコのコルクを開け、TSポーションを飲み出した。


「あ、服を脱がすのを忘れてた……」


 体格が大きく変われば服がビリビリに破けてしまう。


「先に言ってよー」


 TSポーションを飲み干したアルクが文句を言ってくる。


「あれ? あんた、変わった?」


 TSポーションを飲んだというのに見た目は全然、変わっていない。

 TSポーションは飲むと、一瞬で変わるもんだが……


「大丈夫。変わっているよ」


 アルクはそう言うと、自分の下半身を見た。

 今日のアルクはスウェットにロングスカートを履いており、俺にはよくわからないが、本人は何かを感じるんだろう。


「体格も顔もほぼ変わってないけど…………」

「君はものすごく変わっているのにね」


 なんでだろう?


「もしかしたら本人の願望が反映されるのかもしれないわね」

「どういうこと?」


 アルクが首を傾げながら聞いてくる。

 非常に可愛らしいが、こいつは今、男である。

 男の娘だ。


「私は別人になりたくて、TSポーションを飲んだ。あんたはその逆」


 俺の場合はポーションの売買をするために沖田君からかけ離れた人間を作りたかった。

 だが、アルクはあまり変わりたくないと思っていた。


「なるほど…………確かにそうかもね」

「他で実験ができればいいんだけどね」


 カエデちゃんもナナポンもヨシノさんもサツキさんもやってくれない。

 その他の人はTSポーションがバレるのでマズい。


「陛下もミーアも嫌がると思う」

「皆、嫌がるのよねー。結構、楽しいのに」

「そう?」

「だって、私が何をしても沖田君は悪くないのよ? やりたい放題よ」


 沖田君は悪くない。

 悪いのはぜーんぶ、エレノアさん。


「だからと言ってやりすぎだよ。テレビをつけるとワイドショーはいつも君じゃん」


 俺も人気になったもんだぜ。


「まあ、これが最後よ」

「うーん、終わらない気がする…………」


 大丈夫だってー。


「そんなことよりも、本当に変わんないわね」


 俺はアルクを頭から足先までじっくり観察する。


 髪は長さも色も変わっていない。

 顔は相変わらず、美形。

 体つきも貧相。


「ちゃんと変わってるから大丈夫だよ」

「本当に?」

「え?」


 こいつ、本当に変わってるか?


「よし!」


 俺はポンっと膝を叩くと、立ち上がった。

 そして、アルクを見る。


「なんかすごく嫌な予感がするんだけど……」

「たいしたことじゃないわよ」

「何すんの?」

「確認するだけ」


 俺がそう言うと、アルクが踵を返した。

 だが、アルクが動き出す前に俺が動き、アルクの首根っこを掴む。

 逃げられると思ったか?


「離せー!! 何をする気だー!!」

「暴れんな。ちょっと剝くだけだよ」

「ぎゃー!! 変態だ! このクソ魔女、魔女じゃなくて痴女だ!!」


 誰が痴女じゃい。


「うるさいから騒ぐな。カエデちゃんはいないから叫んでも無駄だぞ」

「こいつ、マジで狂ってるー!!」


 アルクが必死に暴れている。

 だが、こいつの貧弱な力ではロクに抵抗できない。


「男同士だろ」

「女じゃーん!」


 この場合、めんどくせーな。

 俺は男だけど、今は女。

 アルクは女だけど、今は男。


「すぐに済むから」

「死ね、クソ魔女!」

「すでに裸は見せ合いっこしただろ」

「してなーい! 君が勝手に見ただけー!! 誰か助けてー!」


 うるせーなー。


「お前が変わんないのが悪いだろ」

「変わってるからー! ホントにホント! 明らかについてないものがついてるからー!」

「ふーん…………じゃあいいわ」


 俺はパッと手を離し、ソファーに座る。

 すると、アルクは部屋の端に逃げた。


「君、マジでヤバいな! ナナカがサイコって言ってた意味がようやくわかった!」

「思春期はめんどくさいわねー」

「関係ないよ!」

「私は一切気にしないけどねー」


 別に見られても気にしない。

 男はそんなもんだ。

 じゃないと、温泉に行けない。


「カエデにチクってやるー! 怒られろ! 奥さんに怒られろ、クソ魔女!」


 カエデちゃんが怒るわけないじゃん。


 その後、カエデちゃんはナナポンとヨシノさんを連れて家に帰ってきた。

 俺の予想通り、怒られることはなかったが、3人共、ドン引きアンド冷たい目で俺を見ていた。


 おかしいね。





――――――――――――


ちょっと宣伝です。


明日、本作の第2巻が発売となります。

書店に立ち寄った際はお手に取ってもらえると幸いです。

また、電子書籍を購入予定の方は0時から読めます。

カリマリカさんが描いてくださったラーメンを食べているエレノアさんは必見ですので是非ともよろしくお願いします。


それと、第2巻の発売を記念しまして本日から12/30まで毎日更新します。

そういうわけで明日は昼の12時に更新します。


よろしくお願いいたします。

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