第214話 いざ、フロンティアへ


 本部長さんとサツキさんとの話し合いを終えると、昼からアルクとカエデちゃんの3人で買い物に出かけた。

 その翌日、さらにその次の日も3人で朝から買い物に行き、大量の物を購入した。


 そして、今日。

 この日は王様からの依頼の品を納める日だ。


 俺は朝早く起きると、自室で頼まれていた各種ポーションを整理し、それぞれをアイテム袋に入れていっていた。


「こんなもんかなー。しかし、多いな…………」


 王様に頼まれていたものは回復ポーション、キュアポーション、翻訳ポーション、透明化ポーション、強化ポーションだ。

 これらをそれぞれアイテム袋になっているカバンに入れたため、俺の目の前には11個のカバンが置いてある。


「せんぱーい」


 カエデちゃんのかわいい呼び声と共にノックの音が部屋に響いた。


「開いてるよー。なーに?」


 まあ、俺の部屋に鍵はかかってないんだけど。


「ヨシノさんとアルクちゃんが来ましたよー」


 カエデちゃんがそう言いながら部屋に入ってくる。

 カエデちゃんの後ろにはアルクとヨシノさんがおり、2人もカエデちゃんに続いて入ってきた。


「やっほー」

「お邪魔しているよ」


 アルクとヨシノさんが笑顔で挨拶してくる。


「いや、狭いわ」


 この部屋に4人は多い。


「まあまあ。これが納品用の各種ポーション?」


 アルクが文句を言う俺を窘めながら床に置いてあるカバンを見る。


「そう。お前、これを収納魔法でしまえるか? アイテム袋って中身が入っている状態だと、アイテム袋に入らないんだよ」

「あー、そうだね……いいよ。じゃあ、収納する」


 アルクはそう言うと、カバンに向かって手をかざす。

 すると、一瞬にして11個もあったカバンが消えた。


「すごいなー」

「ナナカに覚えさせなよ。あの子ってメイジでしょ?」

「あいつが覚えたらムカつく」


 絶対に自慢してくるし。


「小っちゃいなー…………いや、でも、透視持ち…………まともそうに見えたけど、あの子も激ヤバユニークなのか」

「俺の錬金術もそう言ってたけど、透視もなん?」

「あれはレベルがあってね。10になると、世界中のどこでも見れるようになるっていう言い伝えがあるらしい。支配者の目と言われている。もっとも、そこまでレベルを上げた人はいないから本当かどうかはわからないけどね」


 すげー!

 究極のストーカーだ。


「フィーレからフロンティアも見えるのかね?」

「さあ? わからないけど、怖い能力だよ」

「まあ、あいつはそこまでレベルは上がんないと思う。雑魚だし」


 魔法はすごいのだが、運動神経と度胸がないんだよね。


「あー……確かに戦闘が得意そうには見えなかったね。でも、そんなユニークスキル持ちだから相当なユニーク人間だよ。君と一緒」


 卑劣なカンニングストーカー女だが、実は他にもヤバい属性でもあるんだろうか?


「ナナポンが夜な夜な猫とかを殺してたらどうしよう?」


 俺は嫌な想像をしながらヨシノさんとカエデちゃんを見た。


「やめろ。怖いわ」

「そうですよ。ナナカちゃんは…………ちょっと変なだけで普通ですって」


 ヨシノさんとカエデちゃんは否定をしながらもちょっと引いてる。


「こりゃ、やっぱりサツキさんに管理してもらわないといかんな」


 ナナポンを1人にするのが怖い。


「クソ魔女の弟子はやっぱり変だったか…………」


 お前も弟子じゃん。


「おー、弟子2号よ! 性倒錯者が言うと、説得力が違うな」

「誰が性倒錯者だ!」


 アルクが怒った。

 でもねー…………


「お前、男でも女でもいけんだろ?」

「ないよ!」

「じゃあ、リディアちゃんがリディア君になって迫られたら拒否する?」

「………………するよ」


 絶対にしない。


「はいはい。一緒にユニークな人生を送ろうな」

「嫌だよ!」


 無理無理。


「最初はユニークスキルが欲しいなーって思いましたが、やっぱり常人が持ってはいけないものなんですね」


 カエデちゃんが神妙な顔で俺達を見渡す。

 なお、ミスユニークこと、ヨシノさんは一言も発せずに存在感を消そうとしていた。


「カエデちゃんにはいらないよ。じゃあ、行く準備をしよう。悪いけど、リビングで待ってて。エレノアさんにチェンジするから」


 別に王様とミーアにしか会わないからこのままでもいいんだけど、商売の話だし、ちゃんとバイヤーエレちゃんの格好の方が良いだろう。


「わかりました。ヨシノさん、コーヒーを淹れますね」

「ああ。悪いな」


 カエデちゃんとヨシノさんは頷くと、部屋を出ていった。


「お前は?」

「僕もチェンジする。あっちでは王子になるから」


 そういや、そんなことを言ってたな。


「しかし、俺は女になり、お前は男になるのか…………」

「よくわかんないね」


 ホントにな。


「まあいいや。変わろう。あっち向いてろよ」

「それは絶対に僕のセリフ。ナナカから聞いたけど、くだらない冗談はやめてね」


 ナナポンのヤツ、脱衣所のことをしゃべったな。


「せんわ」


 俺はそう言うと、そっぽを向いた。

 そして、服を脱いで素っ裸になると、置いておいたTSポーションを飲み、沖田君からエレノアさんに変わる。


「変わったわよー」

「いらない実況だなー」

「そんなことより、ガシャガシャと音がするのは何よ?」


 さっきから金属がこすれる音がしてうるさい。


「ホント、急に口調が変わるなー…………いや、鎧を着ているだけ。僕は別に体格が変わるわけではないし、君みたいに着替える必要ないよ」


 それは楽でいいな…………いや、待て。


「あなた、スカートを履いてなかった?」


 アルクはパーカーにスカートだった気がする。


「スカートはさすがに脱いだよ」

「いやさー、鎧を着る必要ある?」


 男物の普通の服でいいじゃん。


「今まで着てたんだから急に着なくなったら変だろ」


 いや、鎧を着ている方が変だよ。

 こいつ、天然だな。


「まあ、好きにしなさい。私は着替え終わったけど、あなたは?」


 黒ローブは早いのだ。


「僕はまだだね。鎧ってめんどくさいんだよ。でも、こっちは見ていいよ。もう大丈夫だし」


 アルクにそう言われたため、振り向くと、アルクはほぼ鎧姿であり、ガントレットをつけているところだった。


「あなた、変わったの?」

「TSポーションは飲んだよ」


 全然、わからん。


「結婚してから変わればよくない? 裸を見ない限り、わかんないわよ」

「今のうちに慣れておきたいんだ」

「ふーん……」


 まあ、大変だろうけど、頑張ってくれ。

 俺はもう慣れた。


「よし! こんなものかな?」


 アルクは鎧を着終えたらしい。

 鎧を着たアルクは初めて見た時とまったく同じである。


「これならリディアちゃんも気付かないと思うわ」

「そう? なら良かった」


 うーん、しかし、こんなかわいい顔をしてるのに生えているんだなー。

 ものすごい疑わしいが、確認をしようとすると、皆の俺に対する好感度が急降下してしまう。


「リビングに行きましょう。2人が待ってる」

「そうだね」


 俺とアルクは俺の部屋を出ると、リビングに向かう。

 リビングではカエデちゃんとヨシノさんがテーブルにつき、コーヒーを飲んでいた。


「準備できました?」


 座ってコーヒーを飲んでいるカエデちゃんが見上げながら聞いてくる。


「うん。行こうか」

「はい。あ、カップだけ洗っていきますね」


 カエデちゃんはそう言うと、自分のカップとすでに飲み終えたヨシノさんのカップを持って、キッチンに向かった。


「アルク、忘れ物はない? おみやげは?」


 俺はアルクに最終確認をする。


「大丈夫。選別は後だね。正直、買いすぎたよ。あ、お金を出してもらってありがとう」


 アルクは食料品の他にも布団やらなんやら使えそうなものを大量に買っていた。


「そこは良いんだけど、食事に冷凍ピザなんて出さないでね。あっちの物が食べたい」

「わかってるよ」


 王様はよほどピザが気に入ったらしく、スーパーにあった全種類の冷凍ピザをアルクに買わせていた。

 正直、その内、王様本人が来そうな勢いである。


「お待たせしましたー」


 洗い物を終えたカエデちゃんが戻ってきた。


「じゃあ、行こうか。3人共、準備はいい?」


 アルクが聞いてくる。


「いいわよ」

「いつでもどうぞ」

「おねがい」


 俺達が頷くと、アルクが手をかざす。

 そして、俺の視界が真っ白に染まっていった。


 この転移にも慣れてきたなー。

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