第207話 大丈夫かな?


 ――テンテカテカテンテンテーン…………


 眠い、寒い、身体が重い。

 なのにうるさい。


 クソッ!

 マナーモードを切るんじゃなかった。


 俺は布団の中から腕を伸ばし、枕元にあるスマホを手に取る。


【クレア】


 スマホにそう表示されていた。


「……あんた、今何時だと思ってんの?」


 俺は眠い中で電話に出た。


『朝の10時ですけど?』


 えー……


「時差ね。こっちはまだ6時よ」

『私も日本にいるっての』

「起こさないでよー…………」


 クソ眠い。


『相変わらず、自堕落ねー』

「うるさい。何の用よ?」

『この調子じゃあ、ニュースは見てないわね』


 ニュース?


「見てない……」


 昨日は飲みながらポーションを作って、寝たし。


『見なさい。約束通り、あなたのお友達が声明を出したから』

「ちょっと待ちなさい。起きるから」


 俺は起き上がると、寒い中、布団から出て、リビングに向かった。

 リビングはエアコンがつけっぱなしなので暖かい。


 俺はソファーでスヤスヤ寝ているお姫様を少しどかし、ソファーに座ると、テレビをつけた。


「ふーん、確かにねー」


 テレビのワイドショーでは特集を組んで報道している。

 内容はアメリカがオークション参加を表明したことと自国開催を提案したことだ。


『これでいいかしら?』

「いいんじゃない? おかけでギルド関係者は大慌てだろうけど」


 ごめんね。


「うるさいよー…………」


 俺のお尻のすぐ横で寝ているアルクが掛布団を被った。


『ん? 誰かいるの?』

「弟子が寝てる。もう10時だっていうのに」


 起きろよ。


『あからさますぎてツッコミにくいわね』

「このねぼすけを叩いてみようかしら?」

『可哀想じゃない? チビのあの子でしょ?』


 チビ……

 ナナポンか。


「あの子とは違うチビね。弟子2号」

『あなた、何人、弟子がいるの?』

「2人。そんなことより、ご苦労様。これで他国も同調するし、ギルドも焦り出すわ」


 下手をすると、1年も待たせられるかもしれない。


『それはいいけど、オークションってどうやんのよ?』

「それはこれから詰めていくわ」


 ギルドと話し合いかね?


『アドバイスをしてあげるけど、世界中の国々を巻き込む場合はお金というか通貨で揉めるわよ』

「通貨? どういうこと?」

『とんでもない額になるから円とかドルとかに統一しないとマズいってこと。極論を言えば、どっかの国がお金をすりまくれば買えるでしょ? でも、その時にはインフレでただの紙になる可能性もある。その辺が非常に難しいのよ』

「円でいいじゃないの。私、円が好き」


 日本人だし、両替がめんどい。


『他国が何百億、何千億の円を用意できるわけないじゃない』

「じゃあ、どうすればいいの? 物々交換は嫌よ。ミサイルなんかいらない」


 持て余すわ!


『あなたの好きな金にしなさい』

「金? 黄金?」

『そうそう。それの量でオークションを開催すればいい』

「金ねー…………価値が安定してるんだっけ?」


 そんなことを聞いたことがある。


『総量が決まってるから変動が少ないのよ。むしろ、年々上がってるわ』

「フロンティアにはめっちゃ余ってるけどね」

『は? あんた、なんでそんなことを知ってるのよ』

「秘密」


 もうすぐで部屋中を埋め尽くす金塊が手に入る。

 多分、床が抜けるな。


『まあいいわ。そんな感じで金を使うと良いわよ。そうすると、さらに金の価値が上がるしね。延べ棒を持ってるあなたにはちょうどいいでしょ』


 なるほどね。


「親切ねー」

『まあ、ただのアドバイスよ』

「プレジデントに良いお友達をもって、幸せねって伝えておいて」


 金の方が都合がいいだけだろ。

 わかりやすい。


『私からの好意よ』

「商売人のあんたが自分の懐に一銭も入らないようなことで電話してくるわけないじゃないの」

『そんなことないわよ』


 まあ、そういうことにしてやるか……


「お母様、うるさいよー……」


 寝ているアルクが俺の腰に抱きついてきた。


『え? 弟子ってあんたの子供?』


 クレアがものすごい誤解をしている。

 俺はイラっとして、拳を振り上げ、抱きついてきているアルクを殴ろうとした。

 しかし、すぐにやめ、拳を下ろす。


「違うわよ。私に子供なんていない。単純に寝ぼけているのよ」

『本当にぃー?』


 クレアはめちゃくちゃ疑っている。


「あまりそのあたりに触れないで。母親を病気で亡くした子なの」


 兄や姉も全部だ。


『あ、そういう…………ごめんなさいね』

「そう思うなら朝っぱらから電話をかけないでよ」

『だから朝じゃないってば』

「10時は朝よ」


 学生時代は12時まで寝ていたし。


『わかったわよ。今度からは昼一にかけるわ』

「そうしてちょうだい。じゃあ、切るわ。お仕事頑張って。ばーい」

『good bye!』


 このアマ、嫌いだわー。


 俺はスマホをローテーブルに投げると、アルクの肩を叩く。


「アルク、いい加減に起きなさい」

「んー?」


 アルクが薄目で俺を見上げる。


「おはよう」

「おはよー…………え? なんで抱きついてんの!?」


 知るか!


「あなた、私のことが好きなの?」

「え? あ、抱きついているのは僕か…………」


 こいつ、俺が抱きついたと思ってたのか……

 俺がやべーヤツになるじゃねーか。


「ソファーは寝心地良かった?」

「良かったんだけど、1回落ちたよ」


 まあ、狭いしな。


「お風呂にでも入る? 寝ぐせがひどいわよ」

「君の髪も跳ねてるよ」


 アルクはそう言いながら俺から離れると、起き上がり、自分の髪を手櫛で直そうとする。


「お風呂を用意してあげるから待ってなさい」


 俺はそう言うと、立ち上がり、リビングを出た。

 そして、廊下に出ると、カエデちゃんの部屋のドアノブを握り、引いてみる。


 ――ガンッ


 しかし、鍵がかかっており、開かなかった……


「カエデちゃーん、朝だよー」

「…………はーい」


 カエデちゃんのくぐもった声が聞こえてきた。

 おそらく、まだ布団の中だろう。

 いつも早起きなカエデちゃんはこのところ休みが続いているため、完全に自堕落になっている。

 はたして、ギルドが再開した時に生活リズムを戻せるのだろうか?


 俺は少し、心配になりながらも風呂場に行き、お風呂を用意した。

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