第206話 いんさいだー? ★
「――ああ、わかった。ご苦労だった。大統領に話してみる…………は? ああ、なるほどな……」
目の前に座っているノーマンが誰かと電話をしている。
まあ、相手はわかっている。
魔女を担当しているクレア・ウォーカーだ。
「了解した。お前達は引き続き、ギルドを張りつつ、魔女の連絡を待て」
ノーマンが電話を切った。
「どうだった?」
私は早速、電話の用件を聞く。
「はい。クレアからでしたが、魔女から例の件の詳細を聞いたようです」
やっと繋がったわけか。
「で? 何だと?」
「例の件はでたらめではなく、本当にフロンティアのエリアのようです」
やはりか……
フロンティアの王、シャルルの名前が出た時からそうだろうなとは思っていたが……
「何故、魔女がそんなものを手に入れたかは?」
「その辺りははぐらかされたようです。ただ、フロンティアに行って、王族に会ってきたと」
会ったわけか……
これまでわずかな人間しか会ったことのないフロンティアの王に……
「ヤツは何故、そんなに簡単に会えるんだ?」
「例の手紙でしょう。おそらく、本当に招かれたものと思われます」
日本の議員がリークした情報は本当だったわけか。
「以前にあった聴取で何かあったわけだな」
「恐らくは……」
「そこで何かの取引をしたか、何かが判明したかだな」
「そうでしょう。今思うと、あの回答は少し変です」
フロンティア人であることは証明できなかった。
本物の魔女かもしれない。
「確かにあの魔女を庇うような回答だな」
「弱みを握ったとは考えにくいですし、本当にフロンティアの王族かもしれませんね。王女でないにしろ、ある程度の格を持っている」
ありえるか……
「もしくは、フロンティア側にメリットがあったかだな」
「買収ですかね? その場合は魔女があれらのアイテムを魔女個人で用意しているということです」
「ポーションやアイテム袋はフロンティアから仕入れているわけではない、ということか……」
そっちの方が現実的かもしれない。
それでフロンティアのエリアを買った。
「本当の魔女かもしれないという言葉…………作っている、ですかね?」
私の頭の中にはボロボロの老婆が釜で怪しい液体を混ぜている姿が浮かんでいる。
「かもな」
「どちらにせよ、要人であることは間違いありませんな」
「だな。そして、正しく、金の卵だ」
失うわけにはいかない。
「それと、例の最後のオークションという言葉の真意ですが、目立ちすぎたので当分は雲隠れするそうです」
今更すぎる気がするが、まあ、わからんでもない。
「クレアとの契約は?」
「それは引き続きやるそうです」
ほっ……
良かった。
せっかくのルートを潰されたらかなわん。
「ならいい。むしろ、ほぼ独占できると考えられる」
「ですな。我が国としてはメリットです」
いち早く、接触をして良かった。
そのおかげで、ある程度の信頼関係を築けたのだ。
これが他国と繋がられていたらと思うと、ゾッとする。
「例の件は?」
「それも了承を得ました。どうやら魔女は黄金にしか興味がないようです。自分の懐に金が入ればなんでもいいって感じだそうです」
さすがは黄金の魔女。
このあたりは本当にドライというか、わかりやすい。
「となると、組む相手はやはり日本かな?」
「それがいいと思います。日本も魔女が自国にいるわけですし、このチャンスを逃がしたくないと思っているでしょう。それに日本は出しますし、信用できます」
持つべきものは最良の同盟相手だな。
あの国がこのステイツと敵対などありえない。
「見返りを要求してくると思うか?」
「それはあると思います」
「その辺は外務省に頑張ってもらうか……」
日本の外務大臣はやり手だからな。
「それなんですが、時間をかけるのはマズいです」
ん?
「どういうことだ?」
「この共同借地の件を他国に言わない見返りに我が国へ要求がありました」
「要求? なんだ?」
「明日にでもオークション参加を表明すること、そして、我が国主導のオークションを許可することです」
うーん、まあ、こちらにデメリットはないな。
「その真意は?」
「オークションの開催を急いでいるようです。せっかちな性格らしいので」
フロンティア人はせっかちだからなー。
「ギルドの尻を叩いて欲しいわけか」
「ですな」
「正直なことを言えば、我が国開催が望ましいな」
そうすれば、手数料などのマージンも取れるし、国民の理解を得られるからオークションに出せる予算も増える。
「ギルドは絶対に認めないでしょう」
「だろうな……」
だからこその脅しか……
「しかし、そうなると、日本に足元を見られる訳だな」
「この状況です。日本もそこまでの要求はしてこないでしょう。向こうも必死でしょうから」
「わかった。ある程度は妥協し、早急な締結を結ぼう」
ある程度の歩み寄りをすれば、文句はないだろう。
「それがよろしいかと」
「しかし、オークションの通貨は何になるんだ? ドルか? 円か?」
魔女は円での取引を望むだろうが……
「そこが難しいでしょう」
紙幣は発行すればいい。
とんでもないインフレになってしまうが……
「価値が安定したものになるかもしれません」
黄金の魔女……
ヤツが好きなのは……
「黄金だな」
「ありえます。集めておきますか?」
「そうしよう。この件が決まったらとんでもない額で金が取引されるようになる」
「いっそ、このことを魔女の耳に入れては? 魔女は先日、地下遺跡で金の延べ棒を手に入れたそうです」
金の価値が上がれば、魔女にもメリットがあるわけか……
「魔女にそう提案するように仕向けるわけだな。それはいい手だ」
そして、自分達は他国に先んじて金を集める。
魔女と繋がりを持っているという武器を最大限に生かすのだ。
「クレアにそれとなく伝えさせましょう。魔女は恐ろしい存在ではありますが、黄金にしか興味のない小娘です」
「わかった。私も早急に各機関に通達し、日本と話す」
「承知しました」
よしよし!
風が向いてきたぞ!
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