第202話 お買い物


 アルクはお菓子を取りに帰ると、久しぶりにカエデちゃんと2人きりになった。


「しかし、フロンティアのエリアをオークションにかけるって簡単に言いますが、どうやるんです?」

「その辺はギルドに任せる。俺は商品を提供するだけ」


 表立ってはできないかもしれない。

 国が買うとなると、税金だろうし、いくらかけたのかを国民にバラしたくはないだろう。


「落札できようが、できまいが、批判が来そうですね」


 落札したら無駄金と言われ、できなかったら落札しろよと批判される。

 まあ、その辺はしゃーないだろう。


「買うのは国だろうからね。さすがに個人や企業は無理だろうし」


 世界的な大企業でワンチャンかな?


「ですかねー? ところで、どうやってエリアとゲートを繋げるんです?」

「そこは俺じゃなくて、王様かアルクがやる。俺はこの国のゲートとエメラルダス山脈を繋げてって頼むだけだな」

「エメラルダス山脈…………当たり前ですけど、知らない場所ですね」


 そらな。


「金とかレアメタルが採れるらしい。あと、結構広い」

「その情報も開示するんです?」

「そうなるね。あとでその辺をまとめて、ヨシノさん経由で本部長さんに渡すわ」


 さすがにどんな場所かを開示しないと売れない。

 いざ、落札したら不毛の土地でしたの可能性がある限り、税金を使う以上は及び腰になってしまう。


「それらもどんどんとマスコミに流れ、世界がエレノアさんに注目でしょうね」

「ありえないことが起きてるからね。黄金の魔女のフィナーレにふさわしい」


 とはいえ、完全にいなくなるわけではない。

 あとは築いてきた人脈で細々と売るだけだ。


「エレノアさんは外に出ない方がいいでしょうね。ここまで来ると、マスコミどころか暗殺者的なものも来そうです」


 あるかもね。

 ナナポンを攫ったヤツらみたいなのもいるし、予算的に落札の見込みがない国々も怪しい。


「だからアルクという小間使いを弟子にした。あいつがいれば外に出る必要はない」

「なるほど…………クレアさんとハリーさんは?」

「後で電話する。あいつらからも着信がひどいし」


 しつこいっての。


「一度話した方がいいでしょうね。ちなみに、サツキさんは何て?」

「何も。儲かりそうだなーって喜んでた」

「楽観的な人だなー。私は不安がいっぱいですよ」


 普通はそうだろうね。

 しかし、サツキさんは普通ではない。

 なんであの人にユニークスキルがないんだろうか?


「大丈夫だって。前と一緒。最悪は逃げればいい。どっちみち、エレノアさんが表に出るのはこれが最後なんだし、最悪はクレア経由でアメリカに売り飛ばす」


 別に日本でもいい。

 最悪、オークションの開催が叶わないのならば、それでも構わない。

 大金であることは間違いないのだから。


「アルクちゃんがいれば、何とかなるか…………」


 そうそう。


「――呼んだ?」


 急に目の前にアルクが現れた。


「びっくりしたー…………」

「お前、急に現れんなよ」


 マジでびっくりした。


「だって、今から行くよーって言えないじゃん」

「リビングに現れんな。廊下に転移して、ノックしろ。俺とカエデちゃんがキスしてたら気まずいだろ」


 もっといいことをしてるかもしれない。


「あー、確かにそうだね。気を付けるよ」

「いや、しませんけどね」


 それはアルクが戻ってくるというシチュエーションだからだよね?


「あ、これ、お菓子」


 アルクはローテーブルの上にカゴいっぱいに詰め込まれたお菓子を置く。


「悪いな」

「いいよ。ストックがなくなったからまた買いに行かないとだけどね。あとさ、さっきのチョコクッキーとポテチのコンソメを大量に買ってこいって言われちゃった」


 やっぱりか……


「うすしおより、コンソメ?」

「うすしおも美味しいけど、コンソメがすごいってさ。気になって僕も1枚もらったけど、すごいね。あっちにはない味だよ」


 コンソメがないのか。


「あれ、スープの出汁だっけ?」

「コンソメスープってありますからそうじゃないです?」


 俺もカエデちゃんも料理をしないからよくわからないんだよな。


「本当に食文化が異なるんだね。色々、買って帰らないと」

「そうだな。お菓子もだけど、飲み物や調味料なんかも買って帰れよ」

「そうする。しかし、こっちのお金がないな……金ってどこで売れるの?」


 知らね。

 リサイクルショップか?


「金は俺が出すよ。それくらいはする」


 お菓子なんか大した値段ではないし、それ以上に儲けさせてもらっているんだからそれぐらいはする。


「じゃあ、お願いしようかな」

「今からスーパーとかに行きます?」


 そうするか。


「アルク、買い物に行くぞ」

「僕も行ってもいいの?」

「別にいいぞ」

「服はこれでいい?」


 アルクは白いドレスっぽい服を着ている。


「うーん、微妙。カエデちゃんの服を着させるか?」

「私より小さいですし、どうかな?」


 アルクは150センチあるかないかだ。


「着れないことはないでしょ。それで服もついでに買ってあげればいい。こいつ、今後、1人で勝手に買い物に行きそうだし」

「確かに。じゃあ、私の服を貸しましょう。先輩というか、エレノアさんの服はちょっと合いませんし」


 エレノアさんの体格はカエデちゃんとほぼ変わらないが、アルクに合うのはカエデちゃんの方だろう。

 アルクは美人系というより、かわいい系だし。


「カエデが貸してくれるの? 悪いね」

「いえいえー。じゃあ、こっちです」


 カエデちゃんがそう言って、立ち上がり、自分の部屋にアルクを連れていこうとしたので俺も立ち上がった。


「ん?」


 カエデちゃんが立ち上がった俺を見てくる。


「いや、俺も着替えるだけ。ついていく気なんかないよ?」


 ホントにホント。


「…………ですか」


 あ、信じてないな。


「さすが最上級のユニークスキル持ち。素でひどい」


 え?

 ユニークスキルにも階級があるの?

 錬金術って最上級なん?


「さーて、準備しよ」


 俺はそそくさと自室に逃げた。




 ◆◇◆




 出かける準備を終えた俺達はショッピングモールに向かい、まずはアルクの服を購入した。

 アルクは何着かの服を買ったのだが、試着したとある服をそのまま着て、店を出た。

 そして、店の外で自分の格好を見ている。


「変じゃない?」


 アルクが聞いてくる。


「すごいかわいいよ」

「お前、マジで顔面100点だな」


 家で着ていたドレスもカエデちゃんに借りた服も似合っていたが、今は年相応の可愛らしい格好をしている。


 うーん、こいつ、マジで美人になると思う。

 本当に男になっちゃうの?

 すごくもったいないぞ。


「そう?」

「うん。めっちゃかわいい。こんな娘が欲しいわ。どうする? 男の服も買っておくか?」


 アルクの男バージョンを見たことがないけど、どうせ超絶イケメンだと思う。


「いや、男物はいいや。こっちに来る時はこの姿で来る」

「まあ、俺的にはそっちがいいけど、誘拐とかに気を付けろよ」


 平和な日本でも性犯罪がないわけではない。


「大丈夫。魔法と転移でなんとかなるよ」

「じゃあいいか。買うのは食べ物系と飲み物系でいいか?」

「そうだね。他にも気になるのはあるけど、まずは食」


 大事なことだからな。


「じゃあ、1階にあるスーパーに行こう。気になるもんは全部買っていいからな。どうせ、収納魔法があるんだろ?」

「そうだね。まずはお菓子コーナーに行こう!」


 子供だなー。

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