第201話 異世界交流
俺は沖田君に戻る前にナナポンに電話をしてやろうと思い、スマホを取り出した。
すると、タイミングが良いというか、ずっとかけていたからだと思うが、ナナポンから電話がかかってきた。
俺は着信ボタンを押し、電話に出る。
「あなた、かけすぎ。少しは待ちなさいよ」
俺は開口一番で苦言を呈する。
『いや、無視しないでくださいよ!』
「立て込んでたんだからしょうがないでしょ」
『一言あってもいいのにぃー』
あまりの着信の多さにめんどくさかったんだよ。
本人には言えないけど。
「ごめん、ごめん。それよりもあなたもテレビは見た?」
『見ましたよー。フロンティアのエリアをオークションにかけるってなんですか!? というか、あなたの後ろにいた金髪美少女は誰ですか!?』
さすがは透視持ち。
透明化ポーションを飲んでいたアルクを確認できたらしい。
「あの子は私の弟子ね」
『え!? 私はお役御免ですか!? 免許皆伝!?』
良い様に言うな。
「弟子2号よ。あなたはナンバーセブンだからアルクはナンバーエイトにする」
「ださっ! っていうか、僕は弟子じゃないから!」
俺とナナポンの電話を聞いていたアルクが文句を言ってくる。
なお、その際、カエデちゃんがソファーにやってきて、人数分のココアをローテーブルに置くと、俺の隣に座った。
『その子、誰です?』
「フロンテイアのおう…………アルク、あんた、どっちでいく?」
王子か、王女かで悩むな。
「こっちにいる時は王女でお願い。あくまでも謎の美少女アルクがこっちにいるだけだから」
ちょっと顔が良いからって調子に乗ってんな。
まあ、異論はないけど。
「王女様だってさ」
俺はアルクの設定を聞くと、ナナポンに答えた。
『誘拐ですか?』
「いや、なんでよ」
『魔女に攫われたお姫様感が…………』
あー、わからんでもない。
でも、そうなると、俺は正義の勇者様に討伐されるやんけ。
「違うわよ。アルクは次の王様だから視察にやってきたの。そしたら私の弟子になりたいと……」
「言ってないよー。頭狂ってんの? …………狂ってたね」
おい!
あと、カエデちゃんも頷くなや。
『弟子の件はよくわかりませんが、視察にやってこられたんですね。フロンティアのエリアは?』
「あなた、今どこ? ウチに来る?」
『あー、ごめんなさい。今はちょっと席を外せません。詳しい話は後でも良いんですけど、これだけは聞かせてください。大丈夫ですか? ヤバいことになっていませんか?』
絶対に家に来ると思ったが、来ないらしい。
珍しいな。
大学の授業があるんだろうか?
「ヤバいの程度がわからないわね。フロンティアのエリアを売るってこと自体がヤバいじゃないの」
『あなたに危険がないかです。真っ当な方法で手に入れたものです? 騙したとか奪ったとかじゃないです?』
「普通に交渉して手に入れてものよ。だから問題はないわ」
『ですか…………ならいいです。詳しい話はまた聞かせてください。それだけを確認したかっただけですから』
ナナポンは忙しいっぽいな。
「わかったわ。じゃあ、時間ができたら連絡をしなさい。今後のこともあるし、アルクを紹介したいから」
『わかりました。また連絡します。ではではー』
ナナポンはそう言って、電話を切った。
「ナナカちゃんが来ないなんて珍しいですね。てっきり、すでに下にいると思ったんですけど」
電話を終えると、ココアを飲んでいるカエデちゃんが意外そうな顔をする。
「俺も下でこっちを見ていると思っていた」
友達と遊んでいるか、家の用事かね?
ナナポンがバイトをするわけないし。
「ねえねえ。君の弟子ってもしかして透視を持ってる?」
俺とナナポンの電話を聞いていたアルクが聞いてくる。
「そうね。あの子は透視のユニークスキルを持っている。だから弟子にしたの。便利だし」
「師弟って何かを教えたりするんじゃないの? 君の言う弟子って便利な小間使いじゃん」
「そうよ。小間使い2号。私のために働きなさい」
こいつの魔法やスキルは非常に便利だ。
確保しておかねばならない。
「嫌だよ!」
「スイーツバイキングに連れていってあげるから」
「しょうがないなー……」
ガキだな。
「よろしい。ナナポンの電話も終わったし、私は沖田君に戻ってくるわ。あ、カエデちゃん、これ、おみやげ。フロンティアのお菓子らしい」
俺はカバンから持って帰ったカゴを取り出し、カエデちゃんに渡すと、立ち上がった。
「へー。すごいですね。美味しいんですか?」
「めっちゃ美味い。何なのかはよくわからないけど」
「…………大丈夫なやつです?」
カエデちゃんが怪訝な目でお菓子を見る。
「大丈夫、大丈夫。俺とヨシノさんも食べたし」
「バカ食いね」
ホンマ、挑発レベル6だわ。
「詳しいことはアルクに聞いて。俺は着替える」
早く沖田君に戻りたい。
「わかりました。ねえねえ、これなーに?」
「ミレーの実っていうのと小麦粉を混ぜて焼いたやつ。甘くて美味しいよ」
「へー、クッキーみたいなものかな?」
俺はお菓子に興味深々なカエデちゃんを尻目に自室に戻った。
◆◇◆
自室に戻り、エレノアさんから沖田君にチェンジすると、リビングに戻った。
「せんぱーい、お菓子がなくなっちゃいましたけど…………」
結構な数を持って帰ったのに一瞬にしてなくなったらしい。
「食べすぎだろ…………」
「いや、本当に美味しいです。食べたことがない味ですよ。おかげで止まらなかったです」
まあ、俺とヨシノさんもそんなんだった。
「アルク、今度はもっと大量でよろしく」
「別に取りに帰れるけど?」
え?
「お前、転移魔法で帰れるの? ゲートは?」
「別に使わなくても帰れるよ」
王族の転移ってヤバいな。
「制限はないのか?」
「うーん、人数制限くらいかな。10人くらいは一度に運べると思うよ。やったことがないから何とも言えないけど」
すごいな。
どこでも〇アならぬ、どこでもアルクだ。
「じゃあ、取りに帰れ。代わりにこっちのお菓子をやろう。カエデちゃん、確かチョコかなんかがあったよね?」
「ありますね。ちょっと待ってください」
カエデちゃんはそう言うと、キッチンに行った。
「お菓子の交換はいいね。平和だし、皆が幸せ」
俺もそう思う。
「チョコクッキーとポテチがありますけどー?」
カエデちゃんがキッチンから大きな声を出す。
「アルク、どっちがいい?」
「わかんないから両方。陛下とミーアに渡してみる。それで良い方を爆買いする」
多分、両方、爆買いだと思う。
ミーアはチョコクッキーが良いと言い、王様はポテチだろう。
「カエデちゃん、両方だってー」
「はーい」
カエデちゃんはそばにちょっと優しく寄り添ってくれそうなチョコクッキーとうすしおとコンソメのポテチを持って戻ってきた。
「どうぞ」
カエデちゃんはチョコクッキーとポテチをアルクに渡す。
「カエデ、ありがとー。じゃあ、ちょっと戻ってくるよ」
アルクはそう言うと、残っていたココアを飲み干し、一瞬にして消えていった。
「早いなー」
「先輩、アルクちゃんをもてなしましょう。あの子はとてもいい子だと思います」
カエデちゃんが黒いことを言っている。
「そうしよう。あいつは便利だし、ちょっと性格に難があるが、実にできた人間だ」
さすが次期王様。
「難があるんです? いい子だと思うんですけど」
「あいつ、挑発持ちだ。しかも、脅威のレベル6」
「6!? 先輩の剣術レベルと一緒じゃないですか!」
達人級の挑発だ。
「話してればわかるけど、あいつ、ナチュラルにひどいことを言うぞ。しかも、悪気も自覚もない」
非常にタチが悪い。
「意外です。とてもそんな風には見えませんけど」
「エレノアさんのことをおばさん呼ばわりしてきた」
「…………………………」
カエデちゃんが無言になった。
カエデちゃんは俺やヨシノさんの2個下だから微妙な気持ちになるんだろう。
だって、24歳はまだ十分に若いけど、アラサーという死の壁が見え始めているのだ。
それなのに中学生におばさんと言われれば傷つく。
男である俺でも傷ついたもん。
女はなおさらだろう。
「先輩が好きなぶりっ子の演技がしづらくなるな…………」
いや、君、素でぶりっ子じゃん。
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